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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十五章 異土

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330/3503

0325.情報を集める

 ファーキルは、ポータルサイトのニュースコーナーを開いた。

 紛争・戦争だけでなく、国際、政治、経済、社会、魔術のカテゴリまでも目を通し、一週間分の見出しを遡った。だが、特にこれと言った動きは見られない。魔哮砲がどうなったかなどの記事もなかった。


 移動販売店見落とされた者(プラエテルミッサ)の歌の件と、そこから広がった寄付の流れ、寄付を受けた国連や人権団体、難民支援団体のお礼と活動報告、便乗詐欺事件……そんなものばかりだ。

 難民キャンプのあるアミトスチグマ王国と、経由国のラクリマリス王国にも寄付が集まり、食糧や衣服、テントなどの生活物資や医薬品などの補充、船賃などに充てられたと報じる。


 ……この辺、動き速いよな。まぁ、立替えたのを回収しただけなんだろうけど。


挿絵(By みてみん)


 ラクリマリスの湖上封鎖で、周辺国も影響を受けた。輸送が(とどこお)り、物価が軒並み上昇する。

 封鎖の件をどう説得したのか、周辺国からラクリマリス王国への不満の声は、特に報じられなかった。そればかりか、戦争を吹っ掛けたアーテル共和国への批難や苦情なども、見受けられない。関わり合いになると面倒だから、静観を決め込むのだろうか。



 アーテル共和国内のニュースサイトも見る。

 一番上の「アーテル空軍、大規模爆撃を実施」の記事を開いた。

 作戦の時期をぼかし、数日前の未明としてある。ファーキルは、そこを中途半端に誤魔化す意図がわからなかったが、記事を読み進めた。


 アーテル軍報道官の発表によると、数日前の未明、無人機四百二十機、有人の支援機八機による大規模爆撃を実施した。

 これまでも、無人機による爆撃で一定の戦果を上げたが、ミサイル攻撃で魔哮砲を破壊した現在、ネーニア島北西部の諸都市を灰燼に帰すべく、本土の基地より出撃した。

 ラクリマリス王国の湖上封鎖により、ネーニア島西部のルート以外を通れず、待ち伏せを受けた。これは折込み済みで、ネモラリス軍の魔装兵による迎撃を突破する為の物量作戦だ。

 未だ、一機たりとも帰任しない。

 有人機からの最後の通信では、突然、暗雲が垂れ込め、激しい雷雨に見舞われたとのこと。当時の気象情報から、自然の嵐ではなく、何らかの魔術による攻撃とみられる。


 ……あれっ? でも、アーテルにこんなたくさん、無人機ってあったかな?


 ファーキルは軍事マニアではないが、国際ニュースでアルトン・ガザ大陸の大国の防衛予算の記事を目にして、無人機の値段に驚いた覚えがあった。

 そんなものを半世紀の内乱から三十年しか経たないアーテル共和国が、独力で何百機も用意できるとは思えない。

 隣のラニスタ共和国軍の機も支援に来たかもしれないが、ラニスタも小国だ。こんなにたくさん保有できるようには見えなかった。

 首を傾げつつも、読み進める。


 それ以降は、国民の戦意と魔法使いへの憎悪を煽る感情的な言葉が並ぶ。ファーキルは斜め読みして、関連記事の「テロリストの拠点を空爆」を開いた。

 軍の報道官の言い分で、なんとなく星の(しるべ)を思い出す。

 記事の後半は、他国から国際テロ組織に指定されるキルクルス教信者団体「星の標」の主張と大差なかった。


 ……兵隊さんの戦死者が少なく済んだって、無人機って、超高いらしいからな。どんだけ税金ドブに捨てたんだって、文句言われるよな。


 返討ちで全滅したのだろう。国民の不満を逸らし、空軍への責任追及から逃れるため、感情に訴えるのだ。

 魔哮砲を失ったネモラリス軍が人力で迎撃するのを確認してから、対応しきれない大部隊を編成し、大規模攻勢を仕掛けた。

 予想外の反撃がなければ、アーテルの目論見(もくろみ)は成功しただろう。


 ……でも、そんな絶滅作戦、世界中から非人道的だって批難されるだろうに。


 ファーキルは、キルクルス教狂信者の考えが、全く理解できなかった。

 聖者キルクルスは、三界(さんかい)の魔物の惨禍(さんか)を再び招かぬよう、魔術の使用を禁じた。聖典には「魔術は()しき(わざ)である」との記述はあるが、「魔法使いを殺せ」とは一行も書いていない。勿論(もちろん)「力なき民の異教徒を殺せ」との記述もない。

 ネモラリス共和国は、ラクリマリス王国より多くの力なき民のフラクシヌス教徒が暮らす。


 ……レノ店長たちだって、そうだ。


 移動販売店見落とされた者(プラエテルミッサ)には、魔法使いが二人しか居ない。

 湖の民アウェッラーナと、陸の民クルィーロ。クルィーロの妹アマナは、力なき陸の民だ。陸の民は混血が進み、家族の中でも、力ある民と力なき民が混在する。


 ……そう言う人たちも、みんなまとめて焼き殺すって教義的にもどうなんだ?


 キルクルス教原理主義を標榜するなら、聖典に記述のない殺戮はすべきでないのではないかと思う。

 ファーキルは、両親が、星の(しるべ)の演説に耳を傾けた幼いあの日を思い出し、足下から寒気が這い上がって来た。

☆移動販売店見落とされた者の歌の件……「0280.目印となる歌」参照

☆そこから広がった寄付の流れ……「0290.平和を謳う声」「0291.歌を広める者」参照

☆難民キャンプのあるアミトスチグマ王国……「0204.難民キャンプ」参照

☆ラクリマリス王国の湖上封鎖……「0127.朝のニュース」「0144.非番の一兵卒」「0154.【遠望】の術」「0161.議員と外交官」「0285.諜報員の負傷」参照

☆ミサイル攻撃で魔哮砲を破壊……「0274.失われた兵器」「0279.悲しい誓いに」参照

☆突然、暗雲が垂れ込め、激しい雷雨……「0309.生贄と無人機」参照

☆半世紀の内乱から三十年しか経たないアーテル共和国……「0164.世間の空気感」参照

☆テロリストの拠点を空爆……「0269.失われた拠点」参照

☆魔術は悪しき業……「0026.三十年の不満」「0044.自治区の生活」「0118.ひとりぼっち」「0148.三つの選択肢」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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