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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第七十二章 平和の譜

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3334.幾つもの接点

 アミエーラたち五人は、マネージャーと共に夏の都の芸能事務所へ戻った。


 アルキオーネが、衣装のクリーニングを手配するマネージャーに話し掛ける。

 「さっき楽屋でみんなと話してたんだけど、私たちってバルバツムとかバンクシアとか、キルクルス教圏にもファンが居るのよね」

 「アルキオーネさんたちは戦前、バンクシア共和国でコンサートしたことがあるんでしたっけね。どうでした? あっちのファン?」

 マネージャーは衣装を仕分けする手を止めて、平和の花束のリーダーであるアルキオーネに顔を向けた。


 「当時の私たちって、アーテルではそこそこ売れてたんだけど、外国では全然無名だったの。でも、そんなアウェイでもお客さん、箱いっぱい来てくれたのよ」

 「何人くらいの箱ですか?」

 「五千人の小さい箱だけど、その分、お客さんとの距離が近くて、反応がよく見えて勉強になったわ」

 アルキオーネが遠い目で語り、他の三人は微妙な顔で同意を示す。アミエーラも以前聞いた話を思い出して、いたたまれない気持ちで視線を逸らした。


 魔哮砲戦争が開戦して間もない頃、当時のメンバーの一人、メローペが魔獣に襲われて亡くなり、アルキオーネたち四人は脱退して亡命。セレノとマイアは「瞬く星っ()」としてアーテル共和国に残った。二人は魔哮砲戦争をどうにか生き延びたらしく、現在は配信を中心に芸能活動を続ける。

 お互いの活動は、ユアキャストで度々目にする筈だが、双方とも特に接触を試みることはないらしい。



 マネージャーは空気を読まずに質問を続ける。

 「どんな歌を歌ったんですか?」

 「キルクルス教の聖歌をポップ調にアレンジした曲」

 「歌詞は全部共通語で」

 タイゲタが付け加えると、アステローペとエレクトラも頷いた。


 「今もコンサートで『(まこと)の教えを』を歌ってますよね。キルクルス教圏にも配信を楽しみにしてるファンが多いですし、また、アルトン・ガザ大陸のどこかの国で歌いたいですか?」

 「その質問って、事務所の意向?」

 アルキオーネがマネージャーに聞き返し、二人の黒い瞳が見詰め合う。

 「まだ本決まりではないんですけど、動画の再生数やコメントした人の所在地情報とかで、そこそこイケそうだから、機会があれば、やってみてもいいんじゃないかって、社長が……雑談レベルでしたけど」

 マネージャーは持って回った言い方でぬるく肯定した。


 エレクトラが少し懐かしそうに振り返る。

 「バンクシアのコンサートで、あっちにファンがちょっと増えて」

 「そうそう。それからバルバツムでも弾丸ツアーしたわね」

 アステローペが頷いて、タイゲタを見た。

 タイゲタが眼鏡を拭く手を止めて述べる。

 「動員数は同じくらいだったけど、バルバツムの方が反応良かった感じ」

 「でも、バンクシアもバルバツムも、この辺の国と国交ないから、行けないんじゃないの?」

 アルキオーネが当然の質問をした。


 マネージャーの中年女性があっけらかんと言う。

 「キルクルス教団の伝手(つて)を使えば、どうにかなると思いますよ」

 「え……でも、大使館とかない国に行って、何かトラブルがあったら」

 アミエーラは事務所の無責任さに驚いて、思わず呟いた。


 「私も、いきなり現地はちょっと怖いって言うか、カニパさん、一緒に行けませんよね?」

 エレクトラが困った顔で聞く。

 マネージャーのカニパは力ある陸の民だ。黒髪に黒い瞳なので、服装に気を付ければ誤魔化せそうな気がするが、魔法使いだとバレた場合、大変なことになるだろう。


 「私もアミエーラさんも多分、今の状況で現地に行くのは無理でしょうけど、大聖堂が聖典を全文公開してから、キルクルス教圏の国の人たちが【魔除け】の呪符を“聖典の護符”って呼んで、アルトン・ガザ大陸南部の両輪の国から輸入するようになったってニュースありましたよね」

 「それと、私たちのコンサートにどんな関係が?」

 アルキオーネが焦れったそうに聞く。

 「魔法に理解が進んできて、魔法使いへの差別がもっとマシになったら、行けるようになったりするんじゃないかなって」

 「何百年先の話よ」

 アルキオーネが呆れを通り越して笑う。

 マネージャーのカニパは大真面目だ。

 「バルバツム軍の兵隊さんが、アーテルでラキュス・ラクリマリス王国軍に救助されたりとか、魔法使いに直接会ったコトある人たちの間では、割と好感度上がってるっぽいんで、そんな何百年ってコトはないと思いますけど?」

 「それでも何十年も掛かりそうよね」

 「ねー」

 エレクトラとアステローペが顔を見合わせて頷き合う。


 「じゃあねぇ、早く行けるように共通語で()(わざ)の魔法の説明とか配信しちゃうのってあり?」

 タイゲタがみんなを見回す。アミエーラと目が合うと、口許に笑みを浮かべた。


 ……あ、そう言うコト。


 アミエーラは合点がいって、マネージャーのカニパに提案する。

 「もし、ホントに実現するなら、超大物ゲストを呼んで配信したいですね」

 「超大物ゲストってどなたですか?」

 「大聖堂のレフレクシオ司祭様とか」

 「えッ……あ、そっか。アミエーラさんは、ルフス神学校で音楽の先生もしてるから、司祭様とお話しする機会、あるんでしたね」

 カニパはすぐ思い出して考える顔になった。

 「じゃあ、私の方から社長に打診してみます」

 「なるべく早くお願いね。できたら、明後日の生配信とか」

 「そんな急にレフレクシオ司祭様のご都合がつくんですか?」

 アルキオーネが急かすと、カニパはアミエーラを見た。

 「その生配信を見るのを授業にしてもらえば、都合がつくと思います」


 カニパがすかさず切り込む。

 「どこで撮るんです?」

 アミエーラは急いで計画を練りながら言葉にする。

 「場所は……知合いにお願いしてレフレクシオ司祭様を……えーっと、みんなが集まれる場所に連れてきてもらって、王都第二神殿かランテルナ島か……戦時中、一緒に特番に出演したレーフさんも呼べたら、ゼルノー市もいいかも」

 アミエーラとレフレクシオ司祭の【跳躍】は、運び屋フィアールカに依頼すれば対応してくれるだろう。

 DJレーフ……今はゼルノー市で移動放送局プラエテルミッサの局長を務める彼も、共通語が堪能だ。

 移動放送局は、生配信をそのまま放送すれば、番組に穴をあけることにはならないと思うが、共通語では彼の放送圏のリスナーには難しいだろう。更に言えば、急な特番のスポンサーをどうするかが悩ましい。


 ……こんな時、ファーキルさんなら、きっといい計画を立ててくれるんだけど。


 アミエーラは、話す内に幾つもの接点……人の縁が思い浮かんだが、自分の不出来な頭が情けなくなった。

 それでも、マネージャーのカニパは真剣に話を聞いてくれる。

 「わかりました。どこまで実現可能かわかりませんが、社長に聞いてきます」

 カニパはクリーニング用に仕分けした衣装を抱えて出て行った。

☆バンクシア共和国でコンサート/五千人の小さい箱……「1237.聖歌アイドル」参照

☆メローペが魔獣に襲われて亡くなり、アルキオーネたち四人は脱退……「0430.大混乱の動画」参照

☆真の教えを……歌詞全文「0987.作詞作曲の日」参照

☆ルフス神学校で音楽の先生……「3116.疑われる立場」参照

☆一緒に特番に出演したレーフさん……「1015.放送本番の夜」~「1018.星道記を歌う」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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