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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五十六章 誅求

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1870/3516

1824.欠けたピース

 ロークは、呪符屋のカウンターで素材屋プートニクに紅茶のおかわりを注いだ。


 ルフス神学校での魔獣狩りの件は、ロークがアーテル共和国本土で得た情報を補完する。

 欠落したパズルのピースを無理に()め込むように自分の持つ情報に都合よく合わせて解釈しないよう、心を無にして聞く。


 「学生寮は、各階の廊下に鮮紅(せんこう)飛蛇(ひだ)がうじゃうじゃ居たけど、全部マコデス人が狩ったぞ。あいつら、プロ中のプロだな」

 ロークはふと気になった。

 「部屋には一匹も居なかったんですか?」

 「赤毛の奴を信じるなら、部屋には一匹も居なかったそうだ」

 「中に発生源がなくて、戸が閉まってりゃ、入ンないもんな」

 ラゾールニクが頷く。


 鮮紅の飛蛇の身体の形では、扉を開けられない。


 「で、渡り廊下で繋がった別棟の三階、デカい水場に居た濃紺の大蛇(おろち)は、俺と隊長が剣でやった」

 「お風呂ですね」

 「そのアーテル人には、戦わないよう言い聞かせたのではありませんか? 何があったのです?」

 ソルニャーク隊長が、四人掛けの卓から聞くと、プートニクは口調を合わせて答えた。

 「アーテル軍の剣は、旧王国軍の制式武器に近い形状でした。(やいば)の状態と、切れ味を確認したくなり、俺と駆除屋が充分弱らせてから、素材採集の名目で少し斬らせました」

 「成程(なるほど)。いかがでしたか?」

 「柄頭(つかがしら)()めてあるのは、魔力を蓄える加工が施された宝石で、刃にも呪文と呪印がありました。隊長の話によると、聖典に記された製法で鍛造された光ノ剣とのことです」


 ラゾールニクが、タブレット端末を操作し、カウンター席に来た。

 「じゃあ、これかな?」

 「そうそう。これ」

 「作り方はこっちだな」

 端末をつついて向けると、プートニクは苦笑した。

 「俺も一応、【飛翔する(タカ)】の徽章(きしょう)は持ってっからな。魔道書の中身くらい知ってるぞ」

 「これ、キルクルス教の聖典なんスけど」

 「は?」

 プートニクが固まる。


 「星道の職人向けの技術書部分で、一般には出回ってないけど。時間あるなら、表紙から順番に(めく)ってく動画もあるけど、どう?」

 「いや、いい。いいけど、魔道書の丸写しじゃねぇか」

 「うん。それは置いといて、切れ味、どうだった?」

 ラゾールニクが話を戻す。

 「濃紺の大蛇(おろち)の鱗をあっさり斬り裂いた。よく見たら、刃に【魔除け】と【光の矢】が仕込んであったぞ」


 「そんなの、アーテルの軍人が使っていいんですか?」

 薬師(くすし)アウェッラーナが疑問を漏らすが、答えられる者は居なかった。


 「濃紺の大蛇(おろち)も、鱗蜘蛛(ウロコグモ)と同じで、まだこの世に来たばっかで、ギリギリ受肉しただけっぽかったけどな」


 扉が開き、客が来た。

 「あ、クラウストラさん。こんにちは」

 「こんにちはー。お客さんいっぱいね。出直した方がいい?」

 「いいからいいから。ここ座って」

 ラゾールニクが自分の隣に座らせる。


 今日のクラウストラは、女子大生風の大人びた顔立ちだ。いつもの青薔薇の髪飾りは、結い上げた黒髪にもよく似合う。

 服装もそれに合わせ、夏物の淡い色合いのジャケットの下は、生地と同じ色の糸で花が刺繍されたブラウス、綿のズボンには飾り気がないが、見えない部分に防禦の呪印などを仕込んであるだろう。

 革のトートバッグを膝に乗せ、タブレット端末を二台取り出した。一台をカウンターに置いて、ロークの方へ押しやる。

 ロークは礼を言い、前掛けで隠れるズボンのポケットに捻じ込んだ。


 「ちょっと見ない間にやたら臭い人増えたんだけど、何なの? あの人たち」


 ロークが答えるより先に薬師(くすし)アウェッラーナが説明した。

 本土で活動する駆除屋が、アーテル人の依頼人に【魔力の水晶】を握らせ、魔力が発覚した者は、追放同然でランテルナ島へ渡って来る。


 クラウストラが納得した顔で、ポンと手を叩いた。

 「あぁ。あの時の人たちみたいなのが……あんな大勢居るの? 何で?」

 「ウチに来る駆除屋さんたちにも、ちょくちょく聞いてるんですけど、みんな、そんなの知らない、そんなコトして何になるんだって首傾げられましたよ」

 「じゃあ、ネモラリス憂撃隊だけが、アーテル人の無自覚な力ある民を炙り出してるってコトかな?」


 クラウストラの一言で、アウェッラーナとソルニャーク隊長の顔色が変わった。


 「オリョールさんたちの仕業だったんですか?」

 「そうです。俺たちは【化粧】の首飾りで顔を変えて、半日同行しただけですけど、オリョールさんは、民家で駆除した後で【水晶】を握らせてました」

 「そっか……そうですよね。チェルノクニージニクとか、この島の住民なら、治安悪くなるのにわざわざそんなコトしませんよね」

 アウェッラーナが、緑髪の頭を抱える。


 ロークの中で、情報の断片がカチリと(はま)った。


 「土魚(どぎょ)の召喚は、俺たちの目の前でヂオリートたちが実行しました。その土魚の駆除で恩を売って、断れなくしてから【魔力の水晶】を握らせる。無自覚な力ある民が居れば一家離散。力なき民も最悪、殺されるかもしれないから、その地域には居られなくなります」


 「鱗蜘蛛(ウロコグモ)がこの世に出て来やすいのは、冬だ。もうすぐ夏の今頃、神学校だけあんなにまとまって、いろんな種類の魔獣が出るなんざフツーねぇからな」

 プートニクが付け足し、ロークは確信を持った。

 「ヂオリートたちが、召喚符か何かで呼び出したモノなんでしょう」

 「魔法陣とか、見ませんでした?」

 クラウストラが聞く。

 「俺は素材採りに行っただけだかンな。赤毛の駆除屋は【索敵】で部屋ン中も見てたが、何も言わなかったぞ」

 「魔獣を探すのに集中してたら、召喚の痕跡を見落とすかもしれませんよ」

 薬師(くすし)アウェッラーナが可能性を挙げた。


 「じゃあ、今度、ルフス神学校へ調査に行きましょう」

 「えッ? ロークさんが? 危なくありませんか?」

 アウェッラーナに心配され、ロークはプートニクを見た。

 「神学校に残ってる魔獣って、土魚(どぎょ)だけですよね?」

 「俺たちが行った日に居た大物は、みんな獲ったけどよ。また召喚してるかもしれんぞ?」


 「あ、俺、ちょっと用事思い出した。夕方にはトラックに戻るから、別行動よろしく」

 ラゾールニクが急に立って、慌ただしく呪符屋を出て行く。みんなは呆気に取られて見送った。


 「何か出ても、私がロークさんを連れて逃げますから」

 クラウストラはにっこり微笑んだ。

☆そのアーテル人には、戦わないよう言い聞かせた……「1820.俄か編成の隊」参照

☆アーテル軍の剣は、旧王国軍の制式武器に近い形状……「1782.居座った魔獣」「1784.特殊部隊の剣」参照

☆あの時の人たち……「1775.星の(しるべ)の活動」「1776.人助けの報酬」参照

☆ウチに来る駆除屋さんたち……「1818.駆除屋の情報」参照

☆俺たちは(中略)半日同行した……「1770.駆除屋の正体」~「1776.人助けの報酬」参照

土魚(どぎょ)の召喚……「1698.真夜中の混乱」~「1700.学校が終わる」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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