0189.北ザカート市
国道だけは、瓦礫が片付けてある。
ファーキルは、北ザカート市を縦貫する国道に沿って、魔物避けの防壁に囲まれた市街地を歩いた。
爆弾の直撃を受けたのか、鉄筋コンクリートの建物が崩壊し、木造の民家などは僅かに炭が残るだけだ。
街を通る国道には修復の跡が目立つ。
ラクリマリス王国からの救援物資輸送は、魔道機船ではなく、ザカート隧道と国道を使う陸路との報道は、本当なのだろう。
ファーキルは、崩壊したビルを背景に国道の修復箇所を撮った。
看板らしき物はひしゃげて判読できない。
ファーキルが思ったより、力なき民の住民が多かったのか、焼け跡には自動車の残骸が目立つ。
看板、自動車、破壊され、鉄筋が剥き出しになったビル……生活の痕跡すら残らない焼け跡。
空襲被害の断片を撮り、次々とSNSにUPする。
遺体は一柱もみつからない。
魔法で灰にしたのか、空襲で燃え尽きたのか。
それとも、魔物に食われたのか……
SNSの投稿にどんどんコメントが付き、画像がフォロワーに共有され、フォロワーのフォロワーにも拡散される。
ファーキルは、いつも閲覧する掲示板にアクセスした。
掲示板専用のアップローダには、廃墟の画像と、ザカート隧道付近の画像を一枚ずつUPする。
掲示板には、画像と記事のアドレスを貼ってSNSへ誘導した。
――今、ネーニア島西端の北ザカート市に居ます。
――空襲後の街に入りました。
――今のところ、住人は見ていません。日影は雑妖だらけ。
――国道だけ片付いているのは、ラクリマリスの救援物資輸送用?
――充電の節約で、レスは返しません。
――命と充電と電波がある限り、投稿します。
これにも次々とコメントがついたが、ざっと見ただけでブラウザを閉じた。
充電器を繋ぎ、しばらく撮影を控える。
……どこか、屋根と壁が残ってるトコないかな?
流石に吹き晒しで寝るのは無理だ。明るい内に休める場所を確保しておきたい。
焼け焦げた乗用車の中は、日光を避けた雑妖がぎっしり詰まる。
……あー……これだと、屋根があるトコは雑妖の巣かもなー……
手袋の【退魔】でどのくらい蹴散らせるのか。
ファーキルは、場違いな程キレイに片付いた国道をまっすぐ辿った。
瓦礫の山に足を踏み入れるのは、危険過ぎる。
いつ崩れるかわからず、雑妖だけでなく、魔物が潜む可能性もあった。
雑妖を撮っても、写ったり、写らなかったりした。視えるのに写らないのは不思議だが、仕方がない。
五分くらい歩いて、また写真を撮ってUPする。
最初にUPした記事へのコメントは、三桁に達した。
連続して十枚の画像をUPし、短いキャプションを付け、個別の記事として公開する。
<画像の転載は自由。但し、加工は不可>
ふと思いついて、プロフィール欄に追記した。
ブラウザを閉じ、無人の国道をとぼとぼ歩く。
救援物資用に応急修理したなら、この道は、どこか人の住む街へ繋がるのだ。
物資を輸送するトラックが通り掛かるかもしれない。
……地元民のフリでヒッチハイクしようかな?
我ながら、甘い考えだと思う。
最悪、道なりに行けば、どこかの街に着くだろう。
何日掛かるか見当もつかず、魔物に捕食されるかもしれないが、全くアテがない訳ではない。
……【退魔】で何とかなる小物ばっかり……ってワケにはゆかないだろうけど。
国道には、煤混じりの埃が積もり、タイヤの跡が北へ続く。
東を見れば、所々に原形を留めたビルが頭を出すが、そこへ辿り着く為の道がなかった。
ファーキルは早くこの死の街を出て、人の住む所へ行きたかった。
勿論、身の安全の為だが、焼け出された住人の話も聞きたかった。
影が短くなり、昼を過ぎたが、空腹感はなかった。
家から持ち出した食糧は、ほんの数日分の堅パンや缶詰だけだ。これも、電池同様なるべく節約したい。
商店の跡を発掘すれば、缶詰くらいあると思ったが、スコップも何も持って来なかった。
想定の甘さに歯噛みするが、もう遅い。
端末の時計が十五時を回る頃、ファーキルは街の北端に出た。




