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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五十二章 隣国

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1661.機材を据置く

 レノとクルィーロは、ファーキルからデータが詰まったタワー型パソコンと周辺機器、蓄電池付きの魔力発電機、それに説明書と教材用の冊子を渡され、ネモラリス島南東部へ戻った。


 「一日で二カ所って、やっぱ、ゆっくり話す暇なかったな」

 「そうだな」

 レノの頭の中はパソコンの設置手順で飽和状態。クルィーロの話が右から左へ抜けてゆく。


 もう夕方で、旧直轄領の村は、各家庭の夕飯の匂いが入り混じる。

 校庭に子供たちの姿はないが、校舎は一部屋だけ明かりが漏れる。

 「職員室かな?」

 「え? 今から行くのか?」

 「校長先生が居たら、忘れない内に説明したいんだけど」

 レノは、一晩寝たら忘れる自信がある。

 「えーっと、じゃあ、ちょっと話だけしに行こうか。明日以降って言われるだろうけど」


 二人は移動放送局のトラックに顔を出さず、明かりが漏れる窓の傍へ行った。

 思った通り、職員室だ。

 数人の教員が机に向かう姿が見えたが、校長の姿はない。レノは思い切って窓をノックした。一人が気付いて怪訝な顔で窓を開けた。

 「どうされました?」

 「遅くにすみません。校長先生に頼まれた件、何とかなったので、取り急ぎお伝えしたくて」

 「まだ、校長室にいらっしゃいますよ」

 緑髪の教員は残業を中断し、わざわざ校舎から出て案内してくれた。


 校長室は、職員室と廊下を挟んだ向かいだ。こんな時間にも(かかわ)らず、すぐ通してくれた。

 教員が自分の仕事へ戻るのを待って、クルィーロが用件を切り出す。

 「遅くに恐れ入ります。データ入りの端末が、手に入りました」

 「恐れ入ります。今、拝見させていただいてよろしいですか?」

 「どこに設置しましょう?」

 「設置?」

 緑髪の校長は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で聞き返した。

 「学校で、子供たちの教育に使うって言ったら、タブレット端末じゃなくて、画面が大きいパソコンと投影機を用意してくれたんです」

 「こっちの機械は、それ用の蓄電池付き魔力発電機です」

 レノは布袋を上げてみせた。

 クルィーロが軽く説明する。

 「発電機とパソコンと画面と投影機を繋げば、白い壁とかにOHPより大きくて鮮明な映像を投影できます」

 「……と、なると、ここでは狭いか……予備の教室へ行きましょう」

 レノとクルィーロは、マスターキーを手にした校長について行った。



 理科室の手前の教室に入る。

 校長は分厚いカーテンを閉めたまま【灯】を(とも)した。教室には電源がなく、天井にも照明器具がない。

 レノはクルィーロと二人で椅子を()け、木製の机四台を黒板とは反対側の壁の前に寄せて、一塊にした。


 まず、レノが袋から蓄電池付き魔力発電機を出して置く。

 「これが電源スイッチで、必ず切った状態で上の蓋を開けて下さい」

 蓋を取って動力源として設置された【魔力の水晶】を見せる。校長は頷きながら手帳に控えた。

 「十二個の【水晶】に魔力を充填してから、蓋して下さい」

 クルィーロがスーツケースからパソコン本体、マウス、キーボード、液晶画面、プロジェクターとケーブル類、説明書を次々と出して机に並べた。

 「こんなに……」

 長命人種の校長が息を呑む。機器を初めて目にしたらしく、不安そうに大量の機材を見守る。


 「組立ては俺がします。後で外さなければ、大丈夫ですよ」

 クルィーロはにっこり笑って手際よく配線を繋ぎ、機械類を使い勝手がよさそうな位置に並べた。タブレット端末で写真を確認して満足げに頷く。


 レノは手帳を開いて、手順を確認した。

 「まず、発電機のスイッチを入れてから、蓋に書いてある発動の合言葉を唱えて下さい」

 校長が恐る恐る操作し、力ある言葉を唱えた。スイッチ横に緑の灯が点灯する。

 「次、パソコン本体と画面の電源を入れて下さい」

 各機器の説明書は分厚い。ファーキルが、紙一枚に操作手順を図入りでまとめてくれた。クルィーロは、まとめと実際の機器を示しながらゆっくり説明する。


 校長が、クルィーロに教えられたパスワードを手帳に控え、指一本でたどたどしく入力した。

 ファーキルは手許を見ず、何でもないことのように両手で入力するが、実は凄いことだったらしい。


 表示された画面の隅にには、「データ」と書かれた小さい書類入れの絵と、プロジェクターの絵だけがある。

 「このフォルダにデータが色々入っています」

 クルィーロが、マウスの動かし方を教える。


 ……いつの間に覚えたんだ?


 校長は矢印を明後日の方向に飛ばしつつ、どうにか「データ」のフォルダを開いた。映像、文章、写真、ニュース、取扱説明書。フォルダ内には簡潔な名称のフォルダが並ぶ。

 校長はフォルダを順に開け、震える声で礼を言った。

 クルィーロが表情を引き締める。

 「先生の中には、神政復古派って居ませんか?」

 「残念ながら、三人居ます」


 レノは今頃、その可能性に気付いた。

 「でも、他の先生に内緒って無理だろ?」

 「この教室に……扉と窓全部に【鍵】掛けて窓割られないように【頑強】掛けるくらい?」

 クルィーロが難しい顔で対策を捻り出すと、校長は同じ顔で頷いた。


 「取敢えず、最後まで説明しますね」

 クルィーロが、動画の再生方法とプロジェクターの使い方を説明し、当たり障りなさそうな「この大空をみつめて」の動画を白い壁に投影させる。

 「天気予報にこんな歌があったんですね」

 「えっ? 長命人種の人も知らないんですか」

 「レコードあるのに? 発売されなかったのかな?」

 レノとクルィーロが首を傾げ、校長も何とも言えない顔で首を捻った。


 ニプトラ・ネウマエの歌を最後まで聴いて、クルィーロは各機器の電源の切り方を実演する。

 「じゃ、今度は校長先生がイチからしてみて下さい」

 校長は手帳を見ながら、おっかなびっくり発電機を起動し、パソコンとプロジェクターを操作する。飲み込みが早く、たった一回の説明で、複雑な操作を間違いなくこなした。


 ニュースと文章はすべてPDF化し、書き換えられなくしてある。


 「それとこれ、歴史動画の説明書です」

 「有難うございます。明日、あなた方とジョールチさんたちも交えて、神官と教職員の試写会をしようと思うのですが、ご都合よろしいでしょうか?」

 「俺たちは蔓草(つるくさ)細工ができるまで居るんで、別にいいんですけど」

 「神政復古派の先生、三人も居るんですよね?」

 レノとクルィーロが同時に懸念を口にする。

 「神官は三人とも民主派なんです。どうせなら、早めに立会いの(もと)で見せた方がいいと思うのですが、どうでしょう?」

 「わかりました。ジョールチさんに聞いてみます」


 二人は空の袋とスーツケースを持ち、ひとまず移動放送局のテントに帰った。

※ OHP……オーバーヘッドプロジェクター。透明のシートに図や文字を書いて壁面などに投影させる。会議やプレゼンテーション、学校などでよく使われたが、現在はパソコンにプロジェクターを接続してパワーポイントが主流。


☆歴史動画……「1563.ふたつの歴史」~「1565.紛争の起爆剤」参照

☆蔓草細工ができるまで居る……「1631.初めての注文」参照


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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