表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十三章 生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

250/3501

0247.紛糾する議論

 あの記事は、誤報ではない。

 ラクエウス議員は確信し、膝が震えた。足許から言い知れぬ恐怖が這い上がる。


 ……そんな……バカな……


 どんな手段で兵器化し、従わせたのか。キルクルス教徒のラクエウスには全くわからない。

 その魔法生物が、三界の魔物のように軍の支配を振り(ほど)き、暴走しない保証はあるのか。



 事情を知るらしい与党議員が、同じ党の別派閥の議員から糾弾される。

 「だからやめとけって言ったのにあんたたち老害が強行するからッ!」

 「今はそんなことを言っている場合ではない。落ち着きなさい」


 若手議員が激昂して立ち上がる。糾弾された派閥の者たちは、座したまま静かな声でそれを(たしな)めた。

 あたかも、若手議員が感情に任せて暴言を吐くかのような構図だ。だが、状況と話の内容に注意すれば、若手の言葉にこそ道理があるとわかる。


 「あんたたちは、いつからあんなモノを開発……」

 「君の発言こそ、責任逃れではないか」

 「せめてみんなに説明……」

 「もっと建設的な意見をどうぞ」

 与党議員たちが、仲間である筈の若手議員の発言を遮る。

 若手は早口に怒鳴った。

 「三界の魔物の惨禍を知らないワケじゃないでしょう! 万が一、【使い魔の契約】をした魔装兵が戦死したら、制御を離れ……」

 「心配ない」

 「安全な位置に居る」

 「今、議論すべきはそんなことではない。大局を見なさい」

 口々に叫ぶ中、野党の党首が席を蹴って立ち上がった。若手議員の(かたわ)らに歩み寄り、議場に響き渡る大音声(だいおんじょう)で一喝する。


 「黙れッ!」


 騒然とした場が、気魄に呑まれて静まり返った。

 野党党首が、呆然と自分を見る若手議員の肩を叩き、低く落ち着いた声で促す。

 「続けて下さい。我々は情報不足で、何故こんな時間に集められたのかさえ、わからないのです」


 ……そうだ。何故、事情も知らぬ儂らまで呼ばれたのだ?


 駐アミトスチグマ大使が、既に「魔法生物ではない」と否定した。彼が稼いだ時間を使い、魔法生物の兵器利用を強行した者たちだけで、国外向けの声明を作ればいいようなものだ。

 今、議場に集められたのは、首都クレーヴェルの宿舎に居た議員だけだ。地元で活動中の議員の姿はない。


 「あ、えっと、はい。情報。……【魔哮砲】のことですよね?」

 「そうです。どうか教えて下さい」

 野党党首は、若手議員にやさしく言った顔を上げ、与党の議員席を睨みつけた。

 「記録官もマスコミも居ません。完全なオフレコです。皆さん大人ですから、この場の発言を外部に漏らしていいものか、おわかりですね?」

 不敵な笑みで議場を見回す。

 何人かの議員が頷いた。


 「さぁ、教えて下さい」

 「えっと、資料はその場で回覧だけだったので、自分で色々調べたんです」

 若手議員は注目を浴び、当惑した表情で語り始めた。

 与党最大派閥の者たちは、若手に厳しい視線を向けたが、何も言わない。



 半世紀の内乱終結直後、ネモラリス島を横断するウーガリ山脈の遺跡から、古文書と壺が発見された。

 術で保護されており、昨日書いたばかりのような保存状態だ。記された日付は七百年余り前で、その時代を知る長命人種(ちょうめいじんしゅ)の学者が密かに集められた。

 結論から言うと、古文書は、魔法生物の仕様書だ。



 「その写しを見せられましたが、手元にはありません」

 「どこかに残っている可能性は?」

 若手の言葉に野党党首は、与党の議席と壁際に控える魔装兵に目を向けた。彼らは何の反応も示さず、やりとりを静観する。

 「わかりません。だから……当時、解読と鑑定に関わった学者さんを捜して、話を聞きに行ったんです」



 学者は、若者が与党議員だからか、包み隠さず教えてくれた。

 若手は「説明を聞いたけど、よくわからなかったので、わかりやすく教えて下さい」と言う(てい)で質問し、情報を引き出した。

 帰り(ぎわ)、「他の人たちにバレたら、バカにされて色々やり(にく)くなっちゃうんで、僕が来たことは内緒にして下さい」と口止めもした。

 老学者は、約束を守ってくれたようだ。


 その魔法生物は、雑妖を「掃除」する為に作られたものだ。

 どんな隙間にも入り込める柔軟で不定形な体。雑妖を喰らい、魔力に変えて身の内に蓄える。規制に従い、【使い魔の契約】を結ぶまで目覚めず、繁殖力も付与されなかった。

 雑妖を魔力に変換する為、その維持には、従来の魔法生物のように莫大な魔力を必要としない。力ある民なら、誰でも気軽に使える画期的な個体だった。



 「雑妖を始末する魔法生物? そんなモノでどうやって、アーテルの戦闘機を撃ち落としてるんですか?」

 「おなかいっぱいになり過ぎると、吐いちゃうんだそうです」

 「吐く?」

 「魔力を一気に吐き出して、半分くらいにすると落ち着くみたいです」

 若手と野党党首の遣り取りで、ラクエウスは、食べ過ぎて餌を吐く猫を連想したが、本当にそのイメージで正しいか、わからなかった。


☆あの記事……「0241.未明の議場で」参照

☆三界の魔物……「0013.星の道義勇軍」「0118.ひとりぼっち」「0234.老議員の休日」参照

☆駐アミトスチグマ大使が、既に「魔法生物ではない」と否定……「0239.間接的な報道」「0241.未明の議場で」参照

☆アーテルの戦闘機を撃ち落としてる……「0136.守備隊の兵士」参照

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ