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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十三章 生活

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0248.継続か廃止か

 一緒にみつかった別の古文書は、当時の研究日誌だ。


 魔哮砲(まこうほう)の開発当時も、【魔力の水晶】などに余剰魔力を吸収させるなど、対策を試みたが、上手くゆかなかった。

 数年で見切りを付け、【舞い降りる白鳥】学派の術者が、【使い魔の契約】を強制解除し、休眠状態にして封じた。

 残った記録によると、大きな被害が出る前に片付けられてよかったが、迂闊(うかつ)に殺せばもっと大変なことになる。勿体(もったい)ないが、封じる他なかったとある。

 最後のページには、契約者以外の者でもこの魔法生物を鎮静化させ、休眠状態にできる呪文が走り書きされた。


 日誌は「二度と目覚めませんように……」との言葉で終わる。



 「で、あの人たちは、三十年近く研究させてたんです」

 若手議員が、与党の古参議員たちを指差す。古参は不快感を露わにしたが、否定も肯定もしなかった。


 野党党首が小さく顎を引き、続きを促す。

 「それで、吐くまでに溜められる魔力の量とか、魔力を吐かせるタイミングの制御方法とか、確立させたワケです。僕が知ってるのは、ここまでです」


 若手が説明を終えると、初めて事情を耳にした議員たちは、困惑した顔を見合わせ、近くの者たちと小声で話し始めた。

 小さな話し合いが(さざなみ)となって議場に広がる。


 ……対策も何も……


 ネモラリス軍が、魔法生物を兵器利用するのは事実だ。

 国際的な孤立を避ける為、アーテルの発表を批難する声明を正式に出し、【魔哮砲】を再び封印して代わりの兵器を用意してから、査察(ささつ)を受け容れる他ない。


 魔道士の国際機関はふたつある。


 査察は、「蒼い薔薇の森」にさせた方がいいだろう。

 歴史が浅く、科学文明国寄りで、力なき民でも加入できる。大きな力を持つ術者は加盟しない。


 もう一方の「霊性の翼団」は、ラキュス湖北地方に本部があり、術を使えば、こちらが準備を整える前に到着してしまう。

 しかも、こちらの言い分に耳を傾けず、【(ただ)しき燭台(しょくだい)】などの強力な魔法の道具を(もち)いて、簡単に真実を暴くだろう。



 議員たちの反応は割れた。

 「今の話は本当なんですか?」

 「ほんの七百年前にダメだったことが、今になってできるとは思えん」

 「その古文書の【魔力の水晶】での回収はダメだと言うのは、どうダメだったんだ?」

 「資料を……詳しい資料を見んことにはわからん」

 「だが、安全対策を確立できたなら、このまま使用を継続して構わんのでは?」

 「ダメだダメだッ! 断じてならんッ!」


 若手の話だけでは、情報の裏付けが取れず、何とも判断し(がた)い。

 与党最大派閥の古参議員たちは、他党の議員から更なる説明を求められても、若手の話を否定も肯定もしなかった。


 「アーテルの狙いが、【魔哮砲】を使用させないことにあるのは明らかです」

 「策に乗れば、(ただ)ちに空襲を再開するでしょう」

 「批難する国が、我々を守ってくれるワケではありません」

 アーテルが仕掛けた戦争は継続中だ。


 今、目の前にある脅威を如何にして取り除き、国民を守るべきか。


 「繁殖しないなら、三界の魔物のようにはならん。大丈夫だろう」

 「あの威力だ。契約者に万一のことがあって制御を離れたら……」

 「契約者は、相当な力を持つ魔装兵です。そう簡単には……」

 事情を知る与党議員が、必死に安全を口にし、正当化する。


 ラクエウス議員はふと気になり、壁際の兵士たちに向かって声を張り上げた。

 「軍は【魔哮砲】を緊急停止させる呪文を使えるようにしてあるのかねッ?」


 議員たちが口を閉ざし、老議員と、居並ぶ魔装兵に眼を向ける。

 ラクエウスは、軍人から与党最大派閥のリーダーに視線を移した。


 彼は(おもむろ)に立ち上がり、議論が中断した議場に響き渡る声で提案する。

 「時間がありません。決を()りましょう。【魔哮砲】の使用継続に賛成の方は、議長席右手側。反対の方は左手側にお集まり下さい」


 「承認します。移動して下さい」

 議長の宣言で、議員たちは腰を上げた。その(おもて)には当惑が広がる。

 ラクエウスも立ち上がり、左手側へ移動した。

 与党最大派閥だけでなく、野党議員の半数近くが「賛成」、先程の若手議員を含む与党非主流派の一部と、野党の残りが「反対」に分かれる。


 数名の議員が席に残った。

 「移動して下さい」

 「判断するには、あまりにも情報が不足しています」

 「少なくとも、その研究日誌の写しを見るまでは……」

 「時間がありません。移動して下さい」

 議長に拒否され、席に残った議員たちは顔を見合わせた。


 彼らの言い分は(もっと)もだが、時間がないのも事実だ。

 声明の発表が遅れれば遅れる程、ネモラリス共和国の国際的な立場が悪くなる。

 外交官の独断による否定発言の後、政府が沈黙を続ければ、魔法生物の兵器利用を認めたと看做(みな)されてしまう。

 それだけは、何としてでも避けねばならなかった。



 「それでは、諸君らは『保留』とさせていただきますが、よろしいですね?」

 議長に言われ、残った議員たちは、ぎこちなく頷いた。

☆外交官の独断による否定発言……「0239.間接的な報道」「0241.未明の議場で」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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