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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第八章 北へ

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0143.トラック出庫

 鍵は掛かっていなかった。

 中にはたくさんのフックと少しの鍵。フックの上に番号が貼られ、キーホルダーにも同じ番号がある。


 扉の裏には、バインダーに挟んだ一覧表がぶら下がる。いつ、誰が、どの車両を使ったか記録されていた。

 最後の記録は、空襲当日の早朝だ。


 太い腕がぬっと伸びた。

 振り向くと、メドヴェージがクルィーロの肩越しに鍵を取るところだ。


 「坊主、よく見とけ。これが車の鍵って奴だ」

 「へぇー。何か、ピカピカでカッコいいな」

 「そうか? 一個ずつ形は違うが、大体、こんな感じだ。車一台に鍵一個。失くした時の用心に予備も作るがな」


 ……目的が変わってきてないか?


 クルィーロは苦笑して、二人に向き直った。

 「多分この数字が、車のナンバーだと思うんですけど」

 「そうだな……四本しかねぇし、全部持って降りっか。おい、坊主。隊長に鍵みつけたから、下行きますっつってこい」


 少年兵モーフが口を尖らせる。

 「俺もそっち行きたい」

 「何言ってんだお前……車のこたぁ何もわかんねぇ、魔法も使えねぇんじゃ、伝令くらいしかできんだろ。いいから行ってこい」

 珍しく、メドヴェージに厳しい口調で言われ、少年兵モーフはとぼとぼ玄関へ向かった。



 カチリと小気味良い音を立て、運転席のドアが開く。

 思った通り、中の一本がイベントカーの鍵だ。クルィーロとメドヴェージは顔を見合わせて笑みを交わした。


 「じゃ、早速動かしてみらぁ」

 運転席につくメドヴェージに続いて、クルィーロも【灯】のボールペンを手に助手席へ乗り込んだ。


 暗い上に工具の在処(ありか)もわからない。点検なしでエンジンを始動する。

 難なく掛かり、メドヴェージは鼻歌交じりにトラックを動かした。車体を旋回させ、出口へ向かう。

 暗い駐車場にヘッドライトの光跡が走った。


 四角く切り取られた空は、すっかり晴れて青い。スロープを登り、四トントラックが地上に姿を現す。

 力を合わせて除けた廃車の脇を抜け、瓦礫や廃車が散乱する地上の駐車場を慎重に走らせる。


 メドヴェージは、公道の手前でトラックを停めた。

 「ま、特に問題なさそうだな」

 「そうですね。一週間くらい前までは、普通に使ってたんでしょうし……」

 クルィーロは、自分の発言にギョッとした。


 ……そうなんだ。まだ、ほんのちょっとしか経ってないのに。


 平和な日々が、遠い昔に思える。


 メドヴェージがシートベルトを外し、車外に出た。クルィーロも呆然としたまま降りる。

 「玄関へ回す前に、道の瓦礫をちっと除けとこうか」

 「そうですね。タイヤの交換も、今度はいつできるかわかりませんし……」



 トラックが正常に動くことを報告すると、玄関ホールが喜びに沸いた。


 「じゃあ、早く道のお片付けしようよ」

 アマナが瞳を輝かせてクルィーロの手を引く。

 ソルニャーク隊長が、苦笑して言い聞かせた。

 「嬉しいのはわかるが、今日はもう遅い。明るい内に夕飯の支度もしなくてはならない。道路の片付けは明日にしよう」



 夕食後、紅茶を飲みながら明日の予定を立てる。


 ソルニャーク隊長が、宣言めいた調子で提案を口にする。

 「明日は、二手に分かれて行動しよう」

 「そうですね。その方が効率いいと思います」

 ロークが同意を示すと、他のみんなもそれぞれ頷いた。


 隊長は頷き返して続ける。

 「一組は、道路の瓦礫撤去。駐車場の出口から放送局の玄関前まで」

 「パンクさせんように、大きいのは道路の端に寄せて、ガラス片やら何やら細かいのは(ほうき)で掃いてな」

 メドヴェージが作業内容を補足する。

 箒の作業なら、子供たちにもできる。


 隊長が続きを語る。

 「もう一組は橋を見に行く。土地勘のあるローク君にお願いしたいのだが……」

 「あっ、はい、大丈夫です」

 ロークは緊張した面持ちで応えた。

 安全の為にソルニャーク隊長と、魔法使いのアウェッラーナも同行する。ついでに水汲みと魚獲りもすると決まった。


 ここを出られる期待感で、みんなの表情が明るい。

 野宿よりマシだが、ここでは嵐は防げなかった。どこか、ちゃんとした「人の暮らし」のある場所が恋しい。


 「じゃあ、今日は早く寝て、明日頑張ろう」

 クルィーロがアマナを見る。

 妹の顔は、両親に会える期待で明るかった。

☆一週間くらい前までは、普通に使ってた……章タイトル参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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