0158.トラック内部
翌日の昼前には、駐車場の出口から放送局前の道路までが片付いた。
メドヴェージが、危なげのないハンドル捌きでトラックを玄関へ回す。
その先の瓦礫はまだ手付かずだが、自分たちだけでも何とかできるとわかり、みんなの顔は明るかった。
運転席から降り、メドヴェージが荷台へ回る。
鍵を開けて閂を外し、慎重な手つきでテールゲート昇降装置を操作した。
「お、案外少ないな」
呟いて昇降板からひょいっと荷台に上る。
少年兵モーフたちは、荷台の後ろから中を覗いてメドヴェージを見守った。
積み荷は、モーフが見たこともない物ばかりだ。黒くて四角い箱が多い。銀色の細い棒が何本も床に立つ。その途中からは黒いコードが伸びて床を這う。
左の壁面、天井に近い位置に照明が十個ばかり並び、それぞれが太いコードに繋がる。
右の壁面には、荷台の側面と同じ番組ロゴが大きく描いてあった。
メドヴェージが突き当りの小さなドアを開ける。後部扉の光はそこまで届かず、中の様子はわからない。
運転手が何やらごそごそすると、小部屋が明るくなった。続いて低いモーター音が響き、荷台の左下に白い線が走る。
少年兵モーフは驚いて左を向いた。
線がどんどん太くなる。
……外だ。
荷台の壁が持ち上がり、外の光が射し込んだのだ。
見上げると、壁は上三分の一くらいの所で折れ、天井が少し広くなった。「追加」された天井から、照明器具が下がる。
メドヴェージが荷台を振り返った。
「ありゃ、こっちだったか」
放送局の玄関はトラックの右側だ。
メドヴェージは、頭を掻きながら明るくなった荷台を見て歩き、モーフたちの前に飛び下りた。
「あの小部屋は棚と机があって、何かの機械がぎっしり詰まってたぞ」
「あぁ、生放送用の機材でしょうね。きっと、落下防止で棚や机に固定してあって、外すのは大変ですよ」
クルィーロが運転手の肩越しに小部屋を覗いて言う。
音響機器工場の工員は荷台をざっと見回し、みんなを振り返った。
「外せる物は外して奥の部屋に運ぼう。外すのは俺がするから」
クルィーロは荷台へ上がり、銀色の棒から部品を外す。部品は取敢えず床に置いて、棒を二本だけ持って戻った。
「アマナ、ティスちゃん、マイクスタンド持ってって」
「どこに置くの?」
「んー……一階のトイレの手前にある部屋」
女の子二人は、自分たちの肩まで高さのあるマイクスタンドを一本ずつ抱え、駆けて行った。
クルィーロは残り三本のマイクスタンドも手早く外し、緑髪の薬師とピナ、少年兵モーフに手渡す。
金属製のスタンドはずっしり重く、冷たかった。
モーフたちと入れ替わりにアマナたちが元気に駆け戻る。
三人が指示された部屋に入ると、マイクスタンドが入口に並べてあった。湖の民の薬師とピナが苦笑し、今持って来た分と一緒に窓際へ置き直した。
☆音響機器工場の工員……「0086.名前も知らぬ」「0114.ビルの探索へ」参照




