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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十九章 交錯

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1474/3510

1435.詳しい者の案

 ラゾールニクが、紅茶にジャムを入れて掻き混ぜながら言う。

 「改めて、状況を客観的に整理しとこっか」



 ロークとスキーヌムが、昨年の冬休みに失踪した。

 スキーヌムの実家から、ルフス神学校には伝わる。


 ルフス神学校は恐らく、ディアファネス家やネモラリス共和国内の星の(しるべ)には知らせなかった。ロークのフリでメールの定期連絡に返信しつつ、彼の行方を血眼で追う。

 ローク自身が、入院中の同級生の前に姿を見せ、帰国するとの偽情報を与えた。

 ネモラリス共和国にはインターネットの設備がなく、しかも、ロークはタブレット端末をスキーヌムの実家に置いて姿を消した。


 (さかのぼ)って、ロークの父コーレニ・ディアファネスと面識があるのは、ネミュス解放軍のクーデター勃発当時、首都クレーヴェルでロークと共に帰還難民センターに身を寄せたクルィーロたちだ。



 「えっと……ローク君のお父さん目線で……俺はセンターでローク君と別れてから一回も会ってなくて、ローク君の一家がレーチカ市の国会議員ちに居候してると思ってて……ってコトですか?」

 「そうなるね。逆にコーレニ氏も、首都で君たちと別れた後、君たちがどこで何してたか知らない筈だ」


 チェルニーカ市での放送で、イーヴァ議員とパジョーモク議員ら隠れキルクルス教徒の妨害に遭った。

 逓信省(ていしんしょう)パドール地方管理局で、FM放送の許可申請をしたが、申請書類の名は全て、国営放送アナウンサー兼総合無線通信士のジョールチで統一した。

 イーヴァ議員たちとクルィーロたちは、チェルニーカ市で初めて顔を合わせるまで、ゼルノー市の国政選挙以外で接点がなかった。面識などある筈がなく、仮にどこかで公開生放送を見られたとしても、ロークの仲間の活動として、コーレニに情報が渡ることはないだろう。


 「俺は、ローク君のお父さんと会わない方がよさそうですね」

 「えっ? 何で?」

 ラゾールニクが本気で驚いた顔をする。

 「クーデターまで、FMクレーヴェルで普通にDJとして放送してたから、もしかすると声を知られてるかもしれません」

 クルィーロは焦った。

 「えっ? 俺一人で、あのおじさんと会うんですか?」

 「他に面識あるのは?」


 聞き返され、返事に詰まる。

 クルィーロの他、あの場に居合わせたのは妹のアマナ。レノとピナティフィダとエランティスのパン屋三兄姉妹(さんきょうだい)、そして、薬師(くすし)アウェッラーナだ。


 ……アウェッラーナさんは湖の民だから、あのおじさん、口が重くなるよな。


 更に言えば、彼女に万が一のコトがあれば、絶対に一生後悔するだろう。

 そうかと言って、力なき民の四人では、キルクルス教に勧誘される惧れがある。しかも、イザと言う時に【跳躍】で逃げられない。


 ラゾールニクが状況を面白がるような笑みを消し、やさしい声で言う。

 「一応、ローク君にも相談してみよっか」

 「相談? ランテルナ島で元気にしてますよって、家族に伝えていいか聞くんですか?」

 「それ、何かイイコトあると思う?」

 クルィーロは首を横に振った。


 DJレーフが目顔で問うと、ラゾールニクは表情を消して答えた。

 「お父さんの攻略法を聞くんだよ」

 「攻略法?」

 二人の疑問がピッタリ揃った。

 「どうやれば、お父さんを警戒させずに近付けて、情報を引き出せるか」

 「逆にこっちから絶対、漏らしちゃいけない情報も?」

 「流石、元放送局の人だなぁ」

 レーフが聞くと、ラゾールニクは顔を綻ばせた。



 二人がサンドイッチを食べる間、ラゾールニクは運び屋フィアールカにメールを送り、ロークの予定を確認する。

 今日と明日は呪符屋に居るとわかり、ランテルナ島の地下街チェルノクニージニクに移動した。



 ローク一人がカウンターで店番する。この店で働き始めて一年経ち、すっかり店員が板についた。おつかいに出たと言うスキーヌムも、同じ期間勤めるが、全寮制の神学校育ちで世慣れない彼は、まだまだな部分が多い。


 ラゾールニクが父親の名を出した途端、ロークは露骨にイヤな顔をした。それでも、遮らずにきちんと耳を傾ける。

 一通り状況を確認した後も、予約客の注文品を揃えるまで、口を開かなかった。


 呪符の束を専用の封筒に入れ、注文票をクリップで留めると、まずDJレーフに言った。

 「レーフさんは父と会わないで下さい。首都圏に出張した時、放送を聞いた可能性があります」

 「うん。俺もそう思ってたよ。やっぱ、リャビーナで放送できない可能性を考えたら、放送局の奴が一緒に居るって、知られない方がいいよな」

 「じゃ、俺が一緒に行こう」

 レーフが頷くと、ラゾールニクが初めて思い付いたように小さく手を上げた。

 ロークが目を丸くする。

 「いいんですか?」

 「これは君たちだけの問題じゃないからな」

 ラゾールニクは、いつになく真剣な顔だ。


 「で、どうすれば、接触できると思う?」

 「会社の近くに求人情報の掲示板があるんですよね?」

 「うん。役所のお知らせとか、他所の会社のもあったけど、街区の共同掲示板ってカンジだった」

 クルィーロは端末に写真を表示させた。レノたちが行った翌日に撮ったものだ。


 「例えば、この求人の件で会社に行って、貿易統括部長の知り合いですって言うのは?」

 DJレーフが、せめて知恵で手伝おうと案を出す。

 クルィーロは成程(なるほど)と思ったが、ロークとラゾールニクは同時に首を横に振った。

 「今、ネモラリスは仕事なくて困ってる人、多いんだろ?」

 「……そうですね」

 「自分はお偉いさんの知り合いだーって嘘で潜り込もうとする奴、掃いて捨てる程来ないか?」

 「本当に知り合いなら、自宅か会社の内線宛に電話を掛けて約束して、偉い人から警備員さんに話を通すでしょうからね」

 クルィーロは、ロークのしっかりした指摘に想定の甘さを思い知らされ、言葉を失った。


 穴を指摘されたDJレーフが、当然の疑問を口にする。

 「じゃあ、どうすればいいんだ?」

 「あの人、誰かから頼りにされるの好きなんですよ」

 「でも、会社に行くんじゃダメなんだろ?」

 レーフがやや棘のある声を出したが、ロークは気付かないのか、続けた。

 「それと、信心深いから、運命の導きとか本気で信じてるんですよ」

 ロークが店の戸に視線を遣って言う。


 予約客も他の客も来ず、スキーヌムもまだ戻らない。


 「だから……」

 ロークはカウンターから身を乗り出し、小声で作戦を語った。

☆ネミュス解放軍のクーデター……「599.政権奪取勃発」~「601.解放軍の声明」参照

☆ロークと共に帰還難民センターに身を寄せた……「574.みんなで歌う」「576.最後の荷造り」「577.別の詞で歌う」「596.安否を確める」参照

☆隠れキルクルス教徒の妨害……「0970.チェルニーカ」「0971.放送への妨害」参照

☆FM放送の許可申請……「0981.できない相談」参照

☆FMクレーヴェルで普通にDJとして放送……「610.FM局を包囲」参照

☆あのおじさん……「636.予期せぬ再会」「637.俺の最終目標」「654.父からの情報」「655.仲間との別れ」参照

☆街区の共同掲示板……「1432.広場の掲示板」参照


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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