表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十七章 歩み

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

386/3503

0379.手の届く機会

 ソルニャーク隊長の言う通り、今日一日は武器庫の片付けで終わった。ロークは拍子抜けしたが、内心ホッとした。


 ……本格的に戦い方を習ったら、基地の襲撃に参加させられるんだろうな。


 ヴィユノークたちの仇を討ちたかったが、いざ、その機会が現実に手の届く所へ置かれると、尻込みしてしまった。

 今日、片付けた手榴弾のイヤな重み、弾丸の冷たい存在感、防弾ベストのずっしりした手応えが、まだ腕に残る。


 当たり所が悪ければ、一発の弾丸でも人は死ぬ。


 あの大量の弾薬で、何人の命を消せるのか。

 殺傷力のない音響閃光弾(スタングレネード)でも、アーテル軍の兵士を行動不能にして、武闘派ゲリラが呪文を唱える時間を稼げる。


 事務机の上で無造作に並ぶ自動小銃やアサルトライフル、拳銃。あのテロの日、ロークの実家を拠点として休息した星の道義勇軍も、同じ物を持って来た。

 星の道義勇軍のテロリストたちは、ゼルノー市を焼き払い、大勢の市民を殺せたと祝杯を上げた。ロークの母は酒と肴で彼らをもてなし、祖父と父は、彼らが嬉しそうに語る戦果を熱心に聞いた。


 ……俺、人間相手に引鉄(ひきがね)……引けるのかな?


 部屋の中央に置かれた機関銃の銃口に身が(すく)んだ。ロークより年下の小柄なモーフは、星の道義勇軍の少年兵として、トラックの荷台で同型の機関銃を弾が切れるまで撃ち続けた、と言った。


 どんな訓練をすれば、人間に銃口を向けられるようになるのか。ロークには、全く想像がつかない。


 少年兵モーフに淡々と説明され、ロークは何も言えなくなった。

 中学生くらいの小柄な少年に引鉄(ひきがね)を引く選択をさせてしまった。ネモラリス政府がリストヴァー自治区に棄民政策を採っても、自治区外で暮らすロークら隠れキルクルス教徒がもっと支援すれば、あんなことをせずに済んだだろう。


 少年兵モーフが澱みなく、弾丸の種類や用途、互換性の有無を説明する。ロークは申し訳ない思いで聞いた。レノ店長が頷きながら、熱心にメモを取る。

 「じゃあ、互換性あるのとないのは、別の箱に入れた方がいいよな」

 レノ店長が提案すると、少年兵モーフは少し考えて頷いた。実際、使う時にどうすればいいかわからないので、ロークは何も言わなかった。ソルニャーク隊長が何も言わないので、提案通りで構わないのだろう。


 ……店長さん、本気でアーテル軍と戦うつもりなのか?


 夕方、ソルニャーク隊長と少年兵モーフ、レノ店長とロークは、葬儀屋アゴーニと職人二人、武闘派ゲリラのクリューヴに【跳躍】してもらい、ランテルナ島の拠点に帰った。



 「じゃあ、また明日」

 クリューヴはネーニア島の廃墟の拠点へ戻る。武器職人と呪符職人は、クリューヴが再び【跳躍】の呪文を唱えて姿を消した跡に手を振った。


 「お二人は、帰らないんですか?」

 レノ店長が聞くと、二人は苦笑を浮かべた。

 「そんな顔すんなよ。昨日も言ったろ。あいつらとは気が合わねぇって」

 「食料は持ってるし、部屋も余ってる。僕らは勝手にやらせてもらうよ」

 職人二人は、さっさと扉を開けて別荘に入ってしまった。


 ロークたちの力では、魔法使いの彼らを力ずくで追い出せない。道義的にも無理だ。

 一日共に過ごし、二人が他のゲリラのように荒んでいないとの感触を得た。冷静な職人二人には、好戦的な武闘派の怖さは感じないが、別の怖さを感じる。ロークは、それが何なのかわからず、なるべく二人とは関わりたくなかった。


 葬儀屋アゴーニが肩を(すく)め、中へ促す。

 野菜畑の茄子やトマトは実が色付き、大きくなってきた。


 「お兄ちゃあぁんッ!」

 扉を開けると、レノ店長の小さい妹が飛び出して来た。少し遅れて、大きい妹も駆け寄る。店長と仲がいい工員クルィーロとアマナの兄妹も出てきた。

 姉妹がレノ店長にがっしり抱きつき、言葉もなく兄の無事を喜ぶ。クルィーロたちも泣き笑いのような顔でレノ店長を迎えた。


 「これ、薬草と木の実」

 レノ店長は、膨らんだ手提げ袋を上げてみせた。葬儀屋アゴーニが、武闘派ゲリラと共にクブルム山脈の裾野に広がるレサルーブの森で採ってきてくれたものだ。妹たちを心配させまいとのやさしい嘘を手伝い、葬儀屋は口を(ぬぐ)う。

 彼女らも薄々分かっているだろうが、知らぬフリで兄のやさしさを受け容れた。



 夕飯には、アゴーニが獲った野兎の焼肉が出た。何のかんの言って、職人たちも共に食卓を囲む。

 「今日は隊長さんたちのお陰で、部屋がすごい片付いて助かったよ。これ、少ないけど、みんなでどうぞ」

 食後のお茶で、呪符職人が干し杏を大皿に盛った。一人二、三個はありそうだ。片付けを手伝ったレノ店長が、戸惑いながらも礼を言う。


 「信用ないな。毒なんざ入ってねぇよ。俺らがあんたらをどうにかしても、何の得にもならんだろ?」

 武器職人は、ひとつ口に放り込んで、疑わしげな目を向ける女の子たちに笑ってみせた。

 少年兵モーフが、遠慮なく干し杏を頬張る。女の子たちは、それを見てやっと手を伸ばし、小さく齧った。


 「今日、こっちの方はどうでした?」

 レノ店長が、呪医セプテントリオー、薬師(くすし)アウェッラーナ、工員クルィーロ、針子のアミエーラへ順に視線を向けて聞いた。

☆ヴィユノークたちの仇……「0034.高校生の嘆き」参照

☆あのテロの日……「0036.義勇軍の計画」「0048.決意と実行と」参照

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ