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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十六章 連携

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0360.ゲリラと難民

 「この子らは、俺と呪医(せんせい)、シルヴァさんの客人だ。よく心得てくれよ」

 古参のゲリラは葬儀屋アゴーニの言葉に頷いたが、新参者は薄く笑ってネモラリス難民を眺めた。

 ゲリラの一人が、湖の民アウェッラーナの徽章(きしょう)に目を留める。枝に留まった(フクロウ)薬師(くすし)【思考する梟】学派の証だ。

 挿絵(By みてみん)

 「姐ちゃん、薬師なのか。ひょっとして、あの傷薬は」

 「はい。私が作りました」

 薬師アウェッラーナは、警戒心も露わにネモラリス人の有志ゲリラを見回した。



 最初、庭に現れたのは数人だった。

 レノが台所の窓から様子を見ていると、その内の何人かがどこかへ【跳躍】し、次々と人を連れてきた。最後に葬儀屋アゴーニが戻り、彼らを別荘に入れたのだ。

 レノたち移動販売店プラエテルミッサの一行は、アゴーニに呼ばれ、この部屋に集められた。左右に分かれて相対する。

 葬儀屋は、双方に紹介するつもりだったようだが、到底そんな暢気なことを言える空気ではなかった。


 「その人、仕事は薬師(くすし)ですけど、癒しの術も色々使えますよ」

 レノは勇気を振り絞って、アウェッラーナが癒し手であると告げた。


 武闘派ゲリラは、アゴーニを除いて十七人。三人が湖の民、残りは陸の民。全員男性で、外見上の年齢はまちまちだ。何人かは、肩から自動小銃を吊るす。普通の人に見える者も居るが、半数以上が、運河で遭遇した暴漢と同じ空気を纏う。


 アウェッラーナに声を掛けた男がレノを一瞥し、湖の民の薬師に視線を戻す。

 「姐ちゃん、毒も作れるのか?」

 「いえ……【空に舞う鱗】の術は知りません」

 青褪めて即答した薬師(くすし)に鼻を鳴らし、陸の民の武闘派ゲリラが怒鳴る。

 「一緒に基地を潰しに行きたい奴は居ねぇか?」


 武闘派ゲリラたちが、プラエテルミッサの一行を()め回した。凍り付き、誰も応えない。葬儀屋アゴーニがゲリラに困惑した目を向ける。


 レノはソルニャーク隊長を見た。星の道義勇軍は、有志の武闘派ゲリラと行動を共にする気はないらしい。隊長だけでなく、メドヴェージと少年兵モーフも動かなかった。

 武闘派ゲリラの反応を待つ。

 ティスがレノのエプロンをぎゅっと握った。レノが妹を抱きしめると、クルィーロもアマナを抱き寄せた。



 暴漢風の男たちが三人、歩み出る。プラエテルミッサの一人一人に顔を近付け、吐き捨てた。

 「仇討とうって奴ぁ居ねぇのか?」

 「お前らも焼け出されたんだろ?」

 「力なき民用の武器も揃えてある」

 一人が自動小銃を肩から外し、片手で構えてみせる。レノの目にも、その持ち方では撃てないとわかるが、何も言えなかった。


 三人は下から舐め上げるように睨みつけ、苛立ちを隠そうともせずに怒鳴る。

 「ホントに行かねぇのかッ!」

 「腰抜け共めッ!」

 叫ぶと同時に、別の男たちがピナとアミエーラを捕えた。首に腕を回し、もう一方の手で口を塞ぐ。二人は腕を振り(ほど)こうともがくが、太い腕はびくともしなかった。

 「ピナッ!」

 レノと少年兵モーフが同時に叫ぶ。男の一人が銃床(じゅうしょう)でレノを殴った。

 「腰抜けは黙ってろッ!」

 「お兄ちゃんッ!」

 ティスが悲鳴を上げ、葬儀屋アゴーニが暴漢を怒鳴りつけた。

 「客人に何しやがるッ!」

 「葬儀屋の旦那、何でこんな腰抜け野郎共と女子供が客分扱いなんだ?」

 「行く! 俺が行くから、ねーちゃんたちを放せッ!」

 アゴーニの返事を遮り、少年兵モーフが叫んだ。長身の男が片眉を上げ、小柄な少年を見る。

 「坊主、遊びに行くんじゃねぇんだぞ? わかってるか?」

 「おっさんたちこそ、そいつの扱い方、わかってねぇじゃねぇか!」

 少年兵モーフは全く(ひる)まず言い返す。ソルニャーク隊長とメドヴェージが小さく溜め息を()いた。男たちが顔を見合わせ、薄笑いを浮かべる。


 レノにはどうすることもできず、ティスを抱きしめ、成行きを見守るしかない。殴られた頬が熱を持ち、鼓動に合わせて痛んだ。ティスは声もなくレノのエプロンにしがみつき、視線をピナに釘付けにする。


 「その子は力なき民だが、銃火器を用いた実戦経験がある」

 男たちの目が、ソルニャーク隊長に集まった。武闘派ゲリラの視線を受け止め、落ち着いた声が事実だけを告げる。

 「このご時勢だからな。子供らは全員、呪医(じゅい)とそこの薬師(くすし)から手解(てほど)きを受け、癒しの術が使えるようになった」

 ピナと針子のアミエーラを捕えた男たちが、戸惑った顔で仲間を見た。武闘派ゲリラは誰一人として応えず、ソルニャーク隊長を注視する。


 「その子らを解放し、我々に危害を加えないなら、銃火器の扱いを教え、それを使う戦闘訓練もしてやろう」

 「何ッ?」

 「偉そうに、何様のつもりだッ!」

 荒んだ男たちが気色(けしき)ばむ。湖の民を含む普通の人に見えるゲリラは、暴漢風の仲間をチラリと見遣り、ソルニャーク隊長に冷静な視線を向けた。

☆癒し手……「0108.癒し手の資格」「0264.理由を語る者」参照

☆運河で遭遇した暴漢……「0083.敵となるもの」~「0086.名前も知らぬ」参照

☆呪医とそこの薬師から手解きを受け、癒しの術が使える……「0348.詩の募集開始」「0349.呪歌癒しの風」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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