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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五十一章 人作

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1594/3516

1553.贖罪で生かす

 「シャウラ様?」

 また知らない名が飛び出し、少年兵モーフは何も考えずに呟いた。緑髪の大人たちの目が、陸の民のモーフに集まる。


 「シェラタン当主様の従弟(いとこ)に当たるお方だ」

 「先代島守の弟さんなんだ」

 「何で、そのー……シャ……何とか様は、人殺しの双子、助けたんスか?」

 やたら長生きな湖の民の狩人は、何も知らないモーフをバカにせず、きちんと答えてくれた。

 「お二方を処刑しても、無実の罪で殺された陸の民は、生き返らんだろ?」

 「……うん」

 少年兵モーフは、初対面の狩人に自分の過去を咎められた気がして、ぎこちなく頷いた。


 「だから、シャウラ様が一旦、遺族に賠償金をまとめて立替え払いして、貸しにした分、後でお二方からシャウラ様が直々に取り立てなさるってハナシだ」

 「早いハナシが、ただ人殺しを処刑しても、殺された人たちゃ死に損だ」

 「死んじまやぁ二度と人殺しはできねぇけどよ」

 葬儀屋のおっさんが話に混じると、地元の狩人は頷いた。

 「まぁ、それはそうなんだが、シャウラ様は、罪人を生かして働かせて賠償金払わせた方が、遺族が少しでも助かる分、マシってお考えなんだろうよ」


 モーフが理解するより先に話がどんどん進む。


 「ウヌク・エルハイア将軍も、シャウラ様のお考えに賛成だから、身内の処罰よりも、被害者の遺族を助ける方を選びなさったんだろうな」

 「陸の民がクレーヴェルに行っても、人狩りに遭う心配はないと思うぞ」

 「ホントに……大丈夫?」

 ピナの妹が兄貴にしがみついて聞く。

 震える声に気付いた狩人のおっさんが、安心させようと笑顔で言った。

 「大丈夫だよ。先月、親戚の店へ兎の燻製持ってった時、陸の民のお客さんが買物してた」

 「今はシャウラ様が、しっかり首根っこ押えてる」

 「逆らったら、今度こそ、将軍様に消されンだろ」

 「首都に残った役人も、何割かは陸の民だそうだ」

 「えっ? 陸の民が、クーデター政権の行政内部に居るんですか?」

 アマナの父ちゃんが食いついた。


 「そりゃ、行くとこない都民が大勢残ってるし、そん中に役人も居ますよ」

 「あ……あぁ……そう言われてみれば、そうですね」

 「ウヌク・エルハイア将軍は、別に陸の民を皆殺しにしたいとか、ネモラリス島から追い出したいなんざ、思ってらっしゃらんからな」

 「内乱時代も、みんな平等に守って下さったお方だ」

 「そうですね」

 緑髪の村人たちに誇らしげに言われ、アマナの父ちゃんの顔色がよくなる。


 みんな昼メシそっちのけで、首都の話を聞き出すのに必死だ。


 ラジオのおっちゃんが聞く。

 「解放軍がクレーヴェル港全域を制圧したから、都内の物資不足が解消したとのことですが、漁船以外……貨物船の往来がどんな状態か、ご存知ありませんか?」

 「ジョールチさんたち、明日の昼に発つんですよね?」

 「えぇ、一応そのつもりでいますが」


 モーフはハラが減って仕方がないが、誰も昼メシの用意に動かない。

 勝手に準備していいものかわからず、話の腰を折るのも気が引けた。


 ソルニャーク隊長がとメドヴェージのおっさんが、トラックの荷台から降りる。クッキーの交換品と、買出しの手間賃を片付け終えたらしい。


 狩人のおっさんが、クッキーを焼いた【炉】のステンレストレーを見て言う。

 「明後日、クレーヴェルの親戚ンちに燻製持ってくんで、ついでにあっちの新聞買ってきますけど、お急ぎですよね?」

 「少し相談させて下さい」

 「待ってる間、お菓子を作って売って下されば、損にならないと思いますよ」

 若い婆さんがすかさず話に割り込んだ。


 「別に期日が決まってるワケじゃないし、いいんじゃない?」

 「急いでたの、ホールマの物価情報が古くなるからだけど、村の人、あんまりあっち行かないっぽいから、俺もいいと思うよ」

 ラゾールニクが軽いノリで言うと、DJの兄貴も賛成した。

 「でもよ、でけぇトラックが何日も広場塞いじまうの、邪魔じゃねぇか?」

 メドヴェージのおっさんが、移動放送局のトラックを指差した。

 「大丈夫ですよ」

 「豆の収穫期と、何か大物が獲れた時くらいしか使いませんから」

 「そうか? 邪魔だったら気ぃ遣わねぇで言ってくれよ。すぐ動かすから」

 緑髪の村人たちにやさしい笑顔で言われたが、運転手のおっさんは何故か、困ったような顔をする。


 ……何だコイツ? 何も酷ぇコト言われてねぇのに。


 おっさんの態度は気になったが、流石に村人の前では聞けない。

 モーフはソルニャーク隊長をそっと窺った。隊長も、困ったような、諦めたような微妙な顔でトラックを見る。

 ピナを見たが、菓子を焼き続けてへとへとになった他は、特に何もなさそうだ。


 モーフの腹が鳴り、苛立ちが涌き上がった。


 アマナの父ちゃんがのんびり言う。

 「新聞があれば、まとまった情報を得られます。あなたさえご迷惑でなければ、私は賛成です」

 「今のクレーヴェルは、新聞を毎日作れるくらい落ち着いてるんですよね?」

 「親戚ンちの辺りは、新聞配達も再開されたよ」

 ピナが聞くと、湖の民の狩人はにっこり笑って頷いた。


 「この村、クレーヴェルから遠いのに情報早いんですね」

 「スゴいですよね」

 アマナとピナの妹が感心する。

 「クレーヴェルとデレヴィーナには、ちょくちょく行くからな」

 「移動放送車が回ってるってのは、大分前、デレヴィーナに行った時、兵隊さんから聞いたんだ」

 「兵隊さんも、放送は聞いてないから、眉唾だったけど」

 「まさか、ジョールチさんだとは思いませんでしたよ」

 村人たちが嬉しそうにラジオのおっちゃんを見る。


 「それで、村長さんが【草の耳】で放送丸ごと、こっちの村でも聞かせてくれたんだよ」

 「こっちじゃ放送しないかもしれないからって」

 モーフは驚いて、緑の人垣を見回した。

 「隣村の村長さんが、【草の耳】と言う術を使ったのだよ」

 この村の村長が言うと、放送局員の二人とラゾールニクは、何やらわかった顔をしたが、他の魔法使いたちは小さく首を傾げた。

☆行くとこない都民が大勢残ってる……「756.軍内の不協和」参照

☆内乱時代も、みんな平等に守って下さったお方……「0093.今日の行く先」「602.国外に届く声」「603.今すべきこと」「611.報道最後の砦」「893.動きだす作戦」参照

☆解放軍がクレーヴェル港全域を制圧したから、都内の物資不足が解消した……南港制圧「880.得られた消息」→「1449.見えない首都」「1552.首都圏の様子」参照


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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