表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五十二章 隣国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1719/3515

1677.分かれて行動

 念の為、時間をずらしてカフェを出て、別の道から素材屋へ戻った。


 先に戻った薬師(くすし)アウェッラーナを素材屋プートニクの困った顔が迎える。

 「遅くなってすみません」

 「いいってコトよ。金髪の兄ちゃんは? 先にランテルナ島へ跳んだのか?」

 「いえ、もうすぐ来ます」

 スキーヌムはカウンターの端に寄り、何もない壁に向かって啜り泣く。


 ……二手に分かれた方がいいのかな?


 クルィーロは次の店には行かず、すぐにでもランテルナ島へ跳んでもらう。

 アウェッラーナとスキーヌムは、予定通り魔法薬の素材を買って、明日は神殿書庫へ行く。今のスキーヌムは、美術全集を眺める気にはなれないかもしれないが、今回を逃せば、次はいつ来られるかわからないのだ。


 「姐ちゃんたち、あの逃亡犯の知り合いか?」

 「私は面識ありませんけど、共通の知人が何人か居ます。クルィーロさんは去年の秋、別の知り合いと一緒に居るとこに出会って、少し話しました」

 「坊主と逃亡犯の関係は、さっきちょっと聞いた」

 プートニクが、まだ店の隅で泣き続ける元神学生スキーヌムを顎でしゃくる。


 ……フィアールカさんたちにも相談した方がいいよね?



 クルィーロが、周囲を警戒しながら素材屋に入り、後ろ手に扉を閉める。

 薬師(くすし)アウェッラーナが予定を提案すると、スキーヌムが振り向いて、怯えた目で連れの魔法使い二人を見た。

 「ラゾールニクさん……は今、ランテルナ島だから、メール届かないな。じゃ、取敢えずフィアールカさんにメールしてみます」

 クルィーロは、スキーヌムの視線を全く意に介さず、タブレット端末をつつく。


 プートニクが奥へ引っ込んだ。


 「三人一緒に居るのをシルヴァさんたちにみつかるのは、よくないと思うんですけど、アウェッラーナさんがスキーヌム君と一緒ってのも、それはそれでマズいって言うか」

 「あぁ……確かに、知り合いなのがバレると面倒なコトになりそうですよね」


 老婦人シルヴァは、武装してアーテル軍の基地を襲った元キルクルス教神学生のロークだけでなく、ゲリラに魔法薬を提供した薬師(くすし)アウェッラーナも、再び仲間に引き入れたいらしい。


 スキーヌムは、レフレクシオ司祭を刺して逃亡犯となったヂオリートを未だに同級生としての目で見るようだ。ヂオリートに問われれば、自分たちの居所や勤務先を無警戒に教えてしまいかねない。


 警備員ジャーニトルによると、現在、ネモラリス憂撃隊の指揮を執るのは、同じく魔法戦士の警備員オリョールだ。彼は、去る者追わずで、ジャーニトルたちが抜けるのを快く承諾した。

 それ以前にも、アウェッラーナたち移動販売店プラエテルミッサの者たちを逃がしてくれた。


 だが、老婦人シルヴァは、あの手この手で、ゲリラの人員を補充する。オリョールの意向とは別に動く可能性が高い。



 「あ、返事、来ました」

 クルィーロが、運び屋フィアールカからのメールを読み上げる。



 〈三人バラバラに行動した方がいいわね。

  今から私とクラウストラさんが行くわ。

  素材屋さんの地図を送ってちょうだい。〉



 「……だそうですけど、どうします?」

 「つまり、クルィーロさんは今すぐ、獅子屋さんに手紙を預けに行って、私とスキーヌム君は、どちらかが付き添ってくれるってコトよね?」

 「まぁ、そうでしょうね」

 クルィーロは頷いたが、スキーヌムは魔法使い二人に怯えた目を向けるだけで、何も言わない。

 「神殿書庫の件も伝えたから、スキーヌム君には多分、フィアールカさんが付き添ってくれると思うよ」

 「で、でも、こんな時に……」

 やっと発した声は、怯えに揺れる。

 「今を逃したら、次はないかもしれないのに直帰するのか?」

 スキーヌムは息を呑み、眼鏡の奥で淡い色の目を見開いた。


 クルィーロは返事を待たず、端末をつつく。

 「どっち(みち)、この店の地図は送んなきゃなんないし、返事するよ」

 「あ、あの、店長さんに無断でそんな……」

 震える声で抵抗を試みるが、クルィーロは呆れ声を返した。

 「ネットに公開されてる情報だし、二人が知り合いなの、君も知ってるだろ?」




 薬師(くすし)アウェッラーナは、買物の一覧を確認して心を落ち着かせる。

 兄は最近、血圧が上がり始めた。【見診】の術では正確な数値まではわからないが、年齢的によくない傾向だ。どの薬が合うか【見診】で確認しながら、何種類か試したい。

 ホールマ市で買った【思考する(フクロウ)】学派の魔道書で素材を確認し、手帳に控えて来た。

 いずれも、【思考する梟】学派か【飛翔する梟】学派の資格がなければ購入できない。完成品の薬も、処方箋なしでは患者に渡せないものだ。

 難民キャンプでも需要が高そうだが、あちらはファーキルとマリャーナが何とかするだろう。



 ノックの音で、スキーヌムが壁に張り付いた。

 返事を待たず、声と同時に扉が開く。

 「お待たせー」

 運び屋フィアールカとクラウストラの組合せは、初めて見た。扉を閉めると、五人でぎゅうぎゅうだ。

 素材屋の店主プートニクが、奥から顔を出す。

 「商売の邪魔しちゃって悪いわね。すぐ出るから」

 「別に構わんが、大丈夫なのか?」

 「流石に王都で荒事はないでしょうよ。腐ってもフラクシヌス教徒なんだから」

 「まぁな」


 「クルィーロさんは、このまま獅子屋さんに跳んで。ローク君には私から説明するから、呪符屋には寄らないですぐ移動放送局へ帰って」

 「了解」

 「後の二人は、別々に宿を押えたわ」

 「えッ?」

 運び屋の一方的な説明に元神学生が不安を漏らす。

 「おいおい、坊主、薬師(くすし)の姐ちゃんと同じ部屋に泊まる気か?」

 「いッ、いえ、そうではありませんが……」

 プートニクが茶化すと、スキーヌムは真っ赤になって(うつむ)いた。


 「坊やは今から宿へ行って、一歩も出ないで。食事は部屋に運ばせるわ」

 「えッ……」

 「西神殿の書庫には、私が明日、案内するから」

 顔を上げたスキーヌムが渋々頷く。

 「薬師さんには、私が付き添います」

 クラウストラは会う度に顔が違い、青薔薇の髪飾りがなければわからない。

 「有難うございます。よろしくお願いします」



 念の為、三組は少しずつ時間を置いて素材屋を出た。

☆武装してアーテル軍の基地を襲った元キルクルス教神学生のローク……「459.基地襲撃開始」~「466.ゲリラの帰還」参照

☆ゲリラに魔法薬を提供した薬師アウェッラーナ……「323.街へのお使い」参照

☆レフレクシオ司祭を刺して逃亡犯となったヂオリート……「1075.犠牲者と戦う」~「1077.涸れ果てた涙」「1119.罪負う迷い子」参照

☆ジャーニトルたちが抜けるのを快く承諾……「837.憂撃隊と交渉」「838.ゲリラの離反」参照

☆移動販売店プラエテルミッサの者たちを逃がしてくれた……「470.食堂での争い」「471.信用できぬ者」「472.居られぬ場所」参照

☆二人が知り合いなの、君も知ってる……「1339.熟練工の喩え」「1340.向こう岸では」参照

☆ホールマ市で買った【思考する梟】学派の魔道書……「1507.魔道書の本屋」参照

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ