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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十七章 歩み

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0396.橋と森の様子

 相棒のムラークが朝食の準備をする間、魔装兵ルベルは一夜の宿を提供してくれた(かし)の大木に登った。太い枝の上で足場を確保し、南東の方角を見る。

 朝靄に霞む森の向こうにプラヴィーク山脈が横たわり、その先の景色を遮った。


 「害意(がいい) 殺気 捕食者の姿 敵を捕える蜂角鷹(ハチクマ)(まなこ)

  敵を(のが)さぬ蜂角鷹(ハチクマ)(まなこ) (つまび)らかにせよ」


 術で拡大した視力で、プラヴィーク山脈の東側を見透す。【索敵】の眼が山塊を抜け、ネーニア島の南半分を覆うツマーンの森を越え、ネーニア島のほぼ南端に位置する北ヴィエートフィ大橋の姿を捉えた。朝の光を浴び、巨大な支柱と、そこから扇状に伸びて橋桁を支えるワイヤーが、白銀に輝く。


 魔装兵は視線をずらし、北ヴィエートフィ大橋の(たもと)を確認した。新たに配置された兵が警戒に当たる。

 大橋を閉ざす鉄扉がひしゃげて焼け焦げる。火の雄牛の火球でやられたのだろうか。代わりの扉はまだ未完成らしい。

 破壊された橋頭堡(きょうとうほ)の再建工事が行われ、重機が見えた。まだ早いからか、作業員の姿はなかった。


 大橋から一直線にアスファルトの二車線道路が延び、その両端には商店が並ぶ。橋に近い通りには、建物の基礎だけが残る。魔獣との戦いに巻き込まれた建物が撤去されたのだ。


 道路を手前に辿り、市壁と呼ぶにはあまりにも貧弱な土塀を越え、草原に出た。


 緑の絨毯が遮るものなく広がり、アスファルトの黒い帯が北へ伸びる。

 橋からの道は森に入り、西のプラヴィーク市から東のプラーム市を結ぶ真新しい道と合流した。周辺の木々が薙ぎ倒され、ここでも戦闘があったことが窺える。

 木々をヘシ折り、地面を踏み荒らしたのは、巨大な蹄だ。蹄の跡だけでも、大型トラックのタイヤ並の大きさで、全体がどのくらいか想像したくもない。



 魔装兵ルベルは、慎重に観察を続けた。

 道路脇に石碑がある。【魔除け】だ。道の上に掛かる枝は払われ、まだ新しいアスファルトの上に真夏の日射しが降り注ぐ。日射しを白く反射するセンターラインを越え、森の中を覗いた。


 ……ここも……居ない。


 枝葉が茂り、薄暗いツマーンの森にも、更に暗い薮にも、雑妖の姿はなかった。

 新たな道を通すのか、アスファルトの道からキレイにまっすぐ草木が取り除いてある。剥き出しの土の地面は少し焦げ、黒っぽく変色していた。


 ルベルの【索敵】の視線が、木々のない場所を辿る。

 道幅は、一車線分と言うには少し細い気がした。薬草採りや狩りの為の歩道かもしれない。更に道なりに視線を這わせる。


 「ムラーク、ちょっといいか?」

 「みつかったのかッ?」

 魔装兵ルベルが、森の道から視線を外さず声を掛けると、相棒の期待に満ちた声が返った。


 「いや……ひとつ聞きたいんだが」

 「何だ?」

 「道を作る術って、木や薮の処理……どうなってるんだ?」


 やや間があって、相棒の声が樫の上に投げられた。

 「確か、範囲を指定して、【根抜け】の術で引っこ抜くんじゃなかったか?」


 「じゃあ、道の上に突き出た枝は?」

 「それは、地道に手作業で伐り払うしかないらしいが……どうした?」


 土の道に差した枝葉の切り口は刃物によるものではない。焼き切られたように焦げるが、そこから先に燃え広がらなかったのが不思議だ。薮も、道に掛かる部分だけが不自然にすっぱり伐られ、同様に切り口が焦げる。

 森林火災の危険を冒してまで、わざわざ切り口を焼く理由が思い当たらない。


 「……痕跡をみつけたかもしれない」

 「ホントかッ?」


 魔装兵ルベルは【索敵】の術を解き、(かし)の木から飛び降りた。服に掛かった【浮遊落下】でゆっくり落ちる。

 大地に降り立つと、朝食の支度はすっかり整っていた。


 「食べ終わったら、行こう」

 相棒のムラークは「どこへ」とは聞かなかった。どこへでもついて行き、魔装兵ルベルを守り、補佐することがムラークに与えられた任務だ。


 ムラークは、【炉】の術で地面に火を(おこ)し、鍋にスープを作った。森で採れた野草と塩気の強い干し肉が煮える。マグカップに移して冷めるのを待つ間、堅パンを齧った。


 「この草、あっちにいっぱい生えてたから、昼の分も水抜きしといた」

 「有難う」


 ムラークが採取用の布袋を軽く叩き、木の上で何を見たか報告を促す。相棒のムラークは、ルベルの説明に無言で聞き入り、考え込んだ。



 「あれの攻撃って、そんなまっすぐ飛ぶもんなのか?」

 やがて発した問いに、魔装兵ルベルはネモラリス島南沖の旗艦オクルスから超遠距離の【索敵】で見た戦闘を思い起こした。


 防空艦レッススの甲板で、魔哮砲は操手の命令を受けて身体の形を変え、魔力を放出する。

 傘を裏返したような“口”から吐き出された魔力は、周辺の魔力の影響で引っ張られ、上空で拡散する。地上なら、地面に円を描いたり、塀や石碑などに組入れて魔力を範囲指定できるが、虚空ではそうはゆかなかった。【索敵】で捉えた遠くの敵機は、広がった魔力に呑まれ、爆発する。


 「放出してる内に広がってたけど、今回のは反対側の端っこを見てないから、まだ何とも言えないな」

 「まぁ、でも、手掛かりには違いない。【索敵】って近くまで行った方が見易いんだろ?」

 「うん。まぁ、あんまり近付くのは危険かもしれないけど」

 「よし、じゃあ、さっさと食って行こう」


 すっかり冷めたスープを食べ、鍋と食器を【操水】で洗って片付ける。【炉】の為に描いた円を踏み消し、落葉を掛けて痕跡を隠した。


 ……さて、どの辺に跳ぼうかな?


 印象に残った場所は、破壊された北ヴィエートフィ大橋の鉄扉、荒れ果てた商店街、森と平野の道の合流地点だ。大橋の(たもと)とモースト市の商店街は、ラクリマリス軍にみつかるので論外。その後の移動を考えても、道の合流地点……魔獣の踏み跡がいい。

 荷物を手早く片付け、しっかり背負う。

 「森の中の道と、大橋から続く道の合流地点に跳ぶ」

 魔装兵ルベルが手を差し出すと、相棒のムラークは頷き、力強く握った。さっき見た魔獣の踏み跡を鮮明に思い浮かべながら、【跳躍】の呪文を唱える。


 「鵬程(ほうてい)を越え、此地(このち)から彼地(かのち)へ駆ける。

  大逵(たいき)手繰(たぐ)り、折り重ね、一足(ひとあし)に跳ぶ。この身を其処(そこ)に」


 詠唱を終えると同時にネモラリス軍の魔装兵二人の姿が消えた。

☆巨大な蹄……「0299.道を塞ぐ魔獣」→「0303.ネットの圏外」参照

☆旗艦オクルスから超遠距離の【索敵】で見た戦闘……「0157.新兵器の外観」「0274.失われた兵器」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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