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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十六章 連携

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0337.使用者の適性

 昨日、老婦人シルヴァが大量の物資を持って来た。

 針子のアミエーラに型紙の本を三冊渡すと、さっさとどこかへ【跳躍】した。


 老婦人が運んだ【無尽袋】の中身は、菜種油が入った一斗缶五つ、蓋付きプラ容器が二百個入った段ボール箱が五箱、ゴミ袋が三束、小麦粉の大袋が三袋だ。

 針子のアミエーラは、型紙をもらってすぐ作業を始めたが、魔法使い二人には休んでもらった。


 「婆さん、金持ちなんだな」

 メドヴェージが荷物を運びながら言う。レノも手伝いながら、老婦人シルヴァの資金源が気になった。

 大量に用意したのは、伝統的な素焼きの壺ではなく、掌大(てのひらだい)のプラ容器だ。軽くて割れ難く、持ち運びやすい。薬師(くすし)アウェッラーナが作る魔法薬の内、傷薬はゲリラの治療に使うのだろう。


 ……他の薬は、武器や食糧に交換するんだろうなぁ。


 暗い気持ちになりながら、アウェッラーナの作業部屋に菜種油と容器を置く。


 「クルィーロ、薬作る魔法って、別に条件ないんだろ? 使えるようになったりしないのか?」

 「俺じゃムリだよ」

 アウェッラーナ一人では大変だろうと思い、幼馴染に声を掛けてみたが、あっさり言われた。


 ……なんでやる前から諦めてんだよ。力ある民の癖に。


 少なくとも、力なき民のレノよりずっと可能性はあるのだ。クルィーロは、レノのそんな心中を察したのか、少し困った顔で説明した。

 「アウェッラーナさんがやってんのって、スゲー細かい作業なんだ」

 「細かい?」

 「例えば、【操水】で湖の水を汲んで、そこから水とその他の物に分けるのは、俺でもできる。塾で、できるようになるまで練習させられたから」


 レノは、クルィーロが塾をサボってふたりで遊び回ったのを思い出した。あんなに修行をサボりまくってもできるくらい、淡水化処理は簡単な操作らしい。


 「でも、アウェッラーナさんがやってんのは、水から塩だけ抜くとか、銅だけ抜くって操作なんだ」

 レノとメドヴェージは、同時に首を傾げた。

 この説明で正しいらしく、薬師(くすし)アウェッラーナは口を挟まず遣り取りを見守る。


 クルィーロは、手振りを交えて説明した。

 「塩と砂糖の粉が混ざってる中から、手作業で塩と砂糖に分けるみたいなモンなんだ」

 「そいつぁムリだな」

 メドヴェージが苦笑し、レノは絶句した。

 魔法使いのクルィーロが申し訳なさそうに頭を掻く。

 「確かに、【思考する(フクロウ)】学派の術は、術者の霊的資質や身体的条件は関係ないし、魔力もそんな強くなくていいけど、そう言う細かい作業と、素材の霊的な性質の組換えって言う……なんて言うか、才能が要るんだ」

 薬師(くすし)アウェッラーナが、作業台の向こうで小さく頷いた。


 「そうなんだ。じゃ、ドーシチ市の学生さんたちって……」

 「志願者の中から試験で選んだエリートだったんだろうな」

 薬師候補生たちは、アウェッラーナの簡単な説明を聞いて、実演を少し見ただけで、すぐに自力で魔法薬を作れるようになった。

 それを見て、簡単にできるものだと思い込んだのが恥ずかしくなり、レノは言葉を失った。


 「じゃ、お二人さん、後はヨロシク。俺ら、森へ素材集め行ってくらぁ」

 「お気を付けて」

 「ご安全にー」

 メドヴェージが陽気な声でレノを促し、魔法使いの薬師(くすし)と工員は小さく手を振って二人を送り出した。



 今日の午前は、薬師アウェッラーナとクルィーロは魔法薬作り、針子のアミエーラとピナ、ティス、アマナは夏服作り、星の道義勇軍とレノ、ロークは森へ素材集めに行く予定だ。

 葬儀屋アゴーニは、朝食後すぐネーニア島のザカート市の拠点へ【跳躍】し、呪医セプテントリオーは、シルヴァが持って来た古新聞の束から情報収集する。

 暇な者など一人も居なかった。


 ……まぁ、でも、敵地でヒマしてると、不安で頭おかしくなりそうだもんな。


 五人は、素材を入れるゴミ袋と護身用にカッターナイフを持って、隠された別荘の門を出る。蝉の声が降る森を少し進むと、一瞬で視界が切り替わった。

 レノたちは木立の間に散らばって、蔓草と薬草、食べられる野草を集めに掛かった。幻の樹木や薮が邪魔で、本物の草が見えない。手探りで引き抜き、手元で見て確認する。


 少年兵モーフが、飛び出したバッタを捕え、満面の笑顔でロークに見せびらかした。メドヴェージが、モーフの手元を見てニヤリと口を歪める。すぐ真顔に戻り、何も言わずに草を引き抜いた。

 「この虫、食えるんだ」

 「……へぇ。バッタっておいしいの?」

 「苦い」

 「そうなんだ」

 モーフはバッタの脚と頭をもいで、袋に入れた。

 レノは、美味しく食べられるレシピを考えた。以前、講習会で食べた蝉の素揚げは、海老に似た味で割と美味しかった。揚げれば、大抵の味は誤魔化せるだろう。だが、モーフが殺してしまったので、糞を排出させられないことに気付いた。


 ……いつも、下処理も待てないくらい、飢えてたのか。


 少年兵モーフの手慣れた動作に、レノは胸が詰まった。苦くても、飢えを満たす為に食べるしかない暮らしがどんなものなのか、はっきりとは想像できない。

 高校生のロークは否定も肯定もせず、作業を続けながら少年兵モーフのそんな話を聞いた。

☆ドーシチ市の学生さんたち……「0255.魔法中心の街」→「0266.初めての授業」参照

☆幻の樹木……「0316.隠された建物」~「0318.幻の森に突入」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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