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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五十一章 人作

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1595/3515

1554.村落の繋がり

 ラゾールニクが、薬師(くすし)のねーちゃんたちの疑問に気付いて言う。

 「術者の聞いた音が、離れた場所でも同時に聞けるって、便利な術だ」


 白樺の板に呪印を描いて六分割する。術者は右端の部分を持ち、他の五つの部分はスピーカーだ。【草の耳】の呪文を唱えて集中する間だけ、術者の耳に入った音が全て、五つの木片がある場所でも聞こえる。


 「術者はずっと集中しなければならず、他の事が一切できなくなります」

 「予算があれば、似たような効果の【花の耳】って魔法の道具が使えるけどね」

 ラジオのおっちゃんが付け足すと、DJの兄貴も続いた。


 ……人力の盗聴器かよ。魔法使いって奴ぁホント、油断も隙もねぇな。


 ラゾールニクが村長に向き直る。

 「じゃあ、ここの他にも五か所で、もう放送を聞いたんですね?」

 「学校や畑仕事で聞きそびれた者が居ります」

 「それに、ジョールチさんのお声や、みなさんのお歌をその場で聴きたい者が多いのですよ」 

 村長と神官が、広場に残った村人たちに目を遣ると、緑髪が縦に動いた。


 「学校、あるんですね」

 ピナの妹が村を見回し、モーフもつられて見たが、それらしい建物はない。

 「小中一貫校は、南隣と、西のマチャジーナに一番近い村にしかありません」

 「何せ、子供が少ないものですから、各村に一校ずつとはゆきませんのでな」

 神官の説明で南を見たが、森しか見えない。

 しかも、化け物が居る森だ。魔法使いでなければ、通学どころではない。


 ……何でこんなヤベー森に住んでんだ?


 この村も、隣村も、湖の民たちは、どこでも自由に引越せる。リストヴァー自治区のように無理矢理押し込められたワケではない。

 何故、こんな不便で危険な場所に留まるのか、モーフには訳がわからなかった。


 「お菓子欲しい人、まだ大勢いるみたいですし、俺はもう少し延長しても大丈夫ですよ」

 「日数長い方が、ゆっくり作れて楽ですし」

 パン屋の兄貴が言い、ピナが控えめに付け足した。

 「急いで動く理由がねぇんなら、ちっとばかし、ゆっくりしてもいいだろうよ」

 葬儀屋のおっさんの一言で、村人たちの顔が明るくなった。


 ラジオのおっちゃんが、緑の人垣に笑顔を巡らせ、村長に言う。

 「それでは、ご厚意に甘えて、三日間、ここに滞在させていただきます」

 「燃料の都合で全部の村へ行くのは無理だ。よかったら、ここらの地図、見せてもらえたら有難ぇんだけどよ」

 「地図は、隣村の学校にしかありませんのでな、南の村への道順でしたら、略図を描けますが」

 村長は申し訳なさそうに運転手を見て、白い眉を下げる。おっさんが了解して、この場は一旦、お開きになった。



 結局、昼メシ抜きで、少し早い晩メシになった。


 ……自治区に居た頃は、何も食えねぇ日も結構あったのにな。


 日が暮れて、家々の窓から明かりが漏れる頃、ラゾールニクが荷台の扉を閉め、耳慣れない呪文を唱えた。

 「荷台に【防音】を掛けた。音を洩らさない術だ。隊長さん、どうぞ」


 少年兵モーフは、隣に座るソルニャーク隊長の横顔を見た。隊長はふっと頬を緩めて礼を言い、モーフとメドヴェージのおっさんに向き直る。

 「先程は誤魔化せたが、明日の朝は、もう無理だろう」

 「何がッスか?」

 「昨日の村もこの村も、毎日、神殿に参拝し、女神に祈りと魔力を捧げる」

 「あッ……!」

 モーフは息を呑み、漁師の爺さんを見た。

 「何回にも分けた少人数での参拝や、用事を作って誤魔化すのが通用するのは、こちらの人数と顔触れを把握される前だけです」


 今頃になって、さっき漁師の爺さんが、モーフを荷物持ちに連れて行った理由がわかった。恥ずかしさで頬が熱くなる。

 モーフが買出しで留守の間、ソルニャーク隊長とメドヴェージのおっさんは、上手いコト誤魔化したのだろう。



 「この辺にどんだけ【草の声】の使い手が居るかわかんないけど、一人で最大五カ所に連絡できるのは確かだ」

 「ハンパな街より、情報が早く、詳しく回るんですね」

 ラゾールニクが言うと、クルィーロが確認した。ラジオのおっちゃんが頷く。

 モーフは、ついさっき村の連中から聞いたハナシを思い出して、身震いした。


 「首都の様子がここに伝わるのなら、旧直轄領の様子も、首都にも伝わります」

 アマナの父ちゃんに言われるまで、そんな当たり前のコトにも気付かなかった。


 「ウヌク・エルハイア将軍は、今ンとこ、キルクルス教徒を滅ぼす気がない」

 「何で?」

 ラゾールニクが軽々しく希望を口にし、モーフは却って不安になった。

 「自治区や星の(しるべ)と手を組んだろ」

 「でも、ラキュス・ネーニア家の人も、旧直轄領の村人も一枚岩じゃない。狩人さんはああ言ったけど、実際、隠れキルクルス教徒狩りがどうなってるか、わからない」

 DJの兄貴が懸念を並べる。二人とも、カピヨー支部長が独断でリストヴァー自治区へ侵攻した時、現地に居た。


 「将軍は俺らの味方だから、別に心配ねぇんじゃねぇの?」

 モーフには、彼が何を心配するのかわからない。


 「ネミュス解放軍は、ウヌク・エルハイア将軍が作った組織ではありません」

 「ん?」

 ラジオのおっちゃんの言うコトも、よくわからない。

 何をどう質問すればいいかわからず、モーフは首を傾げるしかなかった。



 「坊主、女神様の神殿へ【魔力の水晶】持ってくハラぁ決まったか?」

 ギョッとしてメドヴェージを見たが、おっさんの顔には、いつものようにおちょくる様子がなかった。

※【草の耳】……類似の術に【遠話】がある「0146.警察署の痕跡」参照

 【遠話】では、板を持つ者同士の声しか聞こえない。


☆【花の耳】……「0136.守備隊の兵士」「0138.嵐のお勉強会」参照

☆【防音】……「596.安否を確める」「605.祈りのことば」参照

☆漁師の爺さんが、モーフを荷物持ちに連れて行った……「1549.先に着く情報」参照

☆自治区や星の(しるべ)と手を組んだ……「919.区長との対面」~「921.一致する利害」「0937.帰れない理由」~「0939.諜報員の報告」参照

☆狩人さんはああ言った……「1552.首都圏の様子」参照

☆ネミュス解放軍は、ウヌク・エルハイア将軍が作った組織ではありません……「920.自治区の和平」「921.一致する利害」参照


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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