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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五十二章 隣国

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1641.データを渡す

 「旧直轄領の住民が、インターネットを知っていたとは意外です」

 呪医セプテントリオーが話題を変えた。


 クラピーフニク議員がタブレット端末を手に聞く。

 「ジョールチさん、学生さんの他にわかる村人、居そうですか?」

 「神殿関係者や、ここ数年以内に王都で巡礼した方々も、目にした可能性があります」

 「これ系のお店もいっぱいありますからね」

 クルィーロも、王都ラクリマリスの通りを思い出して言う。


 いつからあるかわからない古い飲食店などと、タブレット端末と回線契約の専門店や、充電器の専門店などが軒を並べる。

 魔法と科学、古くからの伝統と最新の流行がモザイク状に混在しても、秩序が失われない。不思議な混沌があった。


 「時間に余裕があったら、気になって覗くかもしれませんね」

 主にラクリマリス王国領内で活動するクラピーフニク議員が納得する。


 「フィアールカさんの知り合いの神官も使ってましたし、直轄領の神官も、王都に行った時に向うの知り合いが使うのを見てそうですよね」

 「そうね。外国人の巡礼者や観光客が多いから、ないと仕事にならないし、ネモラリス人の神官が使い方を教わっても、不思議はないわね」

 クルィーロが言うと、運び屋フィアールカは端末を小突いた。

 みんなの端末は、大量のデータを受信中で、今は他の操作をできそうもない。クルィーロの端末もクラウドからダウンロード中で、「完了まで一時間以上」の表示が出たままだ。



 「誰が持つかは現地の人に考えてもらうとして、回線契約をせずにデータだけ入れた端末を一台。その村に渡してみるの、どうでしょう?」

 ファーキルの思い切った提案に大人たちの視線が集まる。

 「ケーブルでパソコンと繋げばイケますけど」

 「どんなデータを渡すつもり? それに、スタンドアローンなら、ノートパソコンの方がよさそうじゃない?」

 「旧直轄領のその村は、島守が地主なのですよね? つまり、ラキュス・ネーニア家の本家に近い血筋の……」

 運び屋フィアールカと呪医セプテントリオー、湖の民二人が疑問と懸念を示す。


 「滞在中の村は、双子のサル・ウルとサル・ガズが地主代理です。現在は、積極的に隠れキルクルス教徒狩りを実行した(かど)で、首都のどこかで閉じ込められているそうですが、人伝(ひとづて)に彼らか、その身内や仲間に伝わっても構わない情報は、非常に限られます」

 国営放送アナウンサーのジョールチが、滔々(とうとう)と捲し立てた。


 ファーキルは、全く動じる様子もなく答える。

 「逆に、そう言う人たちに知らせたい情報を渡すんです。端末の種類は現地の人の知識によると思いますけど」

 「何の情報を渡すと言うのだね?」

 ラクエウス議員が難色を示す。


 クルィーロは、どんな情報なら渡しても支障ないか、ネミュス解放軍に伝えるべき情報は何か、考えた。


 ……難民キャンプの状態……は、ダメだな。困ってる人にカネちらつかせて勧誘しそう。


 「ラクリマリスのニュースとか?」

 「そうですね。ラクリマリスに限らず、外国の報道機関が、魔哮砲戦争とクーデターをどう報道しているか、外国からの客観的な視点と、どんなプロパガンダに利用されてるか、伝えた方がいいかなって思ってます」

 ファーキルがクルィーロに頷いて、大人たちを見回す。

 ラクエウス議員は低い声で唸り、腕組みをして目を(つぶ)った。


 ……そっか。外国の情報が欲しくて、村の神官が王都へ行くんだ。


 ファーキルが、運び屋フィアールカと呪医セプテントリオー、壁の前に立つアサコール党首を見る。

 「それでしたら、この間作った歴史の動画も入れた方がいいかもしれませんね」

 ラクエウス議員が勢いよく瞼を上げた。

 「それを入れるなら、聖典を(めく)る動画も入れねばな」

 「じゃあ、PDF化した聖典も要りますね」

 「そうですね。キルクルス教の聖典に魔法が幾つもあると知れば……どう動くか未知数ではありますが、良い方へ向かう可能性も全くないとは言い切れません」

 ファーキルは打てば響く勢いだが、アナウンサーのジョールチは歯切れが悪い。


 「星の(しるべ)がどうしようもない異端者だってのは、ウヌク・エルハイア将軍とカピヨー支部長……あの時、自治区に居た解放軍の兵士とかはもう知ってるけど、襲撃に加わらなかった人たちに伝えたかどうか、わかんないからね」

 ラゾールニクが肩を(すく)め、リストヴァー自治区に行った呪医セプテントリオーと運び屋フィアールカが頷く。

 自治区代表のラクエウス議員は、渋い顔で唇を引き結んだ。



 「聖典を知れば、自治区のキルクルス教徒の為との名目で、自治区外で再び、異端者狩りが行われる可能性がありますね」

 マリャーナが、みんなの漠然とした不安を言語化した。


 「今んとこ、解放軍が星の(しるべ)の支部を襲ったのも、逆も聞いたコトないけど、その辺どう?」

 ラゾールニクが聞くと、クラピーフニク議員は即答した。

 「リャビーナ市民楽団の方々からは、特に何もありませんね。例の倉庫会社は普通に業務を続けているそうです」

 「解放軍も、星の標の支部くらい把握してそうなモンだけどね」

 「監視くらいはしているかもしれませんが、目立った動きはないようです」



 クルィーロは、オースト倉庫株式会社の敷地で開催された慈善コンサートを思い出した。

 ロークの調査によると、オースト倉庫の社長夫妻は、隠れキルクルス教徒で、星の(しるべ)リャビーナ支部長だ。その一方で、空襲で焼け出された力なき民の避難民を自社で大量に雇用する。

 仮設住宅で暮らすパートやアルバイトにとっては、生命線だ。

 オースト倉庫株式会社を星の(しるべ)の拠点として攻撃すれば、従業員とその家族の暮らしも(おびや)かされる。

 ネミュス解放軍が、他の収入源を用意できないなら、そう簡単に潰せない。


 ……もしかして、他の支部も?


 ファーキルが、白壁に投影した画像を切替えた。

☆フィアールカさんの知り合いの神官も使ってました……「735.王都の施療院」参照

☆双子のサル・ウルとサル・ガズが、地主代理……「1627.生存の罪悪感」参照

☆この間作った歴史の動画……「1560.複合的な視点」~「1565.紛争の起爆剤」参照

☆聖典を捲る動画……「0982.番組の準備中」参照

☆星の(しるべ)がどうしようもない異端者だってのは(中略)兵士とかはもう知ってる……「919.区長との対面」~「921.一致する利害」「0937.帰れない理由」~「0939.諜報員の報告」「0941.双方向の風を」~「0943.これから大変」参照

☆例の倉庫会社……オースト倉庫株式会社「0958.聖典を届ける」「0977.贈られた聖典」「1028.大国の目論見」「1372.ノチリア企業」「1414.放送の管轄区」参照

☆オースト倉庫株式会社の敷地で開催された慈善コンサート……「1445.合同開催計画」「1456.倉庫街で催し」~「1463.駐車場に宿泊」参照

☆ロークの調査……「722.社長宅の教会」~「724.利用するもの」参照

☆空襲で焼け出された力なき民の避難民を自社で大量に雇用……「873.防げない情報」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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