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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五十五章 倚伏

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1828/3519

1783.臨機応変作戦

 魔装兵ルベルは、【索敵】で見たモノを逐一、口頭で報告した。

 ラズートチク少尉とは、事前に掛けた【刮目】の術で視覚情報を共有できるが、アーテル陸軍対魔獣特殊作戦群の現場指揮官には、それがない。


 「そこまで正確にわかるものなのか? しかも、我々が把握できなかったモノまで?」

 「この【索敵】の術は、その為のものです。事前に魔物や魔獣の種類、数、位置などがわからなければ、不意打ちで全滅する可能性がありますから」

 「それはそうだが……」

 「俺が修めた【飛翔する蜂角鷹(ハチクマ)】学派は、直接の防禦魔法だけではなく、情報でも、みんなを守るのが役目です」

 「例えば、住民の避難誘導を行う際、避難先の状況を確認しておかなければ、そこにより強力な魔獣が居た場合、餌になりに行くようなものですからね」

 「……そうだな」

 「もしかして、行き当たりばったりで戦って来られたんですか?」

 魔獣駆除業者に扮したラズートチク少尉が呆れてみせる。指揮官はむっとした顔で反論した。


 「斥候は立てた」

 「でも、相手が平敷(ひらしき)だったら、食われて何も伝わりませんよね?」

 「一人や二人で行かせても、犠牲者が増えるだけだと思いますよ。力なき民しか居ないんですよね?」

 「今はそんなコトを云々する暇がない。それより、土中に潜むモノは倒せないと言ったが、どうする気だ?」

 マコデス出身を装うルベルと少尉が言うと、指揮官は強引に話を打ち切り、二人も頭を切替えた。



 作業服姿のラズートチク少尉が、生の鶏胸肉を東側の花壇に投げる。

 乱れた土に落ちた瞬間、土が沸き立つように激しく埃を舞い上げた。


 「霹靂(かむとけ)の (あめ)()りたる (いかづち)は 魔縁(まえん)絡めて 魔魅(まみ)捕る網ぞ」


 腰に差したナイフを抜き、少尉が【紫電の網】を打つ。

 紫色の雷光で編まれた網に触れ、多数の土魚(どぎょ)が一瞬で黒焦げになった。焼け焦げた死骸が、土の上にどんどん積み上がる。


 ルベルは守衛室脇の蛇口を捻り、【操水】を唱えた。【紫電の網】が失効するのを待ち、魔獣の消し炭と鶏肉を回収する。

 少尉は鶏肉を拾い上げて言った。

 「地表へ(おび)き出せばいいんですよ」

 「肉は、たったそれだけで足りるのか?」

 「この花壇くらいは、何とかしてみます」


 ルベルは消し炭になった土魚(どぎょ)を【無尽袋】に詰め、【索敵】の目で東側の花壇を見た。

 「まだ、かなり居ますね」

 「一回で済むとは思っとらんよ」

 ラズートチク少尉はニヤリと笑い、やや離れた花壇に生肉を投げた。再び土埃が立ち、【紫電の網】が絡め取る。

 湿った土の匂いに魚肉が焼け焦げる臭いが混じった。


 指揮官は、何度も繰り返される同じ作業を呆然と見守る。

 「多少は減らせますが、予想通り、数が多いくて完全駆除は難しいですね」

 「より強く、漏洩の危険性が高い中庭のモノから先に片付けましょうか?」

 現場指揮官は、ラズートチク少尉の提案を受け、紙のメモを見た。


 ルフス神学校の手書き略地図だ。

 四方の門にはそれぞれ、守備隊を置くようだが、ほぼ一般兵の部隊では、毛谷蛇(もうやだ)の餌になる未来しか見えない。

 校舎で巣を張る鱗蜘蛛(うろこぐも)と、実習棟の床に擬態した平敷(ひらしき)は待ち伏せ型だ。寮の水場に居る濃紺の大蛇(おろち)と、居室を出入りする鮮紅の飛蛇も移動する可能性はあるが、中庭に居る毛谷蛇と補色蜥蜴(ほしょくトカゲ)よりマシな気がした。


 「わかった。中庭のモノを先に叩こう」

 現場指揮官が駐車区画を抜け、校舎の西側へ回る。

 コンクリートで固められた区画の端へ行くと、雑に耕されたような土の地面が見えた。指揮官が進もうとするのを少尉が止め、ルベルは生肉を投げた。【索敵】で見た通り、土魚(どぎょ)の群が殺到する。

 午前の光は校舎に遮られ、正門から続く道沿いの花壇より多い。

 少尉が繰り返し【紫電の網】を放ち、一度に数十匹を消し炭に変えるが、一向に減る様子がない。


 ……いや、獲った分だけ確実に減ってるんだ。


 ルベルは、魔獣の消し炭を【無尽袋】で回収しながら、疑問を口にした。

 「昨日まで、こんなとこで、どうやって戦ってたんですか?」

 「昨日の作戦では、東門から侵入し、講堂の双頭狼を倒した」



 負傷者を東門から退却させ、残りの部隊を再編。校庭と中庭を調査した。ここでも、土魚(どぎょ)や補色蜥蜴、鮮紅の飛蛇と戦闘になる。

 並行して、別働隊がヘリで学生寮と校舎に接近。ロープで降下した斥候が窓の外から、各階を撮影した。神学生救出作戦の際には居なかった魔獣を確認できたが、撮影中、鮮紅の飛蛇に襲われて偵察を中断。斥候部隊を引き揚げた。



 「一昨日は、星の(しるべ)の人たちと一緒に戦ったんですよね?」

 「神学生の救出後、アングイ・ゲナ大統領補佐官が、陸軍上層部に星の標義勇兵団を出すと申し出た」

 「星の標義勇兵団……?」

 「彼らは、銀の弾丸を装填した銃で戦う無原罪の清き民だ」


 普段は、自警団として屠場や食肉加工場、精肉店などで食肉を扉に発生した魔獣を駆除する。要請があれば、スーパーマーケットや一般家庭にも出動した。


 本土領の各学校で土魚(どぎょ)が大量発生してからは、学習環境の回復を目標に掲げ、教会の敷地や校庭などで、対魔獣特殊作戦群と共に掃討作戦に参加する。

 土魚には通常兵器の攻撃が通用する為、校庭などでは一定の戦果を上げたが、既に周辺の土中に拡散した後だ。校庭、植栽、民家の庭などを自在に往来し、キリがない。

 それでも、教会や民家などは、駆除を終えた直後にセメントやコンクリートで土を埋めることで、安全確保ができた。

☆【刮目】の術で視覚情報を共有……「0136.守備隊の兵士」「0233.消え去る魔獣」「487.森の作戦会議」参照

☆相手が平敷だったら、食われて何も伝わりません……「1253.攻撃者の目的」参照

☆マコデス出身を装うルベルと少尉……「1726.作戦前の共有」参照

☆アングイ・ゲナ大統領補佐官……「1688.三日月の密会」参照

☆自警団として(中略)一般家庭にも出動……「328.あちらの様子」参照

☆駆除を終えた直後にセメントやコンクリートで土を埋めることで、安全確保……「1733.業者に出会う」「1770.駆除屋の正体」「1772.高額な駆除料」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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