0388.銃火器の講習
今日は午前中、手榴弾と銃の種類と用途の説明、防弾ベストの着方と銃の手入れを実演した。防弾ベストは数が充分あり、みんな着たまま作業する。重さに慣れるのも訓練の内だ。
葬儀屋のおっさんは一人で、北ザカート市の東の荒地へ素材調達に行った。
ソルニャーク隊長が説明を始める。武闘派ゲリラのおっさん連中は、子供みたいに大人しく聞いた。
……学校みてぇだな。
誰にどの銃を使わせるかは、ソルニャーク隊長が決め、みんな素直に従う。拠点の空室で車座になり、銃の手入れを始めた。
少年兵モーフも隊長の命令を受け、向かいの部屋で、ピナの兄貴と高校生のローク、クリューヴと力なき民たちに教える。
「今日はモーフ君が先生だ。よろしくな」
「先生……俺が?」
ピナの兄貴に言われ、モーフは面食らった。兄貴は笑って頷いたが、続く言葉は真剣だ。
「誰かに何か教えるんだから、先生だよ」
兄貴の言葉にロークだけでなく、ゲリラのおっさん連中も真顔で頷き、説明の続きをせっつかれた。
……隊長が、俺に教えてもらえって命令したからかな。
少年兵モーフはそう納得し、銃の種類毎に説明する。
体格がごつくて実際、力が強いおっさん二人には軽機関銃、クリューヴと残りの力なき民には自動小銃、ロークはアサルトライフル、ピナの兄貴はリボルバー式の拳銃だ。
人数の多い銃から始め、兄貴とロークには待ってもらった。
「俺のだけ、随分小さいな……って言うかこれ、軍じゃなくて警察のだろ?」
流石に素人でもそのくらいは知っていた。ピナの兄貴は困った顔で口許に苦笑を浮かべる。
少年兵モーフは、ソルニャーク隊長がこんな物を割り当てた理由に察しがついたが、テキトーに他の理由をでっち上げた。
「店長さんは職人だから、後方支援してくれってコトじゃないんスか?」
「後方支援? 俺、パン職人だぞ?」
「兄ちゃん、長命人種なのか?」
何故かゲリラのおっさんが食いついた。レノ店長は、おっさん連中に困り顔を向けて首を振る。
「俺も力なき民ですよ」
「じゃあ、ホントにそんな若ぇのに、いっちょ前の店構えてんのか?」
「そりゃすげぇ」
「……父さんが空襲で亡くなったからですよ。店も焼けたし、店長ったって」
俯いたレノ店長をロークが励ます。
「でも、トラックで移動販売して、設備も道具も全然足りないのに、ちゃんとおいしくって、お客さんたちも喜んでたし、お屋敷の人たちは店長さんが作ったパンとお菓子、おいしいって褒めてたじゃないですか」
「そりゃ、お前、後方支援だ」
「婆さんに言って小麦粉と……後、何だ? 材料調達してもらって、ここでパン焼いて待っててくれ」
「何でそうなるんですか?」
荒んだゲリラたちが口々に言い、レノ店長はますます眉を下げ、少年兵モーフに助けを求める目を向けた。
「食いモンの調達って、軍じゃ重要事項なんスよ。隊長は念の為、護身用に拳銃だけってつもりなんじゃないんスか?」
「腹が減っては戦はできぬってな」
……親と店の仇討ちじゃなくて、ピナたちを守る力が欲しいだけなら、それで充分だよ。
少年兵モーフは安全装置を確認し、拳銃の弾の込め方と抜き方を先に説明した。
「まっくらなトコでも、他所見しながらでもできるように練習しててくれよな」
改めて他のみんなに自動小銃の扱いを説明する。
少年兵モーフはリストヴァー自治区の廃工場で、ソルニャーク隊長ら、星の道義勇軍の先輩たちから教わったことを思い出し、そっくりそのまま言った。
「早く撃ち方を知りてぇだろうけど、辛抱して聞いてくれ。銃って機械だから、ちゃんと整備してから使わねぇと、自分が危ねぇんだ」
銃身や弾倉内のゴミと汚れを取り、必要な所に油を塗っておかなければ、動作不良を起こすこと。戦闘中に弾詰まりを起こせば、その隙に敵の攻撃を受けること。どんな状況でも弾丸の補充ができなければ、戦闘を続けられないこと。
武闘派ゲリラのおっさん連中は、先日の荒んだ様子とは打って変わって、少年兵モーフの説明にしっかり耳を傾けた。
「戦闘中以外は絶対、ここに付いてる安全装置をこっち側にして、しっかり留めてくれ。でないと同士撃ちとか、自分が怪我したりすっから」
「戦闘が始まったら、外すの忘れないようにせにゃな」
ゲリラの一人がモーフの説明に頷きながら言った。
武闘派ゲリラのおっさん連中も、星の道義勇軍の大人たちや、ピナの兄貴たちのようにモーフの話をちゃんと聞いてくれる。
リストヴァー自治区の工場では、下っ端の工員でさえ、モーフが子供だからと言う理由で、何を言っても一切耳を貸さなかった。
……ガキの言うコトだって、バカにしねぇんだな。
頭の片隅でそんなコトを考えながら、自動小銃を付属の小さな工具でバラしてみせる。
「そんなとこに工具がくっついてたのか」
「うん。いつでもどこでも、手入れできるようになってんだ」
呪符職人に用意してもらったボロ布に機械油を少量含ませ、付属の棒で銃身の内部を磨いた。一人ずつ、安全装置の確認、工具の取り外し、銃の分解までを横について細かく指示する。手先が器用なおっさんも居れば、不器用なおっさんも居る。少年兵モーフは辛抱強く、同じ説明を繰り返した。
向かいの部屋では、ソルニャーク隊長が、職人と力ある民のゲリラに武器の扱いを説明する。
説明と手入れだけで午前中が潰れた。何とか組立て直す所まで説明が終わり、少年兵はホッとして座り直す。
「なぁ、先生さんよぉ。この部品、どの辺にくっついてたっけな?」
不器用なおっさんが、困り切った顔でモーフを呼んだ。「先生さん」などと呼ばれ、微妙な気持ちになったが、おっさんの傍に寄る。
ごつい掌にあるのは、見たこともない部品だった。




