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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第八章 北へ

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142/3504

0142.力を合わせて

 薬師アウェッラーナの予報通り、冬の嵐は夜明け前に去り、昼過ぎには雲間から青空が覗いた。


 クルィーロ、ローク、メドヴェージ、少年兵モーフの四人は、銅管を手にして放送局の裏へ回る。

 レノたちパン屋の兄姉妹はその間、昨日仕込んだパンやクッキーを焼く。



 地下駐車場の出口を塞ぐ廃車は、相変わらずそこにあった。

 爆撃で穿(うが)たれたアスファルトの穴に雨水が溜まり、濁った水溜まりには薄い氷が張る。


 「水……」

 ロークが暗い声で呟いた。裏返しになった車の天井にも雨が溜まっている。

 クルィーロは排水しようと【操水】を唱え掛けて、やめた。


 「ちょっと、アウェッラーナさん呼んでくるよ」

 「何か、マズいんですか?」

 ロークがクルィーロと廃車を素早く見比べ、泣きそうな声を出す。


 クルィーロは、パイプを廃車に立て掛けながら手を振った。

 「あ、いや、そう言うんじゃないんだ。こんだけ水があれば、アウェッラーナさんにも魔法で手伝ってもらえるなと思って」


 同じ【操水】でも、自分の魔力では湖の民の薬師程の威力が出ない。

 クルィーロは運河に水の橋を掛けた時、痛いくらい思い知らされた。


 「あ、そう言うコトなら、俺、行きますよ」

 ロークは銅管を持ったまま走って行った。



 薬師アウェッラーナを加え、メドヴェージの指示で廃車を移動させる。

 「野郎共は横イチに並べ。パイプを梃子(てこ)にして車をあっちに傾けるんだ。姐ちゃんは、上の方を押して向こうへ倒してくれや」


 「わかりました」

 アウェッラーナが【操水】を唱え、廃車から水を抜く。周囲の水溜まりからも回収して、浴槽一杯分程の水塊を作った。

 メドヴェージが廃車の下に銅管を咬ませる。他の三人もそれに(なら)った。


 「いいか? せーので、パイプの端に体重を掛けろ。……っせーのッ!」

 メドヴェージの掛け声と同時に焼け焦げた廃車が浮き、傾いた。水塊が勢いよく廃車にぶつかる。


 クルィーロの手元から抵抗がなくなり、勢い余ってつんのめる。足に力を入れ、何とか踏みとどまった。

 腹に響く重い音を立て、廃車は反対側へ倒れた。


 メドヴェージが会心の笑みを浮かべる。

 「よぉーし! この調子で行くぞ!」



 同じことを四度繰り返し、廃車を駐車場の端へ寄せられた。

 タイヤのない鉄屑はとにかく重く、五人とも肩で息をする。


 「よっしゃ。これで出せる。ご苦労さん。俺ぁ鍵、探しに行ってくらぁ」

 「ありがとうございます。アウェッラーナさんとローク君は休んで下さい」

 クルィーロは、さっさと守衛室へ向かうメドヴェージを追いながら声を掛けた。少年兵モーフは、もうおっさんの横に並んで駆ける。


 疲れた顔のアウェッラーナは、水を解放すると、ロークと連れ立って玄関へ向かった。



 守衛室にも雨が降り込んで、床は水浸しだ。

 「おい、おっさん。トラックのカギって、どんな形だ?」

 少年兵モーフが聞くと、メドヴェージは頭を掻いた。

 「何だ。知らねぇでついてきたのか。しょうがねぇなぁ。まぁいい。車の鍵ってのは、大体、指くらいの長さの金物で、ややこしい形してんだ」

 「ややこしい形って?」

 「えー……あー……見りゃわかる」

 「わかんねーのに、見てもわかんねーよ」


 二人の遣り取りを聞きながら、クルィーロは守衛室をざっと見回した。

 床はガラスやモルタルの破片、ぶちまけられた机の中身などで足の踏み場もない。正面の白い壁に丸い跡が残り、落ちた時計は割れていた。


 奥の隅に「配電盤」と書かれた金属の扉。入口脇にも、その半分くらいの金属の扉。こちらは、「運行管理」と書いたテープが張ってある。


 ……これか?


 クルィーロは把手(とって)を引いてみた。

☆薬師アウェッラーナの予報……「0126.動く無明の闇」参照

☆地下駐車場の出口を塞ぐ廃車……「0130.駐車場の状況」参照

☆運河に水の橋を掛けた時……「0094.展開しない軍」「0095.仮橋をかける」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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