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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十九章 交錯

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1464.探知したもの

 パン屋の三兄姉妹(さんきょうだい)が、すっかり遅くなった夕飯の支度を始めた。

 慣れた手つきで、スープと焼魚を作る。満足な調理環境ではないが、三人とも手際よく進め、セプテントリオーが手伝う必要はまったくなかった。



 「これ、発信器や盗聴器の電波拾う奴」

 「えッ?」

 ラゾールニクの軽い声で、全員が荷台を見回した。

 レノ店長が危うく手を切りそうになり、エランティスにつつかれて調理に意識を戻す。


 「流石に中にはないよ」


 今日の催し物の間ずっと、荷台の扉前には物販の机が置かれ、【跳躍】でもしない限り、中には入れなかった。

 侵入者があれば、セプテントリオーたち「居ない者」が気付く。

 取り付けるとすれば、運転席の下辺りか。


 「そんなモンあンなら、基地潰しに行くちょっと前にも使やぁよかったのに」

 少年兵モーフが鼻を鳴らす。

 「つい最近、手に入れたばっかなんだ。あの時は、上手く誤魔化せただろ?」


 ラゾールニクが電源を入れると、クルィーロがぴったり肩を寄せて画面を覗き、星の道義勇軍の三人も腰を浮かした。


 「やっぱ、あるな」

 荷台の空気が凍り、一同、息を止めた。

 「ちょっと見て来る」

 囁いて、ラゾールニクが荷台を降りた。誰一人として動かず、半開きの扉に注目する。


 ……一体、いつの間に……?



 警備員オリョールたちがネモラリス憂撃隊を名乗る前、名もなき武装ゲリラだった頃、アーテル軍の武器庫から盗んだ銃にも、発信機が取り付けられた。

 アーテル軍は度重なる略奪に業を煮やし、敢えて発信機付きの武器を盗ませたのだ。アーテル本土の森にあるアジトを突き止め、爆撃機で急襲した。

 当時の新聞は、アーテル政府軍が、ネモラリス人ゲリラの隠れ家を壊滅させた戦果を大々的に報じた。そこに発信機使用の情報があったのだ。


 後に移動販売店の者たちが参加させられた時にも、同じ手口を使われた。

 流石に新聞には、発信機の写真など載らなかったが、少年兵モーフやローク、レノ店長がそれと見抜いたのだ。

 その頃、武装ゲリラの武器庫は、ネーニア島西部の北ザカート市に移転済みだった。電波は届かないが、ソルニャーク隊長の指示で、アーテル本土の長距離トラックなどに付け直した。

 どの程度、アーテル軍を撹乱できたか不明だが、拠点を襲撃されることはなかった。


 ネモラリス共和国内に巣食う星の(しるべ)が、アーテル共和国や湖東地方のキルクルス教国から、同じものを調達したとしても、不思議はない。



 ラゾールニクが荷台に戻った。

 「店長さん、魚、もう一匹焼いてくれる?」

 「えっ?」

 緊張のあまり、何を言われたかわからないようだ。

 セプテントリオーも、ラゾールニクの意図がわからず、露草色の瞳を見た。どうやら、緊張を(ほぐ)す冗談の類ではなさそうだ。

 「近所のトラックにお裾分け」

 「魚と発信機か」

 「流石、隊長さん、話が早くて助かるよ」


 レノ店長がぎこちなく頷き、言われるまま干物をホイルで包み始める。ピナティフィダが兄の手を止め、ラゾールニクに険しい顔を向けた。

 「待って……他所(よそ)のトラックにくっつけるってコトですよね?」

 「そうだよ」

 ラゾールニクは悪怯(わるび)れもせず、あっさり肯定した。

 「もし、それを目印にして、後で爆弾とか仕掛けられたら……」

 「あー、ないない。それはない」

 「どうしてですか」

 荷台の空気が張り詰める中、パン屋の娘が詰問する。


 「このトラックは念の為に外した方がいい。でも、移動した頃なのに発信機の反応が動かなかったら、外したのがバレてすぐ捜される。これは、わかるよね?」

 ピナティフィダを含め、数人が無言で顎を引く。

 「爆弾仕掛けるにしても、リャビーナ市内では起爆させない」

 「どうしてですか」

 「ここには隠れキルクルス教徒が大勢住んでる。市内の道路が通行止めンなったら、オースト倉庫とかの業務に支障が出る」

 「市外に出てから爆破……仕掛けるとすれば、今夜から写真引き渡し当日の夜明け前までか、あるいは、次の街か」

 ソルニャーク隊長が呟くと、ラゾールニクは我が意を得たりと笑みを広げる。


 少年兵モーフが苛々と声を上げた。

 「何でンな、まどろっこしいコトすンだ? 最初っから爆弾でよくねぇ?」

 「坊主、爆破されんの俺らだってわかってんのか?」

 メドヴェージに小突かれ、耳まで赤くなって(うつむ)く。


 ラゾールニクは、肩を(すく)めて一同を見回した。

 「このトラックを完全に爆破しようと思ったら、それなりの威力か、数を用意しなきゃなんない」

 「燃料タンクに【耐火】とかの呪符を貼ってあるから……ですね?」

 クルィーロが言うと、ラゾールニクはにっこり微笑んで続けた。

 「リモコンか、時限式かわかんないけど、辞書や一リットル瓶くらいの大きさになるよ」

 「そんな目立つ物を持って、昼日中(ひるひなか)にトラックの横で不審な動きをすれば、店番の目につく」

 隊長が付け加えると、状況を想像した子供たちも怯えた顔で頷いた。

 「そう言うコト。発信機なら、掌に握り込める大きさで、磁石があるから、通りすがりにでもくっつけられる」


 「でも、他所の車にくっつけ直したら、他所の人が……」


 何となく納得しかけた空気を破ったのは、アマナだ。少女の目が、姉にしがみついて震えるエランティスを気遣わしげに見詰める。


 「発信機の精度は、端末のGPSみたいに一メートル単位なんてコトないから、これだけ近くに何台も停まってれば、仕掛ける前にナンバーを確認するよ。お得意さんのトラック、間違ってふっ飛ばしたら、それこそオオゴトだ」

 ラゾールニクがおどけた動きで、握り拳をぱっと開いてみせる。

 「ナンバープレート、元に戻すだけじゃダメなんですか?」

 アマナの兄クルィーロが聞く。

 「それも今からするけど、移動先を追跡されるのも避けたいからね」


 「あのおっさん、写真くれるっつったクセにワケわかんねぇモンひっつけやがって……!」

 モーフが(うつむ)いたまま、拳を握る。

 「方針が変わったのか、あちらさんも一枚岩じゃないのかわかんないけど、俺らは、最悪の事態を避ける為に、できることはグズグズしないですぐやる。……いいね?」


 「見張り……不審人物を捕えるのでは、いけませんか?」

 「呪医(せんせい)、力なき民を勢い余って殺さないで生け捕りにできる? 隊長さんたち、刃物とかバレた時用に自爆ベスト着てそうな奴、殺さないで止められる? 向うが複数居たら?」

 次々と穴を指摘され、呪医セプテントリオーは頭の中が真っ白になった。


 ラゾールニクは返事を待たず、工具などを入れた木箱を開け、一人で荷台を降りた。

☆アジトを突き止め、爆撃機で急襲……「269.失われた拠点」参照

☆同じ手口/ソルニャーク隊長の指示……「389.発信機を発見」参照

☆北ザカート市内に移転済み……「367.廃墟の拠点で」参照


 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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