0157.新兵器の外観
防空艦レッススの甲板は真っ暗だった。
敵機から新兵器【魔哮砲】を隠す為に【幻術】で闇を作ったのか。
……いや、違う。
魔装兵ルベルは船室で一人、首を横に振った。【遠望】の眼に【幻術】は効かない。本当に闇がそこにあるのだ。
闇を中心に【遠望】の視点を動かした。上下左右、全て完全な黒。光を通さないそれはトラック程度の塊だ。周囲の様子は普通に見える。
哨戒任務で、敵機の警戒などに使用する【飛翔する蜂角鷹】学派の【索敵】の視線は、雲などの遮蔽物を何度でも透過し、肉体を持たない魔物なども視認する。強力な分、魔力の消耗も激しい。
今、個人的に使う【遠望】の視線は、同じ【飛翔する蜂角鷹】学派の術だが、遮蔽物を手前のひとつしか越えられない。船の装甲を越えた後は霧にも遮られる。
ルベルは首を傾げ、赤毛の頭を掻いた。
ほんの軽い気持ちで使った【遠望】では、闇の中身までは見えないのだ。
闇の傍に何人も兵士がつく。
一人は、軍服の襟に【花の耳】の花弁がひとつ見えた。その顔に緊張が走り、魔法の通信機から送られる声に耳を聳てる。
どうやら、ルベルと交替した見張りから敵襲の報が入ったらしい。
ルベルは寝台に腰掛けたまま姿勢を正した。視覚を拡大する【遠望】の術では、音声まではわからない。
通信兵が何事か早口に告げると、闇の傍らに控える兵が動いた。闇に向き直る。
ルベルは【遠望】の角度を変えた。
その兵は身振りを交え、何事か指図するようだ。
闇が、動いた。
のっぺりとした黒い塊が、生物的な動きで波打ち伸び上がる。
人の背丈の三倍くらいに伸びると、その先端が膨らんだ。丸く、広い。ルベルは兵学校の教本で見た「パラボラアンテナ」を連想した。
それは、アーテルの方角を向いて動きを止めた。
闇に指示を出した兵と【花の耳】の一部を持つ通信兵も同じ方角を注視する。
通信兵が口を開いた。直後に別の兵の口も動く。
アンテナの正面が青白く光った。光はすぐに消え、闇の塊がふにゃふにゃと脱力して元の形に戻る。
ルベルには、疲れた生き物が蹲ったように思えた。
……あれが……【魔哮砲】……?
心が乱れ、【遠望】の術が切れる。
魔装兵ルベルはベッドに横たわり、酷使して熱を帯びた目を閉じた。




