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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第八章 北へ

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150/3502

0150.道を掘り出す

 ピナがブリキのバケツ一杯分の瓦礫を道端に捨てた。

 すぐ車道へ戻り、片手で拾える破片を掃除用のバケツに詰めて回る。


 少年兵モーフは横目でその姿を見ながら、メドヴェージと二人で大きな瓦礫を動かした。拾ってきた銅管を梃子(てこ)にして少しずつ移動させる。


 パン屋のレノと工員クルィーロは手で抱えて運べる物を()け、小学生のアマナとピナの妹は、細かい破片やガラス片、灰などを(ほうき)で端へ掃き寄せる。



 ソルニャーク隊長と薬師(くすし)アウェッラーナ、地元民のロークは、トラックでも通行可能な橋を探しに行った。

 彼らがいい(しら)せを持って帰るのを祈りながら、駐車場の通路から公道へ、瓦礫の撤去作業を進める。



 箒の小学生二人は、もう通りの角まで掃き進んだ。

 瓦礫をひとつ端に寄せ、工員クルィーロが首に掛けたタオルで額の汗を(ぬぐ)う。


 パン屋のレノも瓦礫を置いて妹たちに声を掛けた。

 「二人ともちょっと休憩。こっち来て」

 女の子たちは顔を見合わせて駆け戻った。ピナの妹が少し不満そうに言う。

 「まだ休まなくても平気。お姉ちゃんのお手伝いしていい?」

 「うーん……後で疲れたって、ぐずぐず言わないんなら……」

 レノが渋々言うと、二人は明るい顔で拳大の瓦礫を拾い始めた。二人の兄も顔を見合わせ、苦笑いして作業を再開する。


 ……外の奴らも、意外と働き者なんだな。


 少年兵モーフはずっと、自治区外の住人を「楽して得することばかり考えるズルい奴ら」だと思っていた。

 今、行動を共にするのは偶々(たまたま)、働き者に当たっただけかもしれない。

 そう言えば、ピナの同級生たちは、運河の(ほとり)で何もしなかった。


 ……どこに居ても、ズルい怠け者は怠け者だし、働き者は働き者なんだろうな。


 一人で納得し、黙々と作業を続ける。

 メドヴェージが梃子(てこ)に力を入れる瞬間、掛け声を出し、モーフはそれに従って力を籠めた。

 あっという間に汗だくになる。

 ラキュス湖から吹く風は冷たく、このままでは風邪を引きかねない。


 ……でも、やるしかねぇし、動いてる間は暑いくらいだからな。


 まだ、車輌一台分くらいの範囲しか片付かない。これをニェフリート河まで続けるかと思うと、気が遠くなりそうだ。

 それでも作業しなければ、どこへも行けないのだ。



 「そろそろ、メシにするか」

 クルィーロがすっかり日が高く昇った天を仰ぐ。


 三人はまだ戻らない。近くの橋はダメだったのだろう。

 河まで行けば、緑髪の薬師(くすし)がまた魚を獲る筈だ。


 少年兵モーフは、片付けの距離を考えてげっそりした。

 ニェフリート河を越えたところで、対岸も空襲の焼け跡なら、また道路の片付けをする羽目になる。先々を思うと気持ちが沈み、今朝焼いたばかりのパンの味がわからなくなった。



 三十分程休憩して作業を再開する。

 「同じ景色ばっかりだと飽きちゃうから、今度はここからあっちにしません?」

 ピナが放送局前の道路を指差した。


 どこから手を着けても、片付ける範囲は同じだ。特に反対する者はなく、玄関から駐車場方面に向けて片付け始めた。

 放送局前には、(ほとん)ど瓦礫がない。

 両隣のビルは完全に崩壊し、車道にも瓦礫が散乱する。


 小学生二人はさっさと角まで掃き進め、今度は何も言われない内からピナの作業を手伝った。

 車道を埋める瓦礫を中央分離帯に放り上げる。

 一人で動かせる瓦礫が粗方(あらかた)片付くと、一目で無理だとわかる塊が(あら)わになった。


 壁の破片らしいが、車くらいのコンクリ塊だ。

 「ツルハシか何かありゃ、割って運べるんだがな」

 メドヴェージが汗を拭きつつ、溜め息を()く。

 レノとクルィーロは腰をさすりながら、苦い顔でコンクリ塊に視線を落とした。


 少年兵モーフは諦めきれず、声を上げた。

 「廃車の時みてぇに、みんなでやりゃ動くんじゃねぇか?」

 「無理だ。パイプが折れる。やめとけ」

 メドヴェージにあっさり却下されたが、尚も食い下がる。


 「おっさん、やる前から諦めんなよ」

 「坊主、見てわかれよ」

 「やってみなくちゃわかんねぇだろ」

 「俺に口応えしたってコイツは軽くなんねぇぞ。隊長たちが戻るまで他のを片付けてろ」

 「でも……」

 「デモもストもねぇ。さっさと手ぇ動かせ」

 いつになく、おっさんに苛立(いらだ)った声をぶつけられ、少年兵モーフは憮然(ぶぜん)として口を(つぐ)んだ。仕方なく作業を再開する。


 成り行きを見守った面々も、再び時が動き出したように細かい瓦礫を退()かしに掛かる。

 人力で運べる分だけでも途方もない量だ。下らないことで争う暇などなかった。

☆拾ってきた銅管……「0131.知らぬも同然」参照

☆トラックでも通行可能な橋を探しに行った……「0145.官庁街の道路」~「0147.霊性の鳩の本」参照

☆ピナの同級生たちは、運河の(ほとり)で何もしなかった……「0061.仲間内の縛鎖」参照

☆緑髪の薬師(くすし)がまた魚を獲る……「0043.ただ夢もなく」~「0046.人心が荒れる」「0112.みんなで掃除」参照

☆廃車の時……「0130.駐車場の状況」→「0142.力を合わせて」参照


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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