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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十九章 交錯

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1502/3510

1463.駐車場に宿泊

 舞台に上がった者たちは、物販の終了時間を少し過ぎてから戻った。

 セプテントリオーたち「今日は居ない者」は、片付けを手伝うワケにもゆかず、荷台奥の係員室で息を殺して発車を待つしかない。


 「これ、向こうでたくさんもらってウチじゃ食べきれないんで、アレルギーとか大丈夫でしたら、どうぞ」

 「えっ? ホントにいいんですか?」

 「でも、そっちは人数多いですよね?」

 「何もしてないのにタダでもらうのはちょっと……」


 何をどれだけもらったか不明だが、レノ店長の声にあちこちから答えが返る。幾つもの声が重なり、聞き取れたのは遠慮ばかりだ。


 「俺たち、人数は多いですけど、トラックで生活してるんで、冷蔵庫とかないんですよ」

 「(いた)んで食べられなくなる方が、くれた人に申し訳ないですから」

 レノ店長に続いて、クルィーロも言う。

 「でも、何もお返しできませんし……」

 「それでは物々交換を……」

 「あ、あの、さっきも絵本代で、袋たくさん引き取っていただいたのに」

 パドールリクの申し出に泣きそうな声が(かぶ)さった。


 「このテのモンを友達価格で引き取ってくれる職人が居るんだ」

 「持ってくの、俺だけどよ」

 メドヴェージが「気にするな」と言いたげに明るい声を出し、葬儀屋アゴーニが笑う。


 「えっ? こんなフツーの袋を?」

 「魔法の刺繍入れて売るんだとよ」

 「この蔓草(つるくさ)の籠もだけど、先に形になってたら、そんだけラクつってたッス」

 メドヴェージの説明に少年兵モーフが嬉しそうに付け足す。

 今日一日、出店をしたが、蔓草細工は売れなかったようだ。


 「でも、それって、袋だけよね?」

 「エプロンとか、ダメですよね?」

 「ん? 俺たちは袋とか容れ物しか売ったコトないけど、あの人、服作るのが本業だし、イケるんじゃないかな?」

 「エプロンだったら、火傷しないように【耐熱】とか入れるんじゃないかな」

 クルィーロが、レノ店長の自信なさげな声を補って肯定する。

 途端にトラックの周囲に人の気配が増えた。我も我もと、売れ残った布小物と、歌い手たちが舞台でもらった何かとの交換を求める声が重なる。


 「順番でーす! 順番にお願いしまーす!」

 「はいはい、そこ押さないで! 並んで!」

 ピナティフィダとラゾールニクが交通整理を始め、他の声も次々と加わった。


 呪医セプテントリオーは、係員室で息を潜める漁師と薬師(くすし)兄妹(きょうだい)を見たが、もうすっかり日が落ちて、表情はわからない。

 中で【灯】を(とも)せば、フロントガラス越しに室内が見えてしまう。「居ない」者たちは、声を発するのを(こら)えて、片付けが終わるのを待った。



 結局、オースト倉庫のコンテナヤードからトラックを移動できたのは、一時間ばかり経ってからだ。メドヴェージの危なげのない運転に身を任せ、係員室から荷台に移る。


 「お疲れさまでした」

 「何も手伝えなくてすみません」

 緑髪の兄妹が言い、セプテントリオーも頭を下げた。

 「お疲れさまでした。今夜の見張りは任せて下さい」

 言いながらクルィーロにタブレット端末を返すと、金髪の青年は微妙な顔で受取った。

 「やっぱ、見張り……要るんですね」

 「俺もやるっス!」

 「坊主は舞台で疲れたろ。寝とけ」

 モーフが元気よく手を挙げたが、葬儀屋アゴーニがその腕をグイッと下げた。


 ソルニャーク隊長が、部下の少年兵にやさしい目を向けて言う。

 「体力を温存し、いざと言う時に備えるのも、仕事の内だ」

 「ジョールチさんたちと合流すんの、市外に出てからで、それまで俺も居るし、見張りくらい手伝うよ」

 ラゾールニクが言うと、少年兵モーフは眉と口角を下げた。

 「いつ会えンだよ?」

 「坊主、おめぇ……ホント、人のハナシ聞いてねぇな」

 葬儀屋アゴーニが、半笑いで説明する。



 本職の放送局員の二人……国営放送アナウンサーのジョールチとFMクレーヴェルのDJレーフは、別行動中だ。

 移動放送局プラエテルミッサのトラックは今夜、現場用品店の駐車場に泊まる。FMクレーヴェルのワゴン車の宿泊場所は、倉庫街とオフィス街の中間辺りにある量販店の駐車場だ。

 合流は、クルィーロがリベルタース国際貿易で、ロークの父から写真を受け取った後になる。



 「兄ちゃん、写真、いつもらえるって?」

 「三日後に来て欲しいって言われました」

 「写真もらうまで、ここを出らんねぇんだ。わかったか?」

 モーフは不満いっぱいの顔で渋々頷いた。


 現場用品店は、長距離トラックの休憩用に夜間も、駐車場と別棟のトイレを開放する。日中に使用料を払って予約すれば、夜間でも入れてもらえるのだ。

 常連のトラックは、運送会社が月極で場所を借りる。

 駐車場の入口詰所には、二十四時間、警備員が詰めるが、車上荒らしの巡回まではしてくれない。契約外の車輌の侵入を(はば)むだけだ。



 メドヴェージが速度を落とし、慎重に車体を旋回させる。直進の途中で揺れ、みんなは慌ててお茶を押さえた。

 「こんばんはー。昨日、予約したモンでさぁ」

 「あー、はいはい。こんばんはー。駐車券見せてー」

 別の声がナンバープレートを読み上げ、更に別の声が侵入を許可した。警備員たちは、運び屋フィアールカが調達した偽造ナンバーを見抜けなかったようだ。


 ……一体、どんな伝手(つて)なのだ?


 助かるので文句は言えないが、何とも言えない気持ちになった。


 警備員の誘導で、予約した区画にトラックを停める。

 「ありがとよ」

 「はい。お疲れ様でしたー。おやすみなさーい」

 警備員の声と足音が遠ざかり、たっぷり二十数えてから、運転席の戸が開いた。

 ラゾールニクがタブレット端末と、よく似た機械をポケットから出す。

 「なんですか? それ?」

 工員クルィーロが、一回り小さいそれを目敏(めざと)くみつけ、子供のように瞳を輝かせてラゾールニクの隣に移動する。彼の父パドールリクは、苦笑して娘のアマナと顔を見合わせたが、二人とも何も言わなかった。


 「あぁ、こっち? これは」

 「オーッス! お疲れさん。メシにすんぞ、メシー!」

 荷台の扉が勢いよく開き、メドヴェージが夜風と共に入って来た。

☆現場用品店の駐車場……「1445.合同開催計画」参照

☆倉庫街とオフィス街の中間辺りにある量販店……「1431.商品棚の事情」参照

☆ロークの父から写真を受け取った後……「1456.倉庫街で催し」「1460.観客席を観察」参照

☆運び屋フィアールカが調達した偽造ナンバー……「1430.東への玄関口」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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