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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十九章 交錯

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1461/3519

1422.膨張した兵器

 魔装兵ルベルは、どうにか安全圏まで逃げ(おお)せたものの、途方に暮れた。


 ……どうすんだ、これ?


 魔哮砲は、スクートゥム水軍と思われる武装船団から攻撃を受け、【光の槍】の魔力を吸収して膨張した。


 前任の魔哮砲操者の頃は、トラック程度の大きさだった。

 魔哮砲は、搭乗した防空艦レッススの轟沈後、ツマーンの森を彷徨った。ラクリマリス王国軍に発見され、攻撃を受けた時は、大型トレーラー並の大きさにまで膨らんだ。


 魔装兵ルベルと【使い魔の契約】を結ぶ時には、隠密行動しやすいよう、大型バイク程度の大きさにまで縮小してあった。


 今、ルベルが北ザカート市に【跳躍】で運んだ魔哮砲は、トラックより一回り小さい。前任者の頃よりやや小さいとは言え、これでは【従魔の檻】に入らない気がした。

 工兵ナヤーブリも、数倍に膨れ上がった闇の塊を見上げ、呆然と呟く。

 「ルベルさん……これ……」

 「魔法で攻撃されると、魔力を吸収して大きくなるんだ」

 「怪我……大丈夫ですか?」

 「しない。ツマーンの森でラクリマリス軍に攻撃されても、ピンピンしてた」

 ナヤーブリはホッと表情を緩めた。



 咄嗟に跳んだ先は、ネモラリス政府軍が接収した廃ビルの前だ。

 北ザカート市の防壁は、物体は完成した。だが、【魔除け】や【跳躍】除けの結界などは、まだ魔法陣の構築が終わらない。

 魔装兵ルベルは、防壁が不完全でよかったと思う日が来るなどと、夢にも思わなかった。


 朝日を浴びた魔哮砲が、何事もなかったかのようにたぷんと揺れ、使い魔の主ルベルに身を寄せる。真冬の湖水に沈めた身はすっかり乾き、元のぬくもりを取り戻して人肌よりややあたたかかった。


 「餌……」


 この巨体を養う為にどれだけの雑妖が必要なのか。

 魔哮砲に攻撃させるには、満腹以上に食べさせなければならない。

 日の出直後の北ザカート市は、空襲を持ち(こた)えた廃ビルが点在する以外、何もない更地だ。雑草も工兵たちがこまめに取り除く。

 瓦礫の撤去と空襲犠牲者の【魔道士の涙】の回収を終え、視える範囲に雑妖は居なかった。


 冬の弱い朝日の下には、雀や鳩などの姿もない。

 ネーニア島東岸のゼルノー市やクルブニーカ市も、瓦礫の撤去を終えた今、魔哮砲の餌となる雑妖の大量発生は望めない。

 立入制限のない都市では、一般市民の目に触れる。レサルーブの森や、内陸部の沼沢地では発生するが、魔物や魔獣に捕食される危険性があった。

 この巨体では、アーテル領での給餌も不可能だ。


 ……一番無難そうなのは、俺が守って森に連れて行く……なのか?


 「ルベルさん、とにかく早く少尉殿に報告して、指示を仰ぎましょう」

 「あ、あぁ……俺について来い」

 力ある言葉で命じると、膨れ上がった闇は、いつも通り素直に従った。



 階段の前で、降りて来たラズートチク少尉と鉢合わせした。

 「これはまた……【従魔の檻】に入りそうか?」

 「あ、いえ、まだ試していません」

 「やってみろ」

 「入れ、人の手に()懐生(かいせい)

 ウェストポーチから茶色の小瓶を取り出し、いつも通り発動の呪文を唱えたが、魔哮砲はびくともしない。

 三人は数秒、息を詰めて待ったが、何も起こらなかった。



 ラズートチク少尉がゆっくり息を吐き、操手のルベルを(ねぎら)う。

 「だが、よくぞ魔哮砲を回収した。これが他国の手に渡れば、或いはお前の身に何事かあれば、取り返しのつかない事態に陥るところだった」

 魔装兵ルベルは、大失態を弁解する気力もなく項垂(うなだ)れた。


 ……俺がもっと周囲に注意を払ってれば。


 「私の警戒が不充分だったせいです。ルベルさんは魔哮砲の操作に集中して、周辺の警戒など不可能でした」

 「あ、いや、【暗視】とか【索敵】とかできるの俺だし、俺がもっとちゃんと見てれば」

 思いがけず気象予報などを(つかさど)る【飛翔する燕】学派の工兵に庇われ、哨戒任務が本業の【飛翔する蜂角鷹(ハチクマ)】学派のルベルは狼狽えた。

 工兵ナヤーブリが(かぶり)を振る。

 「いえ、昨年から継続して警戒任務を与えられたにも拘らず、【暗視】などの習得を怠った私の責任です」


 「今は個人の責任を云々する暇などない。善後策を考えよう。操手のルベルが無事に帰投し、魔哮砲も第三国の手に渡らずに済んだ。解決すべき問題は……わかるか?」

 「魔哮砲を小さくすること……ですか?」

 魔装兵ルベルが恐る恐る発言すると、少尉は微笑と共に頷いた。


 正解に安堵する間もなく、次の問いが飛ぶ。

 「他にもあるが、わかるか?」

 魔哮砲で頭がいっぱいのルベルは、皆目見当もつかず、工兵ナヤーブリに視線で助けを求めた。

 工兵は、天候を読むような調子で答える。

 「幾つか考えられます。ひとつは、私たちが遭遇した船団の所属の確認。それから何故、夜明け前にアーテル領付近を航行したのか。何故、魔哮砲を攻撃したのかなど、行動する前に調査が必要です」

 ラズートチク少尉は、深く頷いた。


 今の時間帯は、不寝番の哨戒兵以外に起床した兵はおらず、拠点が静かだ。


 「ルベルは魔哮砲と共に休息。念の為、ウートラを警護に付ける。ナヤーブリは私と一緒に来い。防空艦ノモスでシクールス陸軍将補に報告する」

 「はッ!」


 少尉が【花の耳】で呼ぶと、工兵班長ウートラはすぐ降りて来た。

 膨れ上がった魔哮砲にギョッとしたが、すぐ表情を消し、指示を受ける。


 ラズートチク少尉は、二人が階段を上がるのを待って目撃者を連れて出た。

☆魔哮砲は、スクートゥム水軍と思われる武装船団から攻撃を受け……「1401.人を殺さずに」参照

☆前任の魔哮砲奏者の頃は、小型トラック程度の大きさ…「0157.新兵器の外観」「227.魔獣の討伐隊」参照

☆これでは【従魔の檻】に入らない……「618.捕獲任務失敗」参照

☆搭乗した防空艦レッススの轟沈……「274.失われた兵器」「279.悲しい誓いに」「393.新たな任務へ」「404.森を切裂く道」参照

☆ツマーンの森を彷徨った。ラクリマリス王国軍に発見され、攻撃を受けた時……「439.森林に舞う闇」「509.監視兵の報告」「523.夜の森の捕物」「607.魔哮砲を包囲」参照

☆魔装兵ルベルと【使い魔の契約】を結ぶ……「776.使い魔の契約」参照

☆大型バイク程度の大きさにまで縮小……「726.増殖したモノ」「776.使い魔の契約」参照

☆防空艦ノモスでシクールス陸軍将補……「1163.懐いた新兵器」「1170.陸水軍の会議」~「1172.対誘導弾防空」参照


 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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