表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十七章 歩み

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

395/3512

0388.銃火器の講習

 今日は午前中、手榴弾と銃の種類と用途の説明、防弾ベストの着方と銃の手入れを実演した。防弾ベストは数が充分あり、みんな着たまま作業する。重さに慣れるのも訓練の内だ。


 葬儀屋のおっさんは一人で、北ザカート市の東の荒地へ素材調達に行った。

 ソルニャーク隊長が説明を始める。武闘派ゲリラのおっさん連中は、子供みたいに大人しく聞いた。


 ……学校みてぇだな。


 誰にどの銃を使わせるかは、ソルニャーク隊長が決め、みんな素直に従う。拠点の空室で車座になり、銃の手入れを始めた。

 少年兵モーフも隊長の命令を受け、向かいの部屋で、ピナの兄貴と高校生のローク、クリューヴと力なき民たちに教える。

 「今日はモーフ君が先生だ。よろしくな」

 「先生……俺が?」

 ピナの兄貴に言われ、モーフは面食らった。兄貴は笑って頷いたが、続く言葉は真剣だ。

 「誰かに何か教えるんだから、先生だよ」

 兄貴の言葉にロークだけでなく、ゲリラのおっさん連中も真顔で頷き、説明の続きをせっつかれた。


 ……隊長が、俺に教えてもらえって命令したからかな。


 少年兵モーフはそう納得し、銃の種類毎に説明する。

 体格がごつくて実際、力が強いおっさん二人には軽機関銃、クリューヴと残りの力なき民には自動小銃、ロークはアサルトライフル、ピナの兄貴はリボルバー式の拳銃だ。

 人数の多い銃から始め、兄貴とロークには待ってもらった。


 「俺のだけ、随分小さいな……って言うかこれ、軍じゃなくて警察のだろ?」

 流石に素人でもそのくらいは知っていた。ピナの兄貴は困った顔で口許に苦笑を浮かべる。


 少年兵モーフは、ソルニャーク隊長がこんな物を割り当てた理由に察しがついたが、テキトーに他の理由をでっち上げた。

 「店長さんは職人だから、後方支援してくれってコトじゃないんスか?」

 「後方支援? 俺、パン職人だぞ?」


 「兄ちゃん、長命人種なのか?」

 何故かゲリラのおっさんが食いついた。レノ店長は、おっさん連中に困り顔を向けて首を振る。

 「俺も力なき民ですよ」

 「じゃあ、ホントにそんな若ぇのに、いっちょ前の店構えてんのか?」

 「そりゃすげぇ」

 「……父さんが空襲で亡くなったからですよ。店も焼けたし、店長ったって」


 (うつむ)いたレノ店長をロークが励ます。

 「でも、トラックで移動販売して、設備も道具も全然足りないのに、ちゃんとおいしくって、お客さんたちも喜んでたし、お屋敷の人たちは店長さんが作ったパンとお菓子、おいしいって褒めてたじゃないですか」

 「そりゃ、お前、後方支援だ」

 「婆さんに言って小麦粉と……後、何だ? 材料調達してもらって、ここでパン焼いて待っててくれ」

 「何でそうなるんですか?」

 荒んだゲリラたちが口々に言い、レノ店長はますます眉を下げ、少年兵モーフに助けを求める目を向けた。


 「食いモンの調達って、軍じゃ重要事項なんスよ。隊長は念の為、護身用に拳銃だけってつもりなんじゃないんスか?」

 「腹が減っては(いくさ)はできぬってな」


 ……親と店の仇討ちじゃなくて、ピナたちを守る力が欲しいだけなら、それで充分だよ。


 少年兵モーフは安全装置を確認し、拳銃の弾の込め方と抜き方を先に説明した。

 「まっくらなトコでも、他所見(よそみ)しながらでもできるように練習しててくれよな」



 改めて他のみんなに自動小銃の扱いを説明する。

 少年兵モーフはリストヴァー自治区の廃工場で、ソルニャーク隊長ら、星の道義勇軍の先輩たちから教わったことを思い出し、そっくりそのまま言った。


 「早く撃ち方を知りてぇだろうけど、辛抱して聞いてくれ。銃って機械だから、ちゃんと整備してから使わねぇと、自分が危ねぇんだ」

 銃身や弾倉内のゴミと汚れを取り、必要な所に油を塗っておかなければ、動作不良を起こすこと。戦闘中に弾詰まりを起こせば、その隙に敵の攻撃を受けること。どんな状況でも弾丸の補充ができなければ、戦闘を続けられないこと。


 武闘派ゲリラのおっさん連中は、先日の(すさ)んだ様子とは打って変わって、少年兵モーフの説明にしっかり耳を傾けた。

 「戦闘中以外は絶対、ここに付いてる安全装置をこっち側にして、しっかり留めてくれ。でないと同士撃ちとか、自分が怪我したりすっから」

 「戦闘が始まったら、外すの忘れないようにせにゃな」

 ゲリラの一人がモーフの説明に頷きながら言った。


 武闘派ゲリラのおっさん連中も、星の道義勇軍の大人たちや、ピナの兄貴たちのようにモーフの話をちゃんと聞いてくれる。

 リストヴァー自治区の工場では、下っ端の工員でさえ、モーフが子供だからと言う理由で、何を言っても一切耳を貸さなかった。


 ……ガキの言うコトだって、バカにしねぇんだな。


 頭の片隅でそんなコトを考えながら、自動小銃を付属の小さな工具でバラしてみせる。

 「そんなとこに工具がくっついてたのか」

 「うん。いつでもどこでも、手入れできるようになってんだ」


 呪符職人に用意してもらったボロ布に機械油を少量含ませ、付属の棒で銃身の内部を磨いた。一人ずつ、安全装置の確認、工具の取り外し、銃の分解までを横について細かく指示する。手先が器用なおっさんも居れば、不器用なおっさんも居る。少年兵モーフは辛抱強く、同じ説明を繰り返した。

 向かいの部屋では、ソルニャーク隊長が、職人と力ある民のゲリラに武器の扱いを説明する。



 説明と手入れだけで午前中が潰れた。何とか組立て直す所まで説明が終わり、少年兵はホッとして座り直す。


 「なぁ、先生さんよぉ。この部品、どの辺にくっついてたっけな?」

 不器用なおっさんが、困り切った顔でモーフを呼んだ。「先生さん」などと呼ばれ、微妙な気持ちになったが、おっさんの傍に寄る。

 ごつい(てのひら)にあるのは、見たこともない部品だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ