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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十六章 連携

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0368.装備の仕分け

 「モーフ」

 「はいッ!」

 ソルニャーク隊長に呼ばれ、少年兵モーフは背筋を伸ばした。

 「モーフは手榴弾の(たぐい)と弾丸、防具の整理と分類。呪符職人さんも、モーフの指示に従ってくれ」

 「僕が使うんじゃないけど、いいのかな?」

 「渡す時に説明すればいい」

 「成程(なるほど)。後方支援、ね」

 小柄な呪符職人がモーフの隣に来た。大人としては小柄だが、モーフより頭ひとつ分高い。ピナの兄貴とロークも、少年兵モーフに教わることになった。


 ……俺が、年上の人たちに教えるだって?


 困惑したが、この三人は物わかりがよさそうだ。倉庫で下働きした時を思い出して指示を出す。

 「えーっと、まず、一種類ずつ行こう。防弾べストも何種類かあるっぽいから、取敢えず……服系の奴だけ全部、箱から出して、廊下に積んでくれ……下さい」

 「はい」

 三人はさっと分かれて次々と段ボールから防弾べストや手袋、ヘルメットを取り出した。モーフも作業に加わる。


 「手榴弾のピンを引っ掛けて外さんようにな」

 ソルニャーク隊長に注意され、みんなは一瞬、手を止めて頷く。

 葬儀屋が戻るのを待つ間、武器職人は四人の作業を興味深げに見守るだけで、手伝いはしなかった。



 防具を廊下に出し終えた頃、アゴーニは陸の民を一人だけ連れて戻った。徽章(きしょう)がない。話が通じそうな普通の人だ。両肩に何丁も自動小銃を掛け、葬儀屋の後をよたよたついて来る。


 ソルニャーク隊長が銃を受け取ると、男は礼を言って名乗った。

 「俺、クリューヴって言います。一応、魔法は使えるんですけど、以前の作戦で大怪我しちゃって、戦闘には向いてないなって思って、こっち手伝います」

 「そうか。俺はソルニャークだ」

 相手に名乗られ、隊長が呼称を名乗った。少年兵モーフは、自分も名乗った方がいいと思ったが、隊長に目顔で制され何も言わなかった。ピナの兄貴とロークも名乗らない。


 ソルニャーク隊長はいつも通り、クリューヴにも、作業の理由と目的を告げた。

 「手持ちの武器の数と種類がわからなければ、作戦を立案できず、訓練計画も立てられん。まずは武器庫の整理からだ」

 「あ、じゃあ、みんなを呼んできましょうか?」

 「いや、いい。狭いからな。あまり大人数では却って作業し(にく)い」

 隊長が、行きかけたクリューヴをさっきと同じ説明で呼び止める。

 クリューヴは、ごちゃついた室内を見回して頷いた。



 ソルニャーク隊長が、事務机に積まれた銃を全部床に下ろすよう、武器職人とクリューヴに指示する。近くの抽斗(ひきだし)を開け、ボールペンとメモ帳の束を取り出し、自分も作業に加わった。

 葬儀屋アゴーニは作業を少し眺めたが、手伝わずに部屋を出て行く。

 「今日は一日、片付けだな。他の連中は素材集めに行ってもらうぞ」

 「そうしてくれ」

 ソルニャーク隊長は葬儀屋に任せ、作業を続けた。


 モーフたちは、廊下に出した防具の分類に取り掛かった。

 ヘルメットが二種類、防刃材入りの指なし手袋、防刃ベスト、防弾ベストは三種類ある。

 ピナの兄貴たちは、何も言わなくてもヘルメットと手袋は分けてくれたが、ベスト四種はごちゃ混ぜだ。


 「服は、四種類あるみてぇだ。刃物を防ぐ奴と、(たま)防ぐ奴。弾用のは、板を出したり入れたりできる奴と、こうやって、予備の弾を持てるようになってる奴」

 「それも、分けるんだね」

 呪符職人に当たり前のことを聞かれ、少年兵モーフは無言で頷いた。間違えて違う物を着て行けば、助かる筈の生命を無駄に捨ててしまう。


 職人はベストを一枚ずつ持ち上げ、広げて見せながら質問を重ねる。

 「これは防刃、防弾どっち?」

 「板を足せる防弾。中の大きいポケットに板を入れるんだけど、板がねぇからダメだな」

 「ふーん。要らないんなら、素材としてもらってもいいよね」

 「えっ……?」


 少年兵モーフは返事に困り、部屋を覗いた。ソルニャーク隊長は、作業しながらでもちゃんと話を聞いて、頷いてくれた。モーフはホッとして了承を伝える。

 「いいってさ」

 「そっか。そりゃどうも」

 呪符職人が、使い物にならない防弾ベストをかき集める。レノ店長とロークは、何も言われない内から職人を手伝った。

 少年兵モーフは、いちいち指図しなくても、みんなが動いてくれることに安堵と不安を覚えた。


 ……俺、別に要らないんじゃね?


 「防弾ベストって結構、重いんだね。こんなの着て動けるのかな?」

 ロークが予備弾用のベルトが付いた防弾ベストを持ち上げ、不安を口にする。金属板入りだから、重くて当たり前だ。ここには、タングステンの網が入った軽量型はないらしい。



 星の道義勇軍がゼルノー市に攻勢を掛けた時は数が足りず、ソルニャーク隊長の部隊には、一枚も回って来なかった。

 ネモラリス軍の主力は魔装兵で、力ある民の一般兵も主に魔法で戦う。銃は予備の武器扱いで、力なき民の兵士は後方支援中心だから、少年兵モーフも他の隊員たちも、あの時は全く気にしなかった。



 だが、今回は違う。銃火器の扱いに長けたアーテル軍が相手だ。

 星の道義勇軍は、映像でアーテルとラニスタに軍事教練を受けた。戦術をよく知るだけに、恐ろしさが現実のものとして少年兵モーフの心を刺す。


 ……ピナの兄ちゃん、本気で戦場に出る気かよ。


 少年兵モーフはベストを分類しながら、ピナの兄貴をチラリと見た。ベストの肩をつまんで持ち上げ、種類を確認して、同じ物の上に重ねる。

 ロークとの筋トレで、高校生もそれなりに身体を鍛えるとわかったが、彼らには戦闘訓練の経験がない。魔力もなく、今までずっと、逃げるしかなかった。

 最近は【魔力の水晶】があれば使える魔法を練習するが、ちんたら呪文を唱える間に撃たれたら終わりだ。


 実際、星の道義勇軍は、そうやってゼルノー市に進撃し、東部の三地区をほぼ制圧する所まで行けた。少年兵モーフも自動小銃で、魔法使いの市民を数えきれないくらい(ほふ)った。

 モーフは、リストヴァー自治区を踏みつけにして、のうのうと暮らす連中に一泡吹かせられるなら、生命なんか惜しくないと思って戦った。身を守る気がさらさらなかったから、防具が回って来ないのも、全く気にならなかった。


 ……どうやりゃ、ピナの兄ちゃんを守れるんだ?


 自分の身も守れないのに他の誰かを守ろうなんて、烏滸(おこ)がましいのはわかっている。それでも、何としてでもピナの兄貴を守りたかった。



 「じゃあ、次、弾とかを分けよう」

 後でソルニャーク隊長に相談することにして、少年兵モーフは部屋に入った。

 こちらの部屋には、アサルトライフルと遠距離狙撃用のライフル、リボルバー式の拳銃が集めてある。

 隊長たちは、機関銃の部屋で仕分けの続きだ。


 「箱から全部出して、同じ奴をまとめて……あ、手榴弾のピン抜かねぇように気を付けて」

 「うん、わかった」

 呪符職人は気軽に応じ、レノ店長と高校生のロークも頷いて作業に掛かる。


 「さっき、隊長さんが殺傷力のない手榴弾が混ざってるって言ってたけど、そんなのあるんだ?」

 「ん? うん。これ」

 レノ店長に聞かれ、少年兵モーフは箱から一個取り出した。

 「音響閃光弾(スタングレネード)。すげぇ光と音で、ちょっとの間だけ戦闘不能にする奴。ジジババや病人、ガキとかはショック死するかもしんねぇけど」

 「どう言う時に使うの?」

 呪符職人も食いついた。


 「敵を生け捕りにしてぇ時とか、狭いとこで不意打ちして、確実に全滅させたい時とか、色々」

 「ふーん」

 「こっちは催涙弾。ガスで涙止まんなくして、しばらく目潰しする奴。ガスマスクねぇから、これも使えねぇな」

 「あ、それ、偶に新聞に載ってるよね。警察が暴徒を鎮圧する用のでしょ?」

 ロークが何気なく言った。

 少年兵モーフは字が読めない。曖昧な顔で否定も肯定もしなかった。



 そんな調子で、手榴弾と銃弾の分類と整理を終え、少年兵モーフはソルニャーク隊長に報告した。

 「そうか。ご苦労。数量を確認する間、休憩してくれ」

 「はいッ!」

 隊長に(ねぎら)いの言葉を掛けられ、少年兵モーフは、少し誇らしいような気持で背筋を伸ばした。


 ロークが呪符職人に聞く。

 「さっきのあれ、どうするんですか?」

 「あれ? ……あぁ、服? 中のポケットに呪文を刺繍したら、ちょっとした鎧になるよ」

 「今着てる服じゃ、ダメなんですか?」

 「ダメってコトはないけど、着てる間ずっと魔力を消耗するから、脱ぎやすい方がいいだろ」

 「そう言うもんなんですか」

 ロークとピナの兄貴が同時に言うと、武器職人も頷いた。


 ……どの(みち)、ピナの兄ちゃんは力なき民だから、魔法の鎧使えねぇし。


 どうすれば、ピナの兄貴を守れるか。

 少年兵モーフはそればかり考えて、すっきり片付いた武器庫を眺めた。

☆ロークとの筋トレ……「0329.高校式筋トレ」参照


☆最近は【魔力の水晶】があれば使える魔法を練習

 【霊性の鳩】学派の【魔除け】【簡易結界】【灯】【退魔】、【飛翔する蜂角鷹】学派の【不可視の盾】……「0292.術を教える者」「0293.テロの実行者」参照

 【青き片翼】学派の呪歌【癒しの風】……「0348.詩の募集開始」参照


☆東部の三地区をほぼ制圧……「0020.警察の制圧戦」「0034.高校生の嘆き」「0049.今後と今夜は」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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