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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五十一章 人作

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1582/3516

1541.競い合う双子

 老いた村長が、若い神官の目を見て、無言で顎を引く。

 神官は、頷き返して答えた。

 「私が教えられたのは、サル・ウル様とサル・ガズ様……双子のご兄弟です」


 「どのような人物か、お伺いしても?」

 アナウンサーのジョールチが重ねて質問すると、首都クレーヴェルの神殿から、旧直轄領の村へ派遣された神官は、苦い顔で答えた。

 「島守マガン・サドウィス様のご子息で、二男と三男です」

 レノは、緑髪のアウェッラーナを見たが、僅かに首を傾げられた。湖の民でも、ネーニア島出身の彼女は、知らないらしい。


 ……いい人っぽくなさそうなカンジだな。


 「解放軍で、どんな活動してるか、教えてもらっていいですか?」

 ラゾールニクが軽いノリで問う。

 「私は直接お目に掛かったことがなく、全て伝聞ですが、よろしいですか?」

 「お願いします」

 神官はあまり言いたくなさそうな口振りだったが、ジョールチとラゾールニクに即答され、眉間に皺を刻んで言った。

 「サル・ウル様とサル・ガズ様は、双子のご兄弟ですが、大変、仲がよろしくないそうです」

 「喧嘩ばっかしてンです?」

 「どちらが上か常に勝負して、足を引っ張り合ってばかりなのだそうです」



 二人とも非常に好戦的な人物で、従軍経験はないが、【急降下する(ワシ)】学派だ。


 開戦前は、旧直轄領内にある湖岸付近の村に住み、農地管理の(かたわ)ら、狩人として住民を守った。

 魔獣の目撃情報を得れば、先を争って狩りに行く。魔獣が群なら、どちらがより多く獲れたか、多くの素材を得られたかの数を競い、単独なら、どちらがトドメを刺したかを競う。

 一度も協力したことがなく、それどころか、自分の手柄を横取りされまいと、互いに邪魔し合うらしい。



 「えぇッ……?」

 魔獣狩りの最中に邪魔をすれば、最悪の場合、命に関わる。

 兄姉妹(きょうだい)仲のいいレノには、何故そんなに仲が悪いのか、想像もつかなかった。


 ……仲悪い通り越して、憎んでる……とか? いやいや、何で?


 「開戦後は、度々クレーヴェルに足を運ばれました」

 「何しに行ってたか、わかります?」

 ラゾールニクは、すっかりいつもの調子だ。

 若い神官は、気にする風もなく答える。

 「毎回、数日から……長ければ二週間程度は首都に滞在し、慈善バザーや仮設住宅の支援などをなさっておられたようです」

 「あ、悪い人じゃないんスね?」

 「大変、功名心の強い方々だそうで、バザーの売上と寄付額を競い、島守である父上から管理を任された村で、寄付品を募る際も、かなり強引な手段を使われたと聞き及びました」

 「あー……」

 ラゾールニクは、片手で目許を覆って天井を向いた。


 神殿の応接間に通されたが、お茶のひとつも出ない。単に気が利かないのか、それともやはり、招かれざる客だからか。


 「首都でデモが散発するようになってからは、別々にデモ隊を組織し、率いる人数や、掴んだ情報の量などを競うようになったそうです」

 「クーデターの際、お二方が何をなさっておられたか、ご存知ですか?」

 ジョールチが、表情を殺して聞く。

 アナウンサーは、職場である国営放送の本局が戦闘に巻き込まれ、辛うじて脱出したが、家族は誰一人として生き残れなかった。


 「お二方は【急降下する(ワシ)】学派ですので、それぞれ部隊を率い、政府軍の治安部隊と戦ったそうです。兵士の殺害数を競い、議員宿舎に軟禁された議員の救出人数を競ったそうです」

 「解放された議員の方々は……」

 「現在も、クレーヴェルにいらっしゃいます。党や会派を問わず、魔哮砲の使用に反対した為、軟禁された方々で、クリペウス政権とは決別し、新しい国造りを目指しておられます」


 ……ラクエウス議員たちの蜂起に参加しなかった人たち、無事だったんだな。


 ジョールチが、すかさず質問を挟む。

 「新しい国造り……ですか。どんな国を目指すか、お聞きになられましたか?」

 「ラクリマリスのような立憲君主制だそうです。神政を基本として、議会が補佐する形で、現在はその為の法案を作成中なのだそうです」

 「双子のご兄弟って、今もクレーヴェルに?」

 ラゾールニクが聞くと、神官は浮かない顔で頷いて、レノを見た。

 「お二方は、クーデターの戦闘がやや落ち着いた頃、今度は隠れキルクルス教徒狩りを始めました」

 「えッ……!」

 思わぬところで実行犯を知らされ、レノは息が詰まりそうになった。


 神官の眉間の皺が深くなる。

 「当初は、警察署で【()かし水鏡(みかがみ)】を借りて、本物だけを処刑したそうです。しかし、すぐに処刑競争が過熱し、力なき陸の民なら誰彼構わず……」

 四人は言葉もなく、神官を見た。

 「その後、更に対象を拡大させ……緑髪以外の人を見境なく、その場で殺すようになった頃、ウヌク・エルハイア将軍のお耳に入りました」

 「どうなったんです?」

 「将軍は大層ご立腹で、ラキュス・ネーニア家の親族と(いえど)も許し(がた)いと、無差別大量殺人の(とが)で極刑に処されるところでした」

 「助かったんだ?」

 ラゾールニクが、皮肉な笑みを唇に浮かべて聞くと、神官は忌々しげに頷いた。

 「別の親族の方が、遺族への賠償を申し出て、双子のご兄弟の助命を請われました。現在は、そのお方の許へ身を寄せておられるそうです」


 アナウンサーのジョールチは、溜め息混じりに聞いた。

 「どなたが(かくま)っていらっしゃるか、教えていただけませんか?」

 「私は知らされておりません」

 若い神官が目を伏せる。


 ……見習いじゃ、本気でヤバい件の詳しいコト、教えてもらえないのか。


 レノは思わず身震いし、アウェッラーナと顔を見合わせた。

 クーデター後、レノたちは、パドールリクが勤務する会社の社宅に身を寄せ、買物などで時々外出した。

 魔法の品があるから大丈夫だと思ったが、大間違いだ。

 あの頃の首都クレーヴェルでは、陸の民が、サル・ウルかサル・ガズ率いる隠れキルクルス教徒狩りの部隊と鉢合わせしたら、問答無用で殺されたのだ。



 「話は変わりますが、マチャジーナ市とデレヴィーナ市が現在、どんな状況か、教えていただけませんか?」

 ジョールチが聞くと、神官は表情を改めて答えた。

 「両市とも、臨時政府への納税を拒否し、クーデター政府に恭順(きょうじゅん)を示しています。ホールマ市同様、元の市民は湖の民で、陸の民は仮設住宅にしか居ません」

 「市会議員選挙は行われましたか?」

 「クレーヴェルで法改正中だからかもしれませんが、選挙が実施されたとは、耳にしておりません」


 「恐れ入ります。お忙しいところ、長々と失礼致しました。これにてお(いとま)させていただきます」

 ジョールチが二人に一礼して立ち上がり、レノ、アウェッラーナ、ラゾールニクが続く。


 老いた村長は結局、岩のような無表情を崩さず、一言も発さなかった。

☆島守マガン・サドウィス……「1486.ラクテア神殿」~「1488.水呼びの呪歌」参照

☆国営放送の本局が(中略)生き残れなかった……「0981.できない相談」参照

☆議員宿舎に軟禁された議員の救出……「700.最終チェック」参照

☆魔哮砲の使用に反対した為、軟禁……反対「241.未明の議場で」「247.紛糾する議論」「248.継続か廃止か」→軟禁「253.中庭の独奏会」「259.古新聞の情報」参照

☆ラクエウス議員たちの蜂起=議員宿舎襲撃事件……計画「260.雨の日の手紙」「272.宿舎での活動」「273.調理に紛れて」、実行「277.深夜の脱出行」参照

☆ラクリマリスのような立憲君主制……「752.世俗との距離」参照

☆隠れキルクルス教徒狩り……「746.古道の尋ね人」「793.信仰を明かす」「806.惑わせる情報」「0969.破壊後の基地」参照

☆パドールリクが勤務する会社の社宅に身を寄せ……「686.センター脱出」~「688.社宅の暮らし」「708.臨時ニュース」参照

☆買物などで時々外出……「697.早朝の商店街」参照


▼【急降下する鷲】学派の徽章

 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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