表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五十一章 人作

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1585/3514

1544.固有の経済圏

 昼前、移動放送局プラエテルミッサのイベントトラックとワゴン車は、森に拓かれた村を離れた。野菜畑を抜け、ウーガリ古道に戻る。


 やや西の休憩所に落ち着いた。

 保存食と、村でもらったキャベツをサラダにして、簡単に済ませる。すっかり遅くなったが、先程の村で聞いた話が気懸かりで、クルィーロは空腹感がなかった。



 昼食後の香草茶でふっと場の空気が軽くなる。


 ……あ、みんな気にしてたのか。


 「レノ、さっき、神殿で何があったんだ?」

 「あの村のコト、クレーヴェルの様子、星降る湖と隠れキルクルス教徒の関係」

 「えッ?」

 「俺もちょっと、頭の中、整理できてないから」

 レノは、一緒に神殿へ行った薬師(くすし)アウェッラーナ、アナウンサーのジョールチ、ラゾールニクを順繰りに見た。


 ジョールチが頷いて話を引受ける。

 「あの村の神官はクーデターの翌月、先代が寿命を迎えた為、クレーヴェルから派遣されたそうで、現在も時々、首都から連絡があるそうです」

 アナウンサーは、目の前にニュース原稿があるかのように理路整然と語った。



 星降る湖が、力なき陸の民の権利向上を目指すフラクシヌス教徒の団体で、隠れキルクルス教徒を容認すること。

 クーデター後、議員宿舎襲撃事件で行方不明になった湖水の光党議員が、首都クレーヴェルに帰還し、ネミュス解放軍の(もと)で新しい国造りを進めること。

 クレーヴェルで隠れキルクルス教徒狩りを行った中心人物のこと。



 アマナがクルィーロにしがみついた。妹の震える肩を抱いて、もう一方の手を繋ぐ。薬師(くすし)アウェッラーナが、青褪めた顔で鎮花茶を淹れてくれた。


 少年兵モーフが、怯えるパン屋の姉妹を横目で見て、ジョールチに聞く。

 「でも、そのヤベー双子って、もう人殺しできねぇんだろ?」

 「刑務所に収監されたワケではありませんから、どの程度、行動が制限されたかわかりません。また、彼らに影響を受けた者たちが、何人居て、現在どんな活動をするか、不明です」


 「先に少人数で行って、ちょっと調べた方がいいだろうね」

 ラゾールニクが付け加えると、少年兵モーフは開きかけた口を閉じ、ソルニャーク隊長を見た。

 「隠れキルクルス教徒狩りの実施状況もわからん」

 「あッ!」

 「首都に入る者を一人ずつ、魔法の道具で調べられたら、終わりだ」

 隊長に淡々と告げられ、少年兵モーフが息を呑む。



 ソルニャーク隊長、運転手のメドヴェージ、少年兵モーフは、今もキルクルス教の信仰を胸に抱く。魔法使いと行動を共にし、魔法の道具を使い、湖の民の村を訪問しても、フラクシヌス教の神殿には参拝しない。


 彼らに助けられることが多く、クルィーロは時々忘れてしまいそうになるが、星の道義勇軍の三人は、キルクルス教徒なのだ。



 鎮花茶の甘い香りで軽くなった空気が、再び重くなる。

 クルィーロは、話題を変えた。

 「レノたちが神殿に行ってる間、村の人から聞いたんだけど……」


 塋域(えいいき)の島とラクテア神殿、旧直轄領の村と神殿の関係を説明する。


 ジョールチが真剣に聞き入り、手帳に書き留めた。

 「それで、ファーキル君に水位のグラフをいっぱい印刷してもらって、この辺の村に一枚ずつ配ろうかなって思うんですけど、どうでしょう?」

 クルィーロが話を締め括ると、ジョールチは手帳に走らせるペンを止めて、考え込んだ。


 ややあって顔を上げ、みんなを見回す。

 「恐らく、旧直轄領の村すべてで、ひとつの経済圏です」

 「どうして言い切れるんです?」

 ラゾールニクが、みんなの疑問を逸早(いちはや)く口にした。

 「あの村には、野菜畑しかありませんでした。穀物畑は反対側にあるのかもしれませんが、少なくとも、酪農はしないようです」

 「何で?」

 「村の中や、すぐ近くに家畜小屋があれば、独特の臭いがします。それがありませんでした」

 「遠くにあンじゃねぇの?」

 少年兵モーフが聞いた。

 「森の中で、人の目が届かない場所に家畜を置くのは危険です。それから、魔法薬も、薬草を栽培して隣村で交換してもらうと言っていましたから、各村で分業して色々な物を生産し、融通しあって暮らすのでしょう」


 クルィーロは、ジョールチが移動中とほんの数時間の滞在で、そんな観察と分析までしたことに驚いた。


 「人の往来、物の流通、情報伝達が緊密で、既に他の村々にも、私たちの訪問が伝わった可能性があります」

 「えぇッ?」

 モーフが、今来た道を勢いよく振り返った。

 「魔法だよ。【跳躍】の」

 「あ、そっか」

 DJレーフに言われて頭を掻いた。


 今度は、レノが聞く。

 「じゃあ、一枚印刷してもらうだけでいいってコトですか?」

 「いいえ……一ケ所だけ伝えて他には伝えない。あるいは逆に、一ケ所だけ対象から外せば、信用を失ってしまいます」

 「えッ? 全部の村、回るんですか?」

 「それは流石に無理でしょう」

 ジョールチが運転手のメドヴェージを見た。

 「昔は直轄領だったとこに村が幾つあんのか、道がどう繋がってんのか、何もわかんねぇからな」

 「道を教えていただけばよかったですね」

 父が申し訳なさそうに眉を下げると、葬儀屋アゴーニが村の方を見て、口をひん曲げた。

 「まともに答えたか、知れたモンじゃねぇぞ」

 「何故です?」

 「村の奴に無断で、他所者に場所教えたら、後で怒られっかもしんねぇだろ?」


 「何枚か刷ってもらって、先程の村に一枚渡して様子を見て、大丈夫そうなら、域内にある村の数だけ聞き出して……非効率的でもどかしいでしょうが、相手の出方を見ながら、一ケ所ずつ対応してゆくしかないでしょうね」

 ジョールチに言われ、クルィーロは父と顔を見合わせた。


 「下手打ったら、この辺の村、全部敵に回しちまうかもしんねぇってこった」

 葬儀屋アゴーニが簡単にまとめると、子供たちも背筋を伸ばした。

☆さっき、神殿で何があった……「1539.情報で支払い」~「1541.競い合う双子」参照

☆魔法薬も、薬草を栽培して隣村で交換してもらう……「1535.放送局の物販」参照


 挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ