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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五十一章 人作

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1561.情報の出し方

 最後まで残った最古にして最大の三界の魔物が、現在のムルティフローラ王国に封印された年が、印暦紀元元年だ。


 キルクルス教は、その頃に成立した。

 三界の魔物の惨禍を生き延びた「力なき民」の目には、聖者キルクルス・ラクテウスの説く言葉の数々は、災厄の闇を照らし、復興を導く力強い(ともしび)に映ったことだろう。


 湖西地方の国々は三界の魔物に滅ぼされ、現在も人の住めない土地となった。

 湖北地方のプラティフィラ帝国は、七つの王国に分かれて独立したが、同盟を結び、結束は固い。


 ラキュス・ラクリマリス王国は、ラキュス湖の出現から間もない頃、湖南地方西部で成立。三界の魔物の惨禍には耐えたが、主神フラクシヌスの秦皮(トネリコ)が枯れ、湖水の減少を招いた。代わりに(カシ)を用意し、更なる減少を食い止める。

 印暦紀元元年以降は、秦皮と並び、樫も主神フラクシヌスの象徴として尊ばれるようになる。


 ……長命人種も居るけど、ひとつの国が七千年以上も続くとか、スゴいよなぁ。


 長命人種は何事もなければ、千年近く生きられる。

 彼らの感覚では、八千年でも一万年でも、大した長さではないのかもしれない。


 これらをどうまとめるか。



 「ありがとうございましたー」

 タイゲタたちの作業が終わったらしい。パソコンの部屋を出てゆく。

 アステローペが、タイゲタとサロートカに囁き、金髪の二人はそのまま去った。

 一人残ったタイゲタは、麦藁色の髪を掻き上げ、二人を見送る。眼鏡を掛け直すと、予備の椅子を引っ張って、ファーキルの隣に腰を落ち着けた。


 「この動画って、炎上狙い?」

 「えぇッ? いや、フツーに情報提供だけど?」

 ファーキルはいきなり何を言い出すのかと、面食らってタイゲタを見た。眼鏡越しの瞳がファーキルの瞳を捉え、画面に向けられる。

 「三界の魔物がアルトン・ガザ大陸で製造されたの、知らない信者多いでしょ」

 「あッ……!」


 聖職者向けの聖典には、キルクルス教が成立するに到った略史の章が、精光記(せいこうき)に含まれる。だが、星道の職人用の技術書主体の聖典と、一般信者向けの薄い聖典には、略史の記述がなかった。


 「よくて、信じてもらえないくらいで済んで、下手したら炎上しちゃうかも」

 「聖職者用の聖典を背景に出すのは?」


 動画投稿サイト「ユアキャスト」には、たくさんの「星道の職人用の聖典を(めく)って全ページ見せる動画」がある。

 大聖堂は、削除要請を出さないのか、ユアキャスト側が応じないのか不明だが、何年も前に投稿されたものが何本もあり、それぞれ十万アクセスから数百万アクセス稼ぐ。


 ファーキルは、聖職者用の聖典動画を見た記憶はないが、探せばあるような気がした。

 「あるのかな?」

 ユアキャストをサイト内検索する。

 星道の職人用は、相変わらず大量に引っ掛かったが、聖職者用は見当たらない。検索ワードをあれこれ変えてみたが、それらしいものはみつからなかった。


 「星道の職人用は、信仰に疑問を持って辞めちゃった人が、内部告発のつもりで出してたかもしれないけど、流石に聖職者用はないんじゃない?」

 「そうかな? フェレトルム司祭やレフレクシオ司祭だったら、歪んだ教えを正す為にって、出しそうだけど」


 大聖堂から、リストヴァー自治区とルフス光跡教会へ派遣された若いエリート司祭の言動は、同志たちが調べて報告書にまとめてくれた。

 レフレクシオ司祭は、ロークとクラウストラが記録した動画や音声ファイルもある。三人目、ラニスタ共和国のジンクム教会に派遣されたチェルニテース司祭の調査は、近々行われる予定だ。


 「大聖堂に居た頃は、ネット上の活動に監視があったとか、何かしたのがバレたら、破門されて正しい教えを広めるどころじゃなくなるかも」

 「あー……そっか。それがあるのか」


 派遣後は、言葉や文化が異なる地での活動が大変で、インターネット上の活動までは手が回らないようだ。


 バルバツム連邦在住の同志は、ラクエウス議員の依頼文を使い、聖職者用の聖典を百冊も調達した。差出人を偽装し、リストヴァー自治区と、ネモラリス共和国内に蔓延(はびこ)る星の(しるべ)の支部に送りつけた為、手許には一冊もない。

 再び聖職者用の聖典を取り寄せ、ページを捲る動画を撮ってもいいだろう。



 「でも、この動画に聖典出すのはやめとく」

 「どうして?」

 「テキストに聖典の字が被ったら、読み(にく)そうだから」

 「そう。それに、三界の魔物がどこで造られたか、(ほの)めかすだけがいいかもね」

 タイゲタの提案に首を傾げる。

 「何で?」

 「気になった人が調べて、自分で正解みつけた方が納得しそうじゃない?」

 「でも、キルクルス教成立以前のコトって見たコトないよ?」


 聖典の魔術の記載は、両輪の国在住者らが動画などで散々指摘するが、印暦紀元前の三界の魔物に関する歴史や、キルクルス教成立の経緯を説明する共通語のページは、見たことがなかった。


 ……探し方が悪いのかな?


 アルトン・ガザ大陸の共通語話者が、どう探せば「正解」に辿(たど)りつけるのか。


 「ファーキル君はどうやって知ったの?」

 「えっ? どうって、そんなのこの辺じゃ、常識だし……湖南語の文献を共通語訳して、サイトに載せればいいのか」


 ロークとクラウストラが、ルフス光跡教会で撮った動画の内、レフレクシオ司祭の説教部分だけを公開した方が、説得力がありそうな気がした。

 双頭狼(そうとうろう)の侵入後は、趣旨が違うので、キリのいいところで切るしかない。


 ……後でフィアールカさんたちに聞いてみよう。


 聖職者用の聖典を捲り、キルクルス教成立以前の歴史を伝える動画は、「真実を探す旅人」より第三者が出す方が、信憑性が増すだろう。

 聖典を調達してくれたバルバツム連邦在住の同志に頼んで、捨てアカで公開してもらった方がよさそうだ。


 発信者の「国/地域」表示が、ラキュス湖周辺地域より、キルクルス教徒が圧倒的多数を占める科学文明国の方が、閲覧者に受け容れられる可能性が高いだろう。


 ファーキルは、運び屋フィアールカに相談する内容を心に留め、目の前の作業に向き合った。

☆精光記……「554.信仰への疑問」参照

☆星道の職人用の技術書主体の聖典/星道の職人用の聖典を捲って全ページ見せる動画……「0982.番組の準備中」参照


☆レフレクシオ司祭は、ロークとクラウストラが記録した動画や音声ファイル

 レフレクシオ司祭の説教/双頭狼のルフス光跡教会襲撃……「1071.ルフスの礼拝」~「1077.涸れ果てた涙」参照

 廃病院での密会と証言の記録……「1108.深夜の訪問者」~「1110.証拠を託す者」参照

 ランテルナ島での密会……「1426.真夜中の湖畔」~「1429.拡散する楽譜」参照


☆バルバツム連邦在住の同志は、ラクエウス議員の依頼文を使い、聖職者用の聖典を百冊も調達……「0944.聖典の取寄せ」「0958.聖典を届ける」「0977.贈られた聖典」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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