0155.玄関までの道
二月十日。
レノたち十人は、朝食後すぐに道路の片付けを始めた。昨日の続きで放送局前の道から取り掛かる。
クルィーロが大きな瓦礫に手を触れ、メモを見ながら呪文を唱える。
レノは、詠唱を終えた術者の合図を受け、ロークと二人で持ち上げた。あまりの軽さに拍子抜けする。
昨日、聞いた通りだ。
クルィーロは昨夜かなり練習したようだ。大きな瓦礫はちゃんと軽くなった。
子供の頃、魔法の塾をサボってレノと遊び呆けた幼馴染は、たった一晩で【重力制御】の術を使えるようになったのだ。
……感心してる場合じゃないな。
術の効果時間は一分だ。急いで中央分離帯に運ぶ。
「せーの!」
数歩手前で声を合わせ、同時に放り投げる。落下途中で術が切れ、重い地響きを立てて瓦礫が割れた。
これが足の上に落ちたところを想像し、レノの額にイヤな汗が噴き出す。
「これ……ホントに便利だけど、危ないな」
レノは振り向いてクルィーロに声を掛けた。幼馴染も強張った顔で頷く。
「アマナ、ピナちゃん、ティスちゃん、細かいのは歩道の奥に捨てて、あっちに近付いちゃダメだ」
蒼白な顔で女の子たちに言い、次の瓦礫に術を掛けに行く。レノとロークは頷き合い、クルィーロの後を追った。
薬師アウェッラーナと運転手メドヴェージ、少年兵モーフの三人も同様に大きな瓦礫を動かした。こちらの組も、予想以上の軽さに困惑を浮かべる。
ソルニャーク隊長は、手で運べる破片を黙々と撤去する。
昼前には、道路に散乱したビル二棟分の瓦礫を片付け終えた。
この角を曲がれば、もう少しで駐車場だ。
「駐車場から玄関先まで片付きゃ、トラック回して荷物の積込みもできるぞ」
メドヴェージの朗らかな声につられ、みんなも笑顔になる。
この調子で警察署前まで片付ければ、他所へ行ける。その期待感で昼食後の作業もどんどん捗った。
「そろそろ、夕飯の支度をしよう」
ソルニャーク隊長が声を掛けるまで、日が傾いたことにも気付かなかった。
「この分なら、明日はトラックに荷物を積むとこまで行けそうだな」
夕飯後、メドヴェージが改めて言うと、子供らに笑顔が広がった。
「警察まで、まだ大分ありますけど、もう積んじゃうんですか?」
地元民のロークが首を傾げる。
一緒にそこまで歩いた緑髪の薬師も小さく頷いた。
「普通の四トンなら荷物をみんな積んでも余裕がある。だが、あいつは催しモン用の特殊車だ。ちっと見てみなきゃわかんねぇ」
メドヴェージの説明で、レノは中学の創立記念イベントを思い出した。校庭にラジオのイベントカーが来た。ステージは荷台で、色々な機材が置いてあったような気がする。
「確かに、中を見てみなきゃわかりませんよね」
「外せそうなら、いらない機材を外した方がいいでしょうね」
レノが運転手のメドヴェージに同意すると、クルィーロが提案した。
メドヴェージが苦笑して首を振る。
「車庫でちらっと見たが、あいつぁ発電機も積んでる」
「えっ? 電気、使えるんですかッ?」
レノとクルィーロ、ロークの三人が同時に叫んだ。驚きと喜びに声が裏返る。
「どこにどう繋がってんのか、ちゃんと見てみなきゃわからんがな。素人がうっかり配線触ると危ねぇぞ」
「そうですね。じゃあ一回、見てみますよ」
工員のクルィーロが素直に頷く。他の面々もそれで納得し、異論は出なかった。
☆昨日、聞いた通り……「0152.空襲後の地図」参照




