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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十七章 歩み

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0389.発信機を発見

 「最初、どっかこの辺の横についてたと思うんだが、右か左か忘れちまって」

 「あ、それ、こっちにもありましたよ」

 隣でアサルトライフルを組立てるロークが、ひょいと覗いて自分の分を見せる。丸くて小さい。ネジの頭を一回り大きくしたような金属部品だ。底が磁石で、鉄製の部分にくっつく。


 「何だこりゃ?」

 少年兵モーフが首を傾げると、拳銃を組立て終えたピナの兄貴も見に来た。

 「それってもしかして、発信機……じゃないかな?」

 スパイ映画で似たような物を見たことがあると言う。ロークがギョッとして、叫ぶように聞いた。

 「他の銃には付いてませんでしたかッ?」


 みんな改めて自分の銃を見る。

 武闘派ゲリラの一人が向かいの部屋に駆け込み、ソルニャーク隊長たちに発信機の件を報告する。


 ソルニャーク隊長と職人二人、オリョールと名乗った若い男が血相を変えて入ってきた。報告したおっさんは、その後ろでおろおろする。

 「モーフ、こちらの銃にはなかった。他はなかったか?」

 「はい。もう一回、調べたッスけど、なかったッス」

 「残りの銃も調べて来る」

 隊長と職人が武器庫へ走った。残ったオリョールが、苦々しく吐き捨てる。

 「前にわざと発信機付きの武器を掴まされて、拠点を潰されたんだ」

 「じゃあ、ここも危ないんスか?」

 「いや、支援者に調べてもらったら、電波が届く範囲は限られてるってわかったんだ。ここなら多分、届かない。その為に拠点を移したんだから」


 少年兵モーフは、発信機の電波が届く範囲がどのくらいか知らない。アーテル領の北端はランテルナ島で、間にはラキュス湖とラクリマリス王国領、クブルム山脈が挟まる。

 それに、この拠点がある北ザカート市の港には、ネモラリス共和国の正規軍が駐屯し、アーテル軍が来ても迎撃してくれる。廃墟でさえなければ、かなりいい所だと思えた。



 「予備の銃にも四つあった」

 ソルニャーク隊長たちと一緒に力ある民のゲリラも入ってきた。

 三人とも、オリョールと同じ大人の掌くらいの徽章(きしょう)を首から()げる。【急降下する(ワシ)】学派。魔法戦士の(あかし)だ。

 挿絵(By みてみん)

 魔法使いの徽章(きしょう)は何千年も昔、三界(さんかい)の魔物との戦いの時代、誰が何の術が得意かわかりやすくする為にこの大きさになった、と教えてもらった。

 昔の魔法の鎧なら、バッジとして(えり)に付けられたが、普通の服ではそうもいかない。それで大抵の人は鎖を通して首から提げるが、昔の名残でバッジとしての留め具も一緒に渡されると言う。


 モーフに徽章のコトを教えてくれたウルトールと言う男が言った。

 「オリョールさん、隊長さん、ひとつ考えがあるんだ。こいつの始末は俺に任せてくれないか?」

 「どうするつもりだ?」

 ソルニャーク隊長が聞くと、ウルトールはもう一人の陸の民の魔法戦士に声を掛けた。

 「パーリトルも手伝ってくれ。これをアーテルの首都に置いて来る」

 「あぁ、成程(なるほど)な。夜中に役所や警察署に置くんだな」

 パーリトルと呼ばれた髭面の魔法戦士が、わかった顔で頷いた。


 ……それで、どうなるんだ?


 モーフは余程、訳がわからないと言いたげな顔をしてしまったのだろう。魔法戦士ウルトールが、作戦の詳細を語った。

 「奴らも俺たちが【跳躍】で移動するのは知ってるからな。次にどこが狙われるか、今、どこに居るか、気になるから武器にこんなモン仕込んでワザと掴ませるんだよ」

 少年兵モーフが頷いてみせると、ウルトールは頷き返し、みんなを見回して続けた。

 「作戦とは関係ないトコに置いときゃ、撹乱できる」

 「ならば、警察署ではなく、市場など不特定多数が出入りする場所や、バスやトラックなどの移動する物に仕込んだ方が、時間を稼げる」

 ソルニャーク隊長が、作戦の修正案を出す。


 ウルトールは少し考えて、オリョールを見た。

 「そう言うモンなのか?」

 「……俺も、隊長さんに賛成だ。銃を持ってバスに乗ったら目につくし、ルートが限られてるから……長距離トラックだろうな」

 若いオリョールが更に修正した。

 力なき民のおっさんたちが、「なら、サービスエリアで休憩してる奴にくっつけりゃいいな」「車体下のごちゃごちゃしたとこがいいだろ」などと口々に付け加える。若い魔法戦士オリョールが、いちいちそれに頷いた。


 星の道義勇軍では、偉い人たちが作戦を決めて、それを各部隊の隊長に伝えて、少年兵モーフたち末端に実行させた。

 この武闘派ゲリラは、みんなが偉い人なのか、上意下達(じょういかたつ)ではなく、みんなで意見を出し合って作戦を決める。


 少年兵モーフはそれが不思議で、大人たちの遣り取りにじっと聞き入った。



 話がまとまるのを待ち、すっかり遅くなった昼食を摂る。

 老婦人シルヴァが持って来た缶詰や堅パンはたくさんあった。葬儀屋のおっさんが、森の近くで採ってきた野生の果物もある。


 ……こいつら、結構いいモン食ってんだな。


 この廃ビルも、モーフの実家のバラックより遙かに快適だ。魔法が使えれば、廃墟でさえこんなに居心地良くできる。


 「兄ちゃん、どんなパン焼けるんだ?」

 「どんなって……普通の食事パンとか、菓子パンとかですよ。普通のパン屋なんで、普通のパンです」

 食後のお茶はない。水を飲みながら、ゲリラの一人がピナの兄貴に聞く。しょっぱくない水は、これだけでも少年兵モーフにとってはご馳走だ。


 ……普通じゃねぇパンって何だよ?


 「普通じゃないパンなんてあるのか?」

 湖の民の魔法戦士ジャーニトルが、少年兵モーフと同じ疑問を口に出した。ピナの兄貴はジャーニトルの緑の髪を見て答える。

 「えぇ。普通じゃないって言うか、湖の民の人用の緑青(ろくしょう)パンとか、免許ないんで作れませんし、防災用のパンも設備がないんで」

 「防災用のパン?」


 ……なんだそりゃ?


 魔法戦士ウルトールが聞く。

 「堅パンじゃなくてか?」

 「缶詰用の長期保存パンです。ふかふかの状態で消費期限は確か……一年くらいだったかな?」

 「そんなのあんのか!」

 「製造コストが割高なんであんまり出回ってませんけど、お年寄りとか歯が生え揃ってない小さい子用に、病院とかに置いてありますよ」

 「へぇー」

 プロのパン屋の説明にみんな感心した。



 午後からは、また二部屋に分かれ、弾丸の込め方やカートリッジ交換の練習、銃の用途の説明や構え方の実演をした。

 「軽」機関銃とは言っても、弾丸カートリッジも含めれば十キロ以上ある。機関銃手二人は、その重量に苦労した。他の面々も、慣れない物の扱いにぎこちない動きで、少年兵モーフの実演を真似る。


 「立ってる時は基本、銃口を斜め下に向けて、暴発とかで同士討ちしないようにすんのが鉄則だ。それに、そう言う持ち方がラクなようにできてる」


 さっきは座ってゆっくり弾丸カートリッジの交換をしたが、今度は立って練習する。ごわごわした手袋を着けた手で、タクティカルベストの弾薬ポーチからカートリッジを取り出して交換するが、もう一方の手に持った銃の重量で手が震え、なかなか上手くゆかなかった。銃口を床につけて試みるが、手袋がごわついて溝に上手く()められず、カートリッジを落としてしまう。

 少年兵モーフは手を貸さず、彼らの悪戦苦闘をじっと見守った。


 「意外と重いし、難しいな、これ」

 高校生のロークが額の汗を(ぬぐ)い、武闘派ゲリラのおっさん連中が同意した。ピナの兄貴も、包丁よりずっと重い銃を片手で扱うのに四苦八苦する。


 「今まで全く何の訓練もなしにやってたが、そりゃ、ダメに決まってるよな」

 古参らしいおっさんがポツリとこぼす。


 まともな訓練があれば、もっと多くの仇を討てた。もっと多くの命を守れた。


 少年兵モーフは、そんな後悔めいたものを感じたが、聞かなかったフリで説明を続ける。

 「実戦じゃ、壁とかの遮蔽物に身を隠して、中腰とかしゃがんでとか、地面に這いつくばってとか、色んなカッコでできなきゃいけないんだ。ハンパなカッコですんの難しいから、まずは楽にできる座ってゆっくりと、立ってやんので慣れてくれよな」


 装弾練習を一時間程したところで、ソルニャーク隊長が顔を出した。

 「銃を携行した歩行訓練を兼ねて、東の草原へ素材採取に行く。十分後に出発。準備してくれ」

 「はいッ!」

 少年兵モーフは、背筋を伸ばして敬礼した。

☆拠点を潰された……「0269.失われた拠点」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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