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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十二章 王国

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0242.荷台の大掃除

 「えーっと、取敢えず、点検の続きをしましょう」

 クルィーロが気を取り直して言った。

 その一言で、レノも我に返る。不確かな情報で呆ける暇はない。


 「あ、そうだ。ついでに荷物を全部出して、荷台に風通して掃除もしよう」

 レノは店長として、みんなでできる作業を指示した。することがあれば、考えても仕方のないコトに気を取られずに済む。


 「メドヴェージさん、横も開けてもらっていいですか?」

 「おうっ、ちょっと待ってな」

 メドヴェージは気さくに応じ、運転席へ回った。みんながトラックから離れたのを確認して操作する。荷台の側面が片方、モーター音と共に鳥が翼を広げたような形に持ち上がって停止した。荷台に飛び乗り、上がった側壁を金具で固定する。



 「じゃ、荷物降ろそう」

 レノは努めて明るい声で指示する。

 扉側にあった長机や段ボールなどは、さっき降ろした。レノと少年兵モーフと高校生のロークが、大きく開いた側面から荷台に飛び乗り、バケツリレー方式で渡してゆく。

 係員室の傍にあった荷物は無事だ。続いて、係員室内でバリケードにした荷物と布団も降ろす。

 みんなすっかり慣れたもので、すぐに荷降ろしは終わった。



 三人は荷台から降り、レノが忘れ物はないかと振り向く。

 散乱した荷物がなくなると、大勢に土足で踏みにじられた汚れだけが残った。


 「お掃除でしたら、私共もお手伝いできますよ」

 アウセラートルに声を掛けられ、首を巡らせた。

 商業組合長の甥が、いつの間にか、水塊を宙に漂わせる。傍らで三人の使用人が畏まる。


 「あ、配線とかあるんで、俺、やりますよ。貸してもらっていいですか?」

 「どうぞ、どうぞ」

 工場の青いツナギ姿の青年が言うと、アウセラートルは浴槽一杯分程の水塊を寄越した。

 クルィーロは、早口に【操水】の呪文を唱えて受け取り、荷台の床に這わせる。土や草の切れ端、濡れてこびり付いた小麦粉などが、水流に呑まれて床を離れる。


 あっという間に濁った水を宙に浮かせ、アウセラートルに聞いた。

 「あ、このゴミ、どこに……?」

 「その辺に捨てて下さい。後程、片付けます」

 「そうですか。何から何まで、すみません」

 クルィーロは少し考え、ガーゴイルの傍に水の濁りを排出した。それを三度繰り返し、水の濁りがなくなると、今度は布団を洗う。


 「えーっと、それから、段ボールが水吸って(いた)んじゃったんで、片付け用に代わりの箱があれば……」

 「木箱をお持ちしましょう」

 レノが、布団の洗濯を待つ間に思いついたコトを言う。アウセラートルは使用人に命じ、壊れた物を持って行かせた。


 宙に漂う水の中で、布団が揉まれる。

 クルィーロが力ある言葉で何か言うと、水塊から湯気が上がった。湯に揉まれた布団から、茶色い汚れが浸み出す。

 「結構、汚れてたのね……」

 ピナが予想外の濁りに顔を(しか)める。今までずっと、こんな布団で眠ったのだ。

 「そんな余裕なかったし、仕方ないよ」

 レノは妹の肩を軽く叩いた。



 「洗えたから、端っこ持って引っ張って」

 クルィーロに言われ、レノはぬるま湯に手を突っ込んで布団を引っ張り出した。全く湿り気がない。綿が含んだ水が【操水】の術で抜かれ、乾いてふわふわだ。

 メドヴェージと二人で、すっかりキレイになった荷台に長椅子を戻す。少年兵モーフが、洗い上がった布団を受け取り、畳んでその上に乗せた。


 ふかふかになった布団と毛布が、全て荷台に収まると、クルィーロは水を花壇に捨てた。


 「じゃあ、俺、スピーカーとか、電気回り点検するゎ」

 クルィーロが発電機を起動し、係員室に入る。程なく、スピーカーから天気予報のBGM「この大空をみつめて」が流れた。

 開放された荷台から、音が伸びやかに庭園の空へ解放される。

 みんなの耳は、荷台に籠ってくぐもった音に慣れていた。妨げられずに響き渡る新鮮な音が、胸を打つ。

 木箱と樽を持って来た使用人も作業を忘れ、次々と流れる曲に聴き入った。



 A面が終わり、誰からともなく拍手が起こる。

 「懐かしい曲をありがとうございます」

 「懐かしい?」

 アウセラートルの言葉にレノが首を傾げる。三十代半ばくらいに見える男性は、苦笑した。

 「お若い方がご存知ないのも無理はありません。天気予報のBGMだったのですよ。半世紀の内乱までは、ラキュス・ラクリマリス共和国全土のラジオから流れていました」

 「ネモラリスじゃ、今でも現役だ」

 少年兵モーフが抗議する。メドヴェージがその肩にポンと手を置き、小さく首を横に振った。

 「これは失礼しました」

 アウセラートルが、少年兵モーフにぺこりと頭を下げる。モーフは面食らって、しどろもどろに何か呟いた。

☆扉側にあった長机や段ボールなどは、さっき降ろした……「0238.荷台の片付け」参照

☆天気予報のBGM「この大空をみつめて」……「0170.天気予報の歌」参照


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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