表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五十三章 可変

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1752/3515

1709.復帰後初任務

 魔装兵ルベルは検査の為、再び陸軍病院へ入院した。

 検査は半日で済んだが、経過観察で三日間、陸軍病院に留め置かれる。


 ……ラニスタでの任務はちゃんとできたし、大丈夫だと思うんだけどなぁ?


 長い入院生活で体力が落ち、筋力も衰えた。素手で殴り合うような荒事は無理だが、ルベルは魔装兵だ。イザとなれば、魔法で対応できる。



 「退屈そうだな」

 入院二日目、シクールス陸軍将補が病室を訪れた。

 アル・ジャディ将軍に次ぐネモラリス軍幹部に迂闊なコトは言えない。一介の魔装兵でしかないルベルは、何も言わず、雲の上の上官を見た。


 護衛を退()がらせ、個室で二人きりだ。

 シクールス陸軍将補はきっちり軍服を着込むが、ルベルは陸軍病院が用意した寝間着姿で、寝台に浅く腰掛ける。上官は付添い用の丸椅子に座り、目線の高さは近いが、気マズかった。


 「ラニスタは、どうだった?」

 「は、はい! 報告します!」

 ラズートチク少尉から、とっくに報告を受けたと思うが、魔装兵の口からも確認しておきたいのだろう。

 魔装兵ルベルは背筋を伸ばし、順を追って説明した。

 「一昨日までの七日間、ラズートチク少尉と二人で、アーテルとラニスタの国境付近へ行って参りました」



 二人はまず、アーテル共和国のイグニカーンス市へ跳んだ。

 以前、魔哮砲の給餌で訪れた廃病院でラジオを受信し、帯域を実地で確認する。ラズートチク少尉が入手した星光新聞アーテル版で、番組表と照らし合わせながら聞いた。アナウンサーやDJなどの声を覚えるのも、目的のひとつだ。


 次に少尉の【跳躍】でアケル市の廃ビルに移動。ラジオの確認後、インターネットの接続状況も見た。

 アーテル東端の街でも、インターネットは未だに繋がらない。



 「何故だ?」

 「ラズートチク少尉の調査によりますと、アーテル共和国内のアンテナ車は、全て首都ルフスの官庁街と、基地に集められたそうです」

 「アケル市は、ラニスタとの貿易で重要な筈だが」

 「実際、繋がらなかったと言うコトは、アケル市には、アンテナ車や車載型の小型基地局が、配備されなかったのではないかと思われます」

 「そうか。続けろ」



 アケル市からは、小刻みに【跳躍】を繰り返して南下する。アーテル本土では、魔獣駆除業者の姿がすっかり定着し、術で移動しても誰も驚かなかった。

 潜伏場所は、比較的人里に近い森林内で放棄された猟師小屋だ。


 ラズートチク少尉はルベルの入院中、他の兵と共にラニスタ共和国内で事前調査を行った。

 ラニスタ共和国も、キルクルス教を国教と定める科学文明国だが、湖の民と力ある陸の民も、少数ながら居住する。

 かつては森林内で狩猟を生業(なりわい)とする者がそれなりに居たが、星の(しるべ)がアーテル共和国から流入して以来、森に立入る者は滅多に居なくなった。



 「何故だ?」

 「ラズートチク少尉の調査によりますと、森を出入りする姿を誰かに目撃されると、後で星の標のテロに遭うからだそうです」

 シクールス陸軍将補の声は、質問ではなく確認だ。頷いて先を促す。

 「今回の調査は、リハビリを兼ねたものなので、ラニスタの街へは出ず、森と、放棄された猟師小屋で過ごしました」



 午前中は、インターネットが接続可能な範囲の調査。

 食糧は最低限だけ携行し、国境付近の森林調査も兼ねて現地調達する。

 少尉の情報通り、林道は草木に埋もれ、切り株も新しい物はなかった。

 人の手が入らなくなった森林は、喬木(きょうぼく)の枝葉が好き放題に生い茂り、日照不足に陥った林床の植物群落は貧弱だ。それでも、狩猟圧がなくなって久しいからか、動物の個体数は多い。


 鹿や兎など、獲物は豊富で、素材が採れる魔獣にも何度か遭遇した。

 ルベルの再訓練も兼ねて魔獣狩りを行い、採れた素材はラズートチク少尉が、司令本部の工廠(こうしょう)へ納品する。

 魔獣駆除業者の恰好で森へ入ったが、同業者には一度も往き合わなかった。

 インターネットは、森の北東端まで行けば、辛うじてタブレット端末のアンテナ表示が一本点灯する。街から光が見えないよう、日中、森の調査に出た際にニュースなどを確認すると決まった。


 国境付近の森は、あまり大きくない。

 緩衝地帯の草原を挟んで麦畑が広がり、湖岸沿いに街や村がまとまる。緩衝地帯は、アーテル共和国との軍事的なものではなく、森林に棲息する魔物や魔獣に対するものだ。

 畑は【索敵】や【遠望】の術を使わなければ見えないくらい遠い。

 森林の北東、緩衝地帯と畑の境界に大型の鉄塔がある。これが基地局で、森の手前付近まで電波を飛ばすらしい。


 ラズートチク少尉曰く、「畑仕事の最中に何かあった際、助けを求められるようにだろう」とのことだ。



 「助け? 魔獣に襲われたとして、間に合うのか?」

 「わかりません。しかし、少なくとも、魔獣の出現は村に伝わり、備えができるのではないでしょうか」

 「成程な。続けろ」



 午後からは、小屋に戻ってラジオを聞く。

 アーテル共和国のラジオは、国営放送と民放のAM局が二局、国境付近のラニスタ領内でも、問題なく入った。


 三日目の午後、ラジオのニュースで、スピナ市立第一小学校への爆破予告と、スピナ中央商店街に現れた魔獣の群による住民避難を知った。

 商店街に出現したのは、四眼狼の群で、一頭倒す度に速報が入る。三頭目を倒した際、死骸から鮮紅(せんこう)飛蛇(ひだ)が涌き、駆除に手間取った。

 ラジオで聞いた限りでは、スピナ市警が駆除にあたったらしい。


 駆除が終わったのは日没後だ。

 付近の小学校へ避難した住民は、翌朝まで待機するよう、アナウンサーが何度も繰り返す。

 アーテル本土の住居には【魔除け】などの防護がない。住民を一カ所に集めて、軍や警察が護った方がマシなのだろう。



 魔装兵ルベルは、何度も足を運んだ街の様子からそう思ったが、考えの甘さを思い知らされた。

☆以前、魔哮砲の給餌で訪れた廃病院……「798.使い魔に給餌」~「800.第二の隠れ家」参照

☆ラズートチク少尉はルベルの入院中(中略)事前調査……「1633.代理の報告書」~「1637.気になる隣国」参照


 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ