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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第二章 印歴二一九一年二月二日

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0036.義勇軍の計画

 この計画は、もう何年も前から、極秘裏に進められていた。


 半年前から、ロークもその会議に参加させられた。

 自治区と他地域とのヒトとモノの往来は、自治区内に魔術に関する物品を流入させない為、政府が厳しい制限を敷く。

 ただ、物品は量が多い為、全量検査ではなくサンプル調査だ。


 魔力探知は厳重に行うが、そうでない物品が、ザル調査を(のが)れるのは容易(たやす)い。

 輸入した工業用素材の中に少しずつ、武器の部品や弾薬を混ぜ、飲み物の瓶に燃料を入れて運び込んだ。

 建設途上の廃工場などに物品を隠し、一般人が近付かぬよう、また、ゴロツキの手に渡らぬよう、義勇兵がそれとなく警備に当る。


 それらの物品の出所は、アーテル共和国とその隣のラニスタ共和国だが、第三国を経由させ、隠蔽工作(いんぺいこうさく)を行った。

 ラキュス湖南岸のキルクルス教国は、勢力拡大の為には援助を惜しまない。

 武器弾薬、燃料の供与は勿論(もちろん)、近代兵器を使用する戦闘、市街戦、ゲリラ戦法の指南(しなん)なども極秘裏に行う。


 多くの魔法文明国や、魔法に重きを置く両輪の国では、テレビ放送自体がないか整備が遅れていた。

 ネモラリス共和国と南隣のラクリマリス王国も、そうした国のひとつだ。

 自治区内の廃工場に電波塔を建て、そこからケーブルを敷設し、ラニスタ共和国のテレビ放送を受信した。

 星の道義勇軍は、堂々とテレビ放送を受信し、ラニスタ共和国の支援の(もと)、戦闘の訓練を行った。


 武器の組み立てと訓練も廃工場で行われる。

 星の道義勇兵は少数精鋭。錬度(れんど)ならネモラリス正規軍とも充分、渡り合える軍に育った。



 ロークは、自宅に集まる年配の信者と祖父が、半世紀の内乱時代の話をするのを何度も耳にした。

 呪符は、魔法使いの攻撃を無効化する為に、身を守る為に、どうしても必要だ。

 星の道義勇軍の指導者らは、これらの呪符を対魔法使いの切り札として、積極的に利用することを決定した。

 魔力を吸収する【吸魔符(きゅうまふ)】は、機械類の筺体(きょうたい)内部に隠し、魔法を無効化する【消魔符(しょうまふ)】は、力なき民の商社マンが、買付(かいつけ)時に持ち込んだ。


 「攻撃は、武器がありゃ何とでもなる」

 「ちんたら呪文を唱えるより、引き金を引く方が早いからな」

 「身内に魔法使いが居りゃ、そいつに頼んで作ってもらえるから、困らんわな」

 「自分で作るんでなけりゃ、教えに反することもなかろう」

 ロークは、老人たちの勝手な言い分に呆れたが、口には出さなかった。


 ……何言ってんだか。魔法は魔法なのに。自分が助かる為なら、魔法も使うってバカじゃねーの。


 元々、信仰心が(あつ)くないからこそ、フラクシヌス教に改宗したフリをして、平気な顔で魔法使いの住む街に住めるのだ。

 ロークは、二重規範(ダブルスタンダード)を何とも思わない祖父たちの生き方を、卑怯だと思った。

 その祖父たちに守られ、ぬくぬくと暮らす自分も、(たま)らなくイヤだった。

 今回もそうだ。

 祖父たち自治区外の隠れ信徒と、自治区の過激派が結託(けったく)して、テロを計画したと知りながら、漫然と放置してしまった。


 ……まさか、ホントにこんなコトするなんて……


 大人たちは昨夜、祝杯をあげていた。

 自治区外の酒場や酒屋は、力なき民専用だ。力なき民には魔力がない為、酔っていても素面(しらふ)でも、魔物や魔獣に対抗できない。

 日々のストレスを酒で(まぎ)らわせた方が、生きて行くのに都合がいい。

 湖の民と力ある民は、そんな酔っぱらいに可哀想な物を見る目を向ける。


 魔法使いには、飲酒の習慣がない。

 フラクシヌス教の戒律ではなく、酩酊(めいてい)状態で魔物に襲われては、対処が難しくなるからだ。

 酔うと魔力の制御が覚束(おぼつか)なくなる。

 周囲に掛かる迷惑は、力なき民とは比べ物にならない。

 彼らは、自分と周囲の生命を守る為に、自らを律して酒を口にしないのだ。



 ロークは、祖父と両親が恐ろしかった。

 ほんの数日前までの優しい両親も、孫に甘い祖父も、どこか遠くへ行ってしまった。

 今、家に居るのは、街を焼き、多くの人の命と住む家を奪って祝杯を上げる、人殺しの仲間だ。


 ……帰りたい。


 自宅のベッドの中で、ロークは強く思った。

挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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