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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十七章 歩み

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0376.連絡係の青年

 三人が廊下へ出ると、玄関が開いた。アミエーラたちは、ゲリラが戻ったかと立ち(すく)む。玄関に立つ金髪の若者が、愛想のいい笑顔で小さく手を振った。

 「こんにちは。呪医(せんせい)は書斎かな? あ、俺は武闘派とは別グループの連絡係」

 印象の薄い顔立ちの若者は、声もなく固まる三人をしばらく眺めたが、小さく溜め息を()いて入ってきた。案内なしで、書斎の扉をノックする。


 「ラゾールニクです。呪医(せんせい)居ますか?」

 中から一言二言、(いら)えがあり、ラゾールニクと名乗った青年は書斎に入った。扉が閉まると同時に力が抜ける。アミエーラは、パン屋の姉の肩をとんとん叩き、台所へ促した。


 食堂の扉が開き、香草茶の爽やかでやさしい香りが三人を迎えた。扉を開けたアマナが、一拍遅れて言う。

 「今、迎えに行くとこだったの。アウェッラーナさんがお茶にしようって」


 薬師(くすし)アウェッラーナだけでなく、工員クルィーロと運転手メドヴェージも居る。

 クルィーロは工場の青いツナギから、今できたばかりのズボンとTシャツに着替えていた。薄紅色のTシャツの左胸には、小さな金槌が刺繍してある。白いズボンの丈は、採寸通りぴったりで、薄紅色のTシャツによく馴染む。


 「お似合いですよ。その色、アマナちゃんが選んだんです」

 「えぇ、さっき本人からも聞きました」

 アミエーラが褒めると、クルィーロははにかんだ。アマナも照れて頬を染める。つられてパン屋の姉妹も笑みをこぼし、湖の民アウェッラーナも微笑んだ。

 「兄ちゃん、男前が上がってよかったなぁ」

 メドヴェージが言うと笑いが弾け、クルィーロは頭を掻いた。


 「そっちはどうですか?」

 「傷薬はたくさんできました。熱冷ましと咳止めも。……他にも作ったんですけど、ここの薬草園の素材で作った物は、シルヴァさんにお渡しする約束なので」

 アミエーラの問いに、薬師アウェッラーナが言葉を濁す。トラックを入れられる魔法の袋代には程遠いのだろう。


 ピナティフィダから作業の前、レノ店長は「素材を採りに行く」と言ったと聞いた。武闘派ゲリラのもうひとつの拠点は、ネーニア島の西端にある北ザカート市の廃墟だ。そんな所でどんな素材が採れるのか。

 アミエーラはレノ店長のやさしい嘘だと思ったが、姉妹がそれで無理にでも自分を納得させたらしいので、余計なコトは言わなかった。


 「さっき、誰か来なかったか?」

 一人で蔓草(つるくさ)細工を作っていたメドヴェージが、話題を変えてくれた。パン屋の姉妹が身を固くする。アミエーラは、香草茶の香気を吸い込み、自分を落ち着かせて答えた。


 「はい、あの、武闘派じゃないグループの連絡係だって言う男の人が来ました」

 「そいつぁ、まだ居んのか?」

 メドヴェージだけでなく、魔法使いのアウェッラーナとクルィーロにも緊張が走る。一人で来たと言うことは、あの若者も魔法使いなのだ。

 魔力がなければこの別荘を囲む【結界】を越えられない。少なくとも、【魔力の水晶】か何か、魔法の道具を携帯するのだ。


 アミエーラは、香草茶の効力で気持ちを落ち着かせて答えた。

 「呪医(せんせい)に用があるって書斎に行かれましたよ」

 「ん? なんだ、あの兄ちゃんか」

 メドヴェージが拍子抜けした声で言う。丁度そこへ、当の本人が顔を出した。金髪の若者が、露草色(ラゾールニク)の瞳で食卓の面々を見回して笑う。

 「はーい、あの兄ちゃんでーす。君たち、これで全員?」

 「残っているのは、これで全員です」

 緑髪の呪医が食堂に入りながら言い、最後のファーキルが扉を閉めた。


 クルィーロが、立とうとしたアウェッラーナを手振りで止め、練習したいと台所へ行く。彼は最近、新しい術を覚え、既に習った術のおさらいもする。


 魔法使いの工員は、ほんのり色付いた湯を宙に漂わせ、三人分の茶器を手にして戻った。呪医とファーキル、陸の民の若者の前に置いたカップに香草茶を注ぐ。

 アミエーラもすっかり見慣れた【操水】の術だ。香草茶が生き物のように動き、一滴もこぼさずカップに納まった。


 「おっ、ありがと。初めましての人も居るから、自己紹介しとこう」

 陸の民の若者は、クルィーロに笑顔で礼を言った。

 「俺はラゾールニク。武力以外の方法で戦争終わらせたいチームの連絡係だ。よろしくな」

 連絡係に名乗られたが、みんなは困惑した顔を見合わせるだけで、名乗らなかった。ラゾールニクは大して気に留めず、話を続ける。


 「あ、無理に名乗んなくていいいから。今日、ここに来たのは、みんなに歌とか聞いて欲しいからなんだ」

 「歌?」


 メドヴェージの疑問に、ラゾールニクだけでなく、呪医とファーキルも頷く。ラゾールニクは、ファーキルの物より一回り小さい板を食卓に置き、表面を撫でた。

 「これ覚えて、あっちこっちで広めて欲しいんだ」

 ラゾールニクが板をちょいちょいつつくと、ホイッスルが食堂に鳴り響いた。続いて、聴き慣れた前奏が流れる。


 ……国民健康体操?


 「あっ……!」

 前奏の後に続く合唱に幾つもの驚きの声が重なった。

☆国民健康体操……「0275.みつかった歌」「0290.平和を謳う声」「0291.歌を広める者」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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