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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第七章 印歴二一九一年二月七日

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0140.歌と舞の魔法

 「はい。【歌う鷦鷯(ミソサザイ)】学派の術は、全部が大掛かりな儀式で、呪文は歌です」

 「歌の儀式……」

 レノが独り言のような呟きを洩らす。


 「えぇ。この学派の術は強力ですが、その分、膨大な魔力が必要です。大勢の術者が同時に呪文を唱えて(まかな)うんですが、それでも足りない時は、力なき民の方に【水晶】を渡して参加してもらうそうです」

 薬師アウェッラーナの説明にレノが確認する。

 「音痴だったら、使えませんよね」

 「そうですね」

 みんな、思わずニヤリとする。


 それを聞いて、クルィーロは思い出した。

 「そう言えば、踊りの方は聞いたコトあるな。【(おど)(スズメ)】学派。こっちも、力なき民が一人でするのは無理だけど、大勢でやる【泉穿(いずみうが)(まい)】とかは手伝えるって」


 「その泉なんとかって、どんな術?」

 レノが興味津々で聞く。

 「井戸掘りの術だってさ」

 「踊りで井戸が掘れンのかッ?」

 メドヴェージが声を裏返らせた。

 「俺らは何カ月も苦労して、穴掘ってるってのに……」


 「魔法でも結構大変みたいですよ。一度見たことがあるんですけど、二十人くらいで輪になって踊るんです。井戸一本掘るのに八時間くらい掛かって、その間ずっとお休みなしで踊り続けるんです」

 アウェッラーナの説明にメドヴェージが息を呑む。

 「……飲まず食わずでか?」

 「えぇ。動きも激しいですし、私にはとても真似できません」

 湖の民の薬師(くすし)が言うと、メドヴェージはどっちも楽じゃねぇな、と首を振って苦笑した。


 ……それって、フツーに重機で穴掘った方が楽じゃないのか?


 クルィーロは、儀式魔術についてよく知らない。思わずそんなことを考えたが、レノたちの手前、口には出さなかった。


 「お歌の魔法、ちょっとだけ習ったよ」

 アマナが算数の教科書から顔を上げた。計算に飽きたらしい。


 「えっ? 最近は小学校で魔法の授業、あんのか?」

 「うぅん。音楽の時間に、先生がプリントくれたの」

 アマナはそう言ってクルィーロの傍へ戻り、鞄から音楽の教科書を出した。間に挟んだプリントを広げて兄に見せる。



 「魔法の歌」と言う表題だ。

 先程、アウェッラーナが説明したことが、簡単な言葉で少し詳しく書いてある。

 呪文が歌の形式を取る術は、【歌う鷦鷯(ミソサザイ)】だけでなく、【青き片翼】など他の学派にも少しある。

 力ある言葉で歌詞を作り、魔力を乗せて歌えば、魔法としての効果を持つ……と言う趣旨のことも書いてあった。



 「えっ? 呪文って新しく作れるのか?」

 クルィーロは驚いてアマナに聞いた。

 小学生の妹が、自信なさそうに小さく頷く。

 「音楽の先生は、ちょっとだけならできるって言ってたよ」

 「そうなんだ。呪文って、ガッチリ決まってるもんだと思ってたよ」


 アウェッラーナも、プリントにざっと目を通して言った。

 「力ある言葉の組み合わせ方で、効力の指定などが変わりますから、理屈の上では幾らでも作れるでしょうね」

 「えっ? じゃあ、何か新しく凄い術を作れたりとか」

 「力ある言葉は、自然言語とは全く違うんです。知識のない人だと、ひとつの呪文に効果を打消し合う言葉を使って、何の効力もない……なんてことも」

 レノの期待に満ちた質問に、【思考する(フクロウ)】学派の術者は首を横に振りながら答えた。

 「それができる方は、導師の称号をお持ちですね」


 幼馴染と目が合う。クルィーロはその答えを頭の中で反芻し、肩を(すく)めた。

 「まぁ、俺は……昔っからある呪文もロクに覚えちゃいないし、力ある言葉もよくわかってないから、新しく作るなんてムリだけどな」

 「どうしても、ムリ?」

 アマナが、がっかりした声で言い、兄を見上げる。


 クルィーロは苦笑した。

 「あぁ。ゴメンな。兄ちゃん、魔法の勉強サボってたから。ちゃんとした呪文もちょっとしか知らないんだ。兄ちゃんは悪い見本だから、勉強できる時にはちゃんとやっとくんだぞ」

 「えー……あー……まぁ……うん」

 アマナは不満を漏らしたが、渋々頷いて算数の勉強に戻った。

 メドヴェージが忍び笑いを漏らす。クルィーロと目が合うと、肩を(すく)めてニヤリと笑った。

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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