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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五十八章 与国

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2002/3516

1953.二日目の予定

 初日の午後は、地蜥蜴(ちとかげ)以外の魔獣に遭遇せず、無事に作業を終えられた。

 デレヴィーナ市に停めた移動放送局のトラックには、難民キャンプに行った星の道義勇軍の三人も無事に戻り、夕飯を食べながら簡単に報告する。


 「ラゾールニクさん、【真水(さみず)の壁】って残り何枚ですか?」

 「八枚。でも、【不可視(みえず)の盾】をもうちょい使いこなせたら、節約できるんだけどなぁ」

 クルィーロが聞くと、見もせずに即答した。


 「そんなコト言ったって、今週中にプロ級なんてムリですよ」


 知恵の黒山羊に襲われた時、クルィーロは【不可視(みえず)の盾】を掛けた左手の軍手ではなく、【祓魔の矢】を握った利き手を出してしまった。

 魔獣の舌に刺さった矢は、生首の詠唱を防いだかもしれないが、クルィーロは咬まれて負傷した。


 ……【不可視の盾】、利き手にした方がいいのかな?


 咄嗟の動きを変更するのにどれだけの訓練を要するか知らないが、少なくとも、敷石の敷設作業があるこの一週間以内では、無理なコトくらいわかる。


 薬師(くすし)アウェッラーナは、余計な手間を増やされたなどと文句を言うような人物ではない。だからこそ、余計に申し訳なさが募り、クルィーロは自分も呪歌【癒しの風】を(うた)ったのだ。

 その甲斐あってか、他の者の傷はその場で完治し、クルィーロの傷も昼休み中に痕を残さずキレイに治った。

 だが、服に穿(うが)たれた穴は勿論(もちろん)、そのままだ。何本も巻いた【護りのリボン】や服の【耐衝撃】など、まるでないかのように何の抵抗もなく、魔獣の牙が魔法の服を貫通した。


 レノが剣で魔獣の目を突いてくれなかったら、食い千切られてしまったかもしれない。

 クルィーロは、恐ろしい可能性に気付いて身震いし、改めて幼馴染の勇気に感謝した。



 「明日、地下街の呪符屋さんへ【真水(さみず)の壁】を買いに行こうと思うんですが、他に何か入用の物はありませんか?」

 老漁師アビエースが、みんなを見回す。


 「えっと、じゃあ、【身代わり】の呪符……は高いから流石に無理か」

 ラゾールニクが金髪の頭を抱える。


 濃紺の大蛇(おろち)の巨体で()し掛かられたら、【真水(さみず)の壁】など一撃で破壊されるだろう。【身代わり】の呪符で、どこまで肩代わりできるかわからない。しかも、一回しか防げないのだ。

 素材屋プートニクは、防壁の門が閉まる前に王都ラクリマリスに帰り、今、この場には魔法を使う戦闘のプロが居ない。


 どんな作戦を立てれば生存率を上げられるか、その実行にどんな呪符が必要か。

 クルィーロにはわからなかった。


 ……身を護るコトに専念しろとは言ってたけど。


 今からでは【不可視(みえず)の盾】を練習する時間はない。

 ランテルナ島の拠点で呪医セプテントリオーから教わった直後は、クルィーロも熱心に練習した。

 あれから二年近く経つ。呪文は忘れなかったが、身体の使い方はすっかり抜けてしまった。


 出血が酷かったので、今夜は安静にするよう、森で薬師(くすし)アウェッラーナに何度も念を押された。父とアマナを心配させたくなくて三人に口止めした手前、【盾】の練習などできない。

 袖の穴は、折り返して【護りのリボン】で留めて誤魔化した。



 「あ、クロエーニィエ店長に聞いたら、何か教えてくれるかもしれませんよ。あの人も元騎士ですし」

 ピナティフィダが明るい声で思い付きを口にする。

 「そうだなぁ。先にそっちへ行ってから、呪符屋さんへ行こうか」

 「私も一緒に行っていいですか? 【護りのリボン】買い足した方がいいかなって思いますし」

 「じゃあ、頼むよ。ローク君にもよろしく」

 レノは、妹が地下街チェルノクニージニクに行く件にあっさり同意した。


 ……まぁ、ピナちゃんはしっかりしてるし、アビエースさんも一緒だし。


 クルィーロはなんとなく、幼馴染の二人が急に遠くへ行ってしまったような心細さを覚えた。


 「私もご一緒してよろしいですか?」

 国営放送アナウンサーのジョールチが、小さく手を挙げる。

 「ジョールチさんも一緒なら、心強いです」

 老漁師アビエースが歓迎し、ピナティフィダも笑顔で頷く。

 DJレーフがみんなを見回して言った。

 「今日、デレヴィーナ市内で情報収集したんだけど、ランテルナ島に土地勘ある人は、経済制裁が始まってから、ちょくちょく買出しに行ってるんだって」

 「まぁ、あそこはアーテル領ったって治外法権みてぇなとこあるかンな」

 葬儀屋アゴーニが頷く。


 「大量にまとめ買いするから、それをアテにしたスクートゥム王国の行商人たちが、明日、カルダフストヴォー市の広場で(いち)を開くって話を聞いたんだ」

 「えッ? 初耳です」

 レノが驚く。クルィーロも初耳だ。

 DJレーフが苦笑する。

 「今回が初めてだからね。これまでの大量購入の流れで、多分、食料品が中心になると思うけど」

 「面白そうだが、俺らはまだ蔓草(つるくさ)細工の先生があるからなぁ」

 メドヴェージが言うと、少年兵モーフが肩を落とした。


 ラゾールニクが笑いを噛み殺して言う。

 「今回の売行きがよかったら、またその内、(いち)が立つだろ」

 「私はその品揃えの確認や、スクートゥム王国の情報などが得られればと思いまして」

 「では、私もご一緒させていただいてよろしいですか?」

 父が聞くと、三人は二つ返事で了承した。

 「色々な角度から見た方が、一度にたくさんの情報を得られますからね。パドールリクさん、こちらこそよろしくお願いします」

 「じゃあ、ジョールチさんに俺の端末、渡しときます。写真撮ったりとか、使って下さい」

 「有難うございます」

 クルィーロは、タブレット端末をジョールチに預けた。



 翌朝早く、葬儀屋アゴーニが、ソルニャーク隊長、メドヴェージ、少年兵モーフを【跳躍】でアミトスチグマ王国の難民キャンプに連れて行った。

 父と老漁師アビエース、ピナティフィダ、アナウンサーのジョールチは、ランテルナ島へ買出しと情報収集に跳ぶ。


 「じゃあ、お兄ちゃんも、また怪我しないように気を付けて」

 「……あっ、あぁ。わかった」

 クルィーロはギョッとしたが、平静を装ってアマナに小さく手を振り返す。


 今日は、右手に軍手を着けて【不可視(みえず)の盾】を掛けた。

 何とかなると自分に言い聞かせながら、防壁の門を出る。レノと手を繋ぎ、薬師(くすし)アウェッラーナ、ラゾールニクと声を揃えて【跳躍】を唱えた。

☆ランテルナ島の拠点で呪医セプテントリオーから教わった……「354.盾の実践訓練」参照

☆クロエーニィエ店長(中略)あの人も元騎士……「447.元騎士の身体」参照

☆蔓草細工の先生……「1927.細工物の先生」~「1932.対策の多重化」参照

 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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