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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十一章 南は

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205/3502

0204.難民キャンプ

 開いたのは「疲弊する住民 レーチカ現地ルポ」の見出しが付いたトップ写真の記事本文だ。

 日付は一週間前。

 ファーキルは、配信直後にアーテル共和国の自宅で読んだが、知らないフリで隊長の視線の動きに合わせ、画面をスクロールさせる。


 記事下の関連リンクには、ネーニア島ネモラリス領の地名がひとつもない。

 戦争当事国であるネモラリス共和国とアーテル共和国、ラニスタ共和国の政府発表、国連や周辺国の反応、キルクルス教団とフラクシヌス教団の反応、経済への影響など、どれもマクロ視点のニュースばかりだ。

 戦闘地域の一般市民向けの生活情報はなかった。


 ……そりゃそうか。外国のニュース通信社だもんな。


 地元民向けの情報は、渦中にある地元メディアが(にな)う筈だ。

 だが、ネモラリス共和国にはインターネット環境がない。彼らの反応を見た限り、パソコンがあるかどうかも怪しい所だ。



 ファーキルは、湖南経済新聞のサイトを開いてみた。

 ラキュス湖南地方の経済情報を扱う同社は、ネモラリス共和国とラクリマリス王国とも友好関係にあるアミトスチグマ王国に本社がある。

 工場の被災状況や資材調達など、経済情報は詳しいが、一般向けの生活情報は扱いがなかった。


 ニュース通信社は、記者を危険地域に出したくないのか、船の手配ができないのか、ネーニア島の一次情報はない。

 ネーニア島の様子を伝える記事は、ネモラリス島に避難した住民や、救援物資を配布しに行ったフラクシヌス教徒のボランティアのインタビューばかりだ。


 アーテル・ラニスタ連合軍は、爆撃機を(ことごと)く迎撃されたが、両共和国の本土は無傷だ。

 ネモラリス島とネーニア島の都市部への一方的な面的爆撃で、無辜(むこ)の民を無差別殺傷した件で、国際的な批難を浴びる。

 アーテル政府は、国連からの脱退と言う形で応えた。

 ラニスタは国連に留まるが、アーテル軍への支援は継続する。


 様々な分野の識者が、何故、アーテルがそこまでしてネモラリスを攻撃するのか、理解に苦しむとの見解を述べる。

 アーテル政府は、回答のひとつとして、ネモラリス軍が魔法生物を製造、使役するからだと発表した。

 だが、証拠は提示されない。


 ネモラリス政府は、魔法生物の使役を否定した。



 この紛争のそもそもの発端は、ネモラリス共和国内のキルクルス教徒への迫害だった筈だ。それが何故、魔法生物の存在の有無に話がすり替わったのか。



 ……どう言うことだよ?


 記事を次々と開いて読めば読む程、ファーキルには訳がわからなくなってきた。


 隊長と呼ばれた年配の男性は、眉間に縦皺を刻んで淡々と訳し続ける。それを聞くみんなの顔が、どんどん暗くなってゆく。

 二時間近くニュースを検索したが、ネーニア島のネモラリス人向けの生活情報はなかった。


 挿絵(By みてみん)


 ネモラリス島からフナリス群島を経由して、アミトスチグマの難民キャンプに行くのは可能らしい。

 記事には、アミトスチグマ政府とフラクシヌス教会が設営したここが、ラキュス湖南地方で唯一の難民キャンプだとある。

 他に難民の受け容れを表明した国はない。

 アーテルとラニスタの近隣諸国は、沈黙を守った。


 ネーニア島のネモラリス領から、フナリス群島へどうやって行けばいいかは、記述がなかった。

 巡礼済みの力ある民なら、難なく【跳躍】できるのだろう。

 一緒にいる彼らは、大半が力なき民で、薬師(くすし)と工員は聖地に行ったことがないらしい。


 「南回りの陸路でグロム港へ行って、そこからフナリス群島に渡って、その辺でまた、情報収集……かな?」

 「パスポートとか、どうすんだよ?」

 調理服のレノが計画を口にすると、工員クルィーロが半笑いで突っ込んだ。


 「多分、ザカート市の人たちも避難してると思うんで、難民申請するのがいいでしょうね」

 湖の民の薬師(くすし)が、昨日と同じ主張を繰り返した。

 高校生くらいの少年が小声で反論する。

 「でも、追い返されてるっぽいんですよね?」


 幾許(いくばく)かの食糧を与えられたところで、ガルデーニヤ市に送り返されたのでは、どうなるかわからない。

 ファーキルが、ネットの掲示板で収集した情報と、ニュース通信社が避難民やボランティアから聞き取った記事は、似たり寄ったりだ。


 その全てが事実とは思えないが、ネーニア島北部の状況がよくないことは、想像に(かた)くない。


 「ちょっと待って下さい。ホントにラクリマリスには難民キャンプがないのか、調べてみます」

 ファーキルは隊長に声を掛け、検索してみた。


 検索ワードの組み合わせを色々変えて、何ページもめくったが、(かんば)しい結果は出てこない。

 ファーキルの(てのひら)に汗が(にじ)んだ。


 どうやら本当に、難民キャンプは、対岸のアミトスチグマ王国にはあっても、地続きのラクリマリス王国にはないようだ。

 フナリス群島を経由して、ラキュス湖南……大陸へ渡るしかないらしい。

☆一方的な面的爆撃

 ゼルノー市……「0056.最終バスの客」「0057.魔力の水晶を」参照

 ネーニア島東岸ゼルノー市以北……「0181.調査団の派遣」「0190.南部領の惨状」参照

 北ザカート市……「0188.真実を伝える」「0189.北ザカート市」参照

 クルブニーカ市……「0192.医療産業都市」「0195.研究所の二人」参照


☆アーテル政府は、国連からの脱退……「0078.ラジオの報道」参照

☆ネモラリス軍が魔法生物を製造、使役するから/ネモラリス政府は、魔法生物の使役を否定……「203.外国の報道は」参照

☆この紛争のそもそもの発端……「0078.ラジオの報道」「0154.【遠望】の術」参照


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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