1783.臨機応変作戦
魔装兵ルベルは、【索敵】で見たモノを逐一、口頭で報告した。
ラズートチク少尉とは、事前に掛けた【刮目】の術で視覚情報を共有できるが、アーテル陸軍対魔獣特殊作戦群の現場指揮官には、それがない。
「そこまで正確にわかるものなのか? しかも、我々が把握できなかったモノまで?」
「この【索敵】の術は、その為のものです。事前に魔物や魔獣の種類、数、位置などがわからなければ、不意打ちで全滅する可能性がありますから」
「それはそうだが……」
「俺が修めた【飛翔する蜂角鷹】学派は、直接の防禦魔法だけではなく、情報でも、みんなを守るのが役目です」
「例えば、住民の避難誘導を行う際、避難先の状況を確認しておかなければ、そこにより強力な魔獣が居た場合、餌になりに行くようなものですからね」
「……そうだな」
「もしかして、行き当たりばったりで戦って来られたんですか?」
魔獣駆除業者に扮したラズートチク少尉が呆れてみせる。指揮官はむっとした顔で反論した。
「斥候は立てた」
「でも、相手が平敷だったら、食われて何も伝わりませんよね?」
「一人や二人で行かせても、犠牲者が増えるだけだと思いますよ。力なき民しか居ないんですよね?」
「今はそんなコトを云々する暇がない。それより、土中に潜むモノは倒せないと言ったが、どうする気だ?」
マコデス出身を装うルベルと少尉が言うと、指揮官は強引に話を打ち切り、二人も頭を切替えた。
作業服姿のラズートチク少尉が、生の鶏胸肉を東側の花壇に投げる。
乱れた土に落ちた瞬間、土が沸き立つように激しく埃を舞い上げた。
「霹靂の 天に織りたる 雷は 魔縁絡めて 魔魅捕る網ぞ」
腰に差したナイフを抜き、少尉が【紫電の網】を打つ。
紫色の雷光で編まれた網に触れ、多数の土魚が一瞬で黒焦げになった。焼け焦げた死骸が、土の上にどんどん積み上がる。
ルベルは守衛室脇の蛇口を捻り、【操水】を唱えた。【紫電の網】が失効するのを待ち、魔獣の消し炭と鶏肉を回収する。
少尉は鶏肉を拾い上げて言った。
「地表へ誘き出せばいいんですよ」
「肉は、たったそれだけで足りるのか?」
「この花壇くらいは、何とかしてみます」
ルベルは消し炭になった土魚を【無尽袋】に詰め、【索敵】の目で東側の花壇を見た。
「まだ、かなり居ますね」
「一回で済むとは思っとらんよ」
ラズートチク少尉はニヤリと笑い、やや離れた花壇に生肉を投げた。再び土埃が立ち、【紫電の網】が絡め取る。
湿った土の匂いに魚肉が焼け焦げる臭いが混じった。
指揮官は、何度も繰り返される同じ作業を呆然と見守る。
「多少は減らせますが、予想通り、数が多いくて完全駆除は難しいですね」
「より強く、漏洩の危険性が高い中庭のモノから先に片付けましょうか?」
現場指揮官は、ラズートチク少尉の提案を受け、紙のメモを見た。
ルフス神学校の手書き略地図だ。
四方の門にはそれぞれ、守備隊を置くようだが、ほぼ一般兵の部隊では、毛谷蛇の餌になる未来しか見えない。
校舎で巣を張る鱗蜘蛛と、実習棟の床に擬態した平敷は待ち伏せ型だ。寮の水場に居る濃紺の大蛇と、居室を出入りする鮮紅の飛蛇も移動する可能性はあるが、中庭に居る毛谷蛇と補色蜥蜴よりマシな気がした。
「わかった。中庭のモノを先に叩こう」
現場指揮官が駐車区画を抜け、校舎の西側へ回る。
コンクリートで固められた区画の端へ行くと、雑に耕されたような土の地面が見えた。指揮官が進もうとするのを少尉が止め、ルベルは生肉を投げた。【索敵】で見た通り、土魚の群が殺到する。
午前の光は校舎に遮られ、正門から続く道沿いの花壇より多い。
少尉が繰り返し【紫電の網】を放ち、一度に数十匹を消し炭に変えるが、一向に減る様子がない。
……いや、獲った分だけ確実に減ってるんだ。
ルベルは、魔獣の消し炭を【無尽袋】で回収しながら、疑問を口にした。
「昨日まで、こんなとこで、どうやって戦ってたんですか?」
「昨日の作戦では、東門から侵入し、講堂の双頭狼を倒した」
負傷者を東門から退却させ、残りの部隊を再編。校庭と中庭を調査した。ここでも、土魚や補色蜥蜴、鮮紅の飛蛇と戦闘になる。
並行して、別働隊がヘリで学生寮と校舎に接近。ロープで降下した斥候が窓の外から、各階を撮影した。神学生救出作戦の際には居なかった魔獣を確認できたが、撮影中、鮮紅の飛蛇に襲われて偵察を中断。斥候部隊を引き揚げた。
「一昨日は、星の標の人たちと一緒に戦ったんですよね?」
「神学生の救出後、アングイ・ゲナ大統領補佐官が、陸軍上層部に星の標義勇兵団を出すと申し出た」
「星の標義勇兵団……?」
「彼らは、銀の弾丸を装填した銃で戦う無原罪の清き民だ」
普段は、自警団として屠場や食肉加工場、精肉店などで食肉を扉に発生した魔獣を駆除する。要請があれば、スーパーマーケットや一般家庭にも出動した。
本土領の各学校で土魚が大量発生してからは、学習環境の回復を目標に掲げ、教会の敷地や校庭などで、対魔獣特殊作戦群と共に掃討作戦に参加する。
土魚には通常兵器の攻撃が通用する為、校庭などでは一定の戦果を上げたが、既に周辺の土中に拡散した後だ。校庭、植栽、民家の庭などを自在に往来し、キリがない。
それでも、教会や民家などは、駆除を終えた直後にセメントやコンクリートで土を埋めることで、安全確保ができた。
☆【刮目】の術で視覚情報を共有……「0136.守備隊の兵士」「0233.消え去る魔獣」「487.森の作戦会議」参照
☆相手が平敷だったら、食われて何も伝わりません……「1253.攻撃者の目的」参照
☆マコデス出身を装うルベルと少尉……「1726.作戦前の共有」参照
☆アングイ・ゲナ大統領補佐官……「1688.三日月の密会」参照
☆自警団として(中略)一般家庭にも出動……「328.あちらの様子」参照
☆駆除を終えた直後にセメントやコンクリートで土を埋めることで、安全確保……「1733.業者に出会う」「1770.駆除屋の正体」「1772.高額な駆除料」参照




