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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五十七章 厳科

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1934/3517

1887.ふたつの部門

 ファーキルは、星の(しるべ)アーテル支部の名簿と、取得済みのデータから、各団員の活動内容や繋がりを調べ、資料をまとめた。


 アーテル出身のファーキルも知らなかったが、星の標義勇兵団は、魔獣駆除を行う自警団的な部隊と、力ある民を捕えて火炙りにする人狩り部隊があるようだ。

 一般の星の標団員と義勇兵団の自警団部門は、魔物や雑妖を発生させないよう、食品保存や残り物を出さない調理法、掃除などの指導・啓発、魔獣と鉢合わせした時の逃げ方の訓練・啓発も行い、女性の団員も多い。


 特にSNSでは、それらの啓発活動が活発だ。

 一人暮らしを始めた若者の生活相談、病気や高齢、障碍などで家事が困難な人々への生活支援、子育てや介護などで手が回らない人々への家事支援も行う。


 毎週日曜礼拝の前、または後に心掛けの護りとして地域の清掃もする。毎日する地区もあった。



 魔獣出現の通報があれば、軍や警察と連携して、武装した自警団部隊が現場に向かう。

 ファーキルの出身地イグニカーンス市では、主に警察が魔獣を駆除するが、地方や小規模な都市では、警察では手が足りず、星の(しるべ)が対魔獣の主力だった。

 彼らで手に負えない大物が出た場合に限り、アーテル陸軍対魔獣特殊作戦群が出動する。


 武器は、銀の弾丸を籠めた銃が主力で、ルフス神学校の星道クラスが実習で作った剣があれば、それも使う。

 毎年の恒例行事として、自警団への光ノ剣の贈呈式が報道された。


 自警団での功績を買われ、正規軍の対魔獣特殊作戦群に抜擢される者も居る。反面、殉職者も多い。

 印暦二一九二年十一月以前に集めた星の標関連ニュースには、「魔獣駆除中の事故で、星の(しるべ)団員が命を落とした」と報じる記事が大量にあった。

 各名簿ファイルの除名シートでは、「事故死」扱いだ。


 ……「聖戦の殉死」じゃないんだな?


 魔獣と言う穢れを祓う戦いでの死亡が殉死でないなら、何がそうなのか。



 ファーキルは、除名シートから聖戦の殉死を抽出した。

 年齢・性別・免許や技能などは様々だが、平の団員であることが共通する。

 殉死者の名で、手持ちのデータを調べると、ランテルナ島での爆弾テロや“穢れた力を持つ者”を清める儀式の記事ばかりに登場した。


 ……星の(しるべ)の中では、慈善団体部門とテロ部門が完全に独立してたのか。


 慈善部門……自警団の者なら、ネモラリス共和国との和平協議に賛成する可能性があるが、肩書きを持つ者、特に組織の上層部は、両部門を統括するようだ。

 実行犯として報道に名が出るのは平ばかりで、各地域の支部長など、役職者がどちらの活動に重きを置く人物か、見分けがつかない。

 特に湖底ケーブル破断後は、SNSの情報がなくなり、報道も、紙の新聞では紙面に限りがある為、小さな事件・事故などの情報が手に入らなくなった。


 二一九二年十一月以降に昇格、あるいは新規加入した団員は、どちらの部門に属するか、手掛かりがない。


 ……これも、ランテルナ島へ渡った人たちに当たってもらおうかな?


 元・星の(しるべ)は、今なら、食料の提供や、光の導き教会への案内と引換えに応じるかもしれない。


 ロークとクラウストラに調査を依頼することを箇条書きにまとめ、除名シートから、二一九二年十一月以降の脱退者を抽出し、別ファイルに保存した。

 二人に頼む前にラゾールニクと運び屋フィアールカに送って聞いてみる。



 〈いいんじゃない? 但し、警戒されるから、名簿の件は内緒で。〉

 〈了解。自分から名乗ったら、名簿に“ランテルナ島移住”って書き足してもらいます。〉

 〈それがいいわね。〉


 ラゾールニクは、今日はネモラリス島に居るらしく、反応がなかった。



 昼過ぎ、別のクラウドにラニスタ共和国の情報が上がった。

 こちらは、チェルニテース司祭の動向を探る同志専用で、アクセスできるのは、ファーキルたちを入れても十人足らずだ。

 データ作成者は、クラウドにアップロードしたフォルダに説明のテキストも入れてくれた。


 ラニスタ共和国内のあちこちの図書館で、半世紀の内乱時代から、最近までの新聞を調べたと言う。マイクロフィルムをコピーして、スキャナで取り込んだものを送ってくれたのだ。



 お疲れ様です。ロザーリヤです。

 ラニスタ共和国には、星の(しるべ)本部があるにも(かかわ)らず、フラクシヌス教の神殿が現存するのが気になり、調査しました。


 結論から言うと、星の標は、半世紀の内乱当時から、ラニスタ人にはあまり歓迎されませんでした。

 ラキュス・ラクリマリス共和国の内戦が飛び火するのを警戒した為です。



 ロザーリヤは、参考資料として、当時の新聞記事を写した画像ファイル名を幾つも並べる。ファーキルは、後で確認することにして、説明を読み進めた。



 内乱が激しさを増すにつれ、アーテル地方の企業が支社や支店の形で、次々とラニスタ共和国へ避難し、現地人も雇用した為、積極的な排除はありませんでした。

 デカーヌス書店株式会社は、ラニスタ支社で出版を継続、アーテル地方のキルクルス教徒を思想の面で支えました。


 ラニスタ共和国も、現在のアーテル共和国同様、陸の民は八割が力なき民、二割弱が力ある民で、湖の民が非常に少ない国です。

 でも、キルクルス教の移入後、国民の改宗が進んでも、フラクシヌス教の神殿は「文化遺産」として保護されました。フラクシヌス教の神官は現在も、湖南地方文化の継承者や、文化財の管理者の位置付けで存続しています。



 参考資料は、約二百年前から現在まで、十年毎の人口統計だ。力ある陸の民、力なき陸の民、湖の民の人口比は、その頃からあまり変わらない。

 ラニスタ共和国文化庁の文化財保護に関するページのURLも添えてあった。



 ラニスタでは、信仰と切り離すことで、フラクシヌス教や魔法使いと折り合いを付け、共存するようです。



 ファーキルは、ロザーリヤの締め(くく)りの一文を何度も読み返した。

☆心掛けの護り……「0069.心掛けの護り」「764.ルフスの街並」参照

☆ルフス神学校の星道クラスが実習で作った剣……「744.露骨な階層化」参照

☆光ノ剣……「1137.アーテル文化」「1165.小説のまとめ」「1169.調べ物の分担」「1784.特殊部隊の剣」参照

☆“穢れた力を持つ者”を清める儀式……「810.魔女を焼く炎」参照

☆チェルニテース司祭の動向を探る……「1558.動画で広める」→「1566.隣国の報告書」~「1570.本格的な聖歌」参照

☆デカーヌス書店株式会社……「1483.出版社に依頼」参照


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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