表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五十七章 厳科

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1932/3515

1885.提供者は不明

 クラウドにまとまったデータがアップロードされた。

 開放度がやや高く、ゆるく運用する場でアクセス人数が多い為、誰の提供かわからない。


 ファーキルは、手動でウイルスチェックを走らせ、圧縮ファイルを解凍したが、フォルダ内にも、情報提供者の手掛かりはなかった。

 ファイルは全部で十個。いずれも表計算ソフト。ファイル名は、アーテル共和国の地名で、首都だけは、ルフス東、ルフス中央、ルフス西の三分割だ。

 念の為、個別にウイルスチェックを走らせた。


 問題なさそうなので、開いてみる。

 マクロも何もない、素の一覧表だ。

 項目は、役職、使命、生年月日、住所、メールアドレス、SNSアカウント、電話番号、職業、免許、技能。上から順に支部長、副支部長、経理、書記、義勇兵団分団長、義勇兵団小隊長、地区担当班長と続く。

 肩書きのない人物は、年齢が高い順に並ぶ。


 ……義勇兵団?


 ファーキルの心臓が不吉な予感に跳ね上がった。


 今日、マリャーナ宅のパソコン部屋で作業するのは、ファーキル一人だ。

 掌に滲んだ汗を上着の裾で拭い、冷たい紅茶を飲んで、気持ちを落ち着かせようと努めた。


 窓から見える空は厚い雲に覆われ、一歩外へ出れば蒸し暑い日が続く。

 様々な術で守られた屋敷の中は快適で、ともすれば季節を忘れがちだ。難民キャンプに通う亡命議員に同行する日は、イヤでも季節の変化に気付かされる。


 チヌカルクル・ノチウ大陸西部は、間もなく雨の多い季節を迎える。

 難民キャンプがある内陸部では、激しく降ることは滅多にないが、じめじめして食品を黴や腐敗から守るのが大変だ。


 気持ちを切替え、まずは湖南語で支部長の氏名、ファイル名と同じ地名、肩書きを検索する。

 星の(しるべ)ラニスタ本部公式サイトと、ディケア支部のブログ記事がヒットした。


 支部長がアカウントを持つ湖南語話者向けのローカルSNSでも、サイト内検索してみる。

 こちらは、彼と遣り取りしたラニスタ人のアカウントが大量に引っ掛かった。全員、この支部長と繋がりを持つ星の標団員だ。

 星の(しるべ)アーテル支部の公式サイトが出て来ないのは、サーバがアーテル領内にあり、通信障害の影響下にあるからだろう。


 共通語でも、同じ内容で検索する。

 ヒットは数年前のニュースだけだ。

 いつも通り、このニュースも、スクリーンショットとテキストで保存した。

 星の(しるべ)幹部が、国際テロリストとして指名され、バルバツム連邦内の資産を凍結されたと報じる。

 アーテル共和国内の各支部長と、星の標義勇兵団の分団長の氏名が、共通語の文字で列挙される。


 ファーキルは、ファイル内のデータを記事と照合した。

 湖南語表記を共通語に置き換えただけだ。約三分の一は、ファイルに名がない。


 大手のSNSは大半が、バルバツム連邦かバンクシア共和国に本社を設置する。

 念の為、そちらも検索してみたが、一人もアカウントが出て来なかった。両国政府共、星の(しるべ)を国際テロ組織に指定する。アカウントを作成しても、SNSの運営会社が即座に削除し、運営の目を()(くぐ)っても、他のユーザに通報されるのだ。


 ……これ……アーテル共和国内に居る星の標の名簿なんだ。


 ファーキルは、画面をブラウザからファイルに戻した。

 一覧シートの隣には、除名シートがある。

 どちらも似たような名簿だが、「除名」の先頭列は年月日、二列目には除名理由が挿入される。


 除名年月日が古い順で、先程のニュースで見た名前を幾つもみつけた。

 病死、事故死、聖戦の殉死、脱退。

 除名理由は四種類だけで、脱退が最も少ない。

 開戦前までは、聖戦の殉死が多かったが、二一九二年十一月、湖底ケーブル破断後は、事故死が急激に増えた。


 ……魔獣による「捕食事故」か。


 今春からは脱退が増え始め、僅か数カ月でそれ以前の五年分の数倍に上った。


 ……春って何かあったっけ?


 ロークとクラウストラの報告書フォルダを開く。

 ファイル名を見てすぐ気付いた。


 ……オリョールさんが【水晶】を握らせて、魔力があるって暴露したからか。


 本土に居られなくなった星の(しるべ)団員は、ランテルナ島へ流れた。

 最近の脱退者は、力ある民と看做(みな)して、ほぼ間違いないだろう。


 もう一度、共通語の記事を確認する。

 ニュースにあって、一覧にない氏名は、除名シートにあった。


 最終更新日は二一九三年五月末。ほんの半月前だ。


 ……一体、誰が、どこから?


 ファイルのプロパティをひとつずつ確認したが、ファイル作成者は「水」で、手掛かりになりそうもなかった。

 ロークかクラウストラなら、クラウドに上げる前にメールで連絡する。

 そもそも、こんな重要なデータを管理が緩いクラウドに上げない。マリャーナ宅に来て、直接手渡しする筈だ。


 アーテル人のアプリ開発者かもしれないが、そちらの線でも、繋がりがあるクラウストラに話を通したなら、事前に連絡するだろう。


 ……そう言えば、アプリ作った人と連絡役の人って、「工場」のガサ入れの後、どうなったんだろう?


 アーテル政府はインターネットを検閲する。領内からは、ユアキャストなど外国の「自由な表現が可能なサイト」や、報道機関などにはアクセスできない。

 外国のサイトでアクセスできるのは、大聖堂の公式サイトと星光新聞の各国語版サイトくらいなものだ。


 彼らが作ったアプリは、アーテル政府の検閲を突破し、ユアキャストの閲覧を可能にする。


 ファーキルたちのタブレット端末にあるのは、その上位版、検閲をすべて突破する不正アプリだ。

 こちらは、運び屋フィアールカと繋がりがあるバルバツム人が開発し、ヤミで売捌かれるタブレット端末にプリインストールしてある。



 このクラウドは、アクセス許可の範囲が広く、誰が提供したデータかわからないのがもどかしい。


 ……でも、匿名性が高いから、UPしてくれたってコトもあるよな?


 レフレクシオ司祭に共通語訳した氏名を見せれば、ルフス光跡教会を非公式に訪問した者たちの素性がわかるかもしれない。

 ファーキルは、運び屋フィアールカ、ラゾールニク、ローク、クラウストラ、アサコール党首とクラピーフニク議員に名簿ファイルがアップロードされた件をメールで知らせた。

☆星の標を国際テロ組織に指定……「625.自治区の内情」「629.自治区の号外」「687.都の疑心暗鬼」参照

☆聖戦の殉死……「0293.テロの実行者」参照

☆オリョールさんが【水晶】を握らせて、魔力があるって暴露……「1775.星の標の活動」「1776.人助けの報酬」「1815.流入する棄民」~「1817.助けを拒む者」参照

☆アーテル人のアプリ開発者……「799.廃墟の侵入者」「1000.廃病院の探索」「1001.蠍のブローチ」参照

☆彼らが作ったアプリ……「1002.ポスター設置」参照

☆ヤミで売捌かれるタブレット端末にプリインストール……「589.自分の意志で」「0993.会話を組込む」「1001.蠍のブローチ」参照

☆ルフス光跡教会を非公式に訪問した者たち……「1361.お互いの情報」「1688.三日月の密会」~「1691.夜の気晴らし」参照

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ