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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第七章 印歴二一九一年二月七日

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0139.魔法の使い方

 「ん? なんだ?」

 「それって【魔力の水晶】があれば、誰でも使えるんだよな?」

 「色々条件はあるけど、一応、全く使えない訳じゃないよ」


 「俺に教えてくれないか?」

 クルィーロは驚いて、力なき民の幼馴染を見た。

 レノは真剣そのものだ。悲愴(ひそう)とも言える決意がその目に満ちる。


 「……わかった」 

 クルィーロが力強く(うなず)き、背筋を伸ばす。

 レノは僅かに表情を緩めた。断られなかったことへの安堵に、クルィーロは申し訳ないような気持ちで説明した。

 「そのー……条件ってのがな、一人じゃ使えないってコトなんだ」

 「どう言うことだ?」


 クルィーロは、魔法使いの私塾で教わったことを思い出しながら答えた。

 「魔法を使うには基本、ふたつの力が必要なんだ……」



 ひとつは魔力。

 簡単に言うと、エネルギーとそれを貯める器だ。

 生得的な力で、これは鍛えて伸ばすことも、手放すこともできない。後天的に得られる力ではない。


 ひとつは作用力。

 魔力を用いる能力だ。修行で伸ばすことはできる。

 魔術とは「魔力を用いる技術」を指し、その方法として「魔法」とも呼ばれる。

 魔力はあっても作用力のない者は、自力では魔術を行使できない。呪符や魔法の道具があれば、自前の魔力を消費して術を行使できる。

 魔力のない者には、作用力もない。



 「……だから、ローク君が持ってる【魔除け】の護符みたいな道具を使うとか」

 レノは口を挟まず、クルィーロの説明に何度も頷きながら耳を傾ける。

 ロークが持つ【魔力の水晶】には作用力を補う効果はなく、単に魔力を蓄積する充電池のようなものだ。

 「……鉄鋼公園や、あの晩……運河でお巡りさんにやってもらったみたいに、誰か魔法使いと協力して、術の威力や範囲を大きくする補助として参加する……くらいで……」

 クルィーロは、いたたまれなくなって説明を終えた。


 レノがきっぱりと言う。

 「それでもいい。少しでも……力が欲しいんだ」

 「……そうか」


 力ある民のクルィーロは、複雑な思いで幼馴染の決意を受け止めた。


 魔力は生まれつきのものだ。

 家族の中で一人だけ魔力を持って生まれ、子供の頃はイヤで(たま)らなかった。

 塾もサボってばかりだった。最低限の魔力の制御方法と少しの術を身に着けただけだ。


 今になって、もっと真面目に修行しておけばよかったと後悔した。

 今なら、工場で働きたいと言った時、先生たち周囲の大人が反対したことに納得できる。


 力なき民にとって、喉から手が出る程、欲しい力。その有無が様々な格差や断絶を生み出した。

 力なき民のレノにとって、教えを乞うことにも、多大な勇気を振り絞らなければならない危険な力。


 それが、魔力であり、魔術だ。


 クルィーロは、そっと星の道義勇兵を(うかが)った。

 三人は教科書を囲んで勉強会に余念がない。いつの間にかロークも加わって、字の書き方を云々する。


 ……聞こえないフリしてくれてんだろうな。


 何となく空気を読み、クルィーロはレノの目を見詰め返した。

 「えっと、つまり【魔力の水晶】で使える術と、そうじゃない術があるんだ」

 「うん。どの術なら使えるんだ?」

 「えーっと……呪符か道具があればイケる術と、誰かと同時に呪文を唱えて、とちらなきゃ何とかなるのがある」


 レノはメモを取りながら、クルィーロの(つたな)い説明に聞き入った。

 エランティスが、窓の目張りで余った紙を束ねて作ったメモ帳だ。


 「紙はあるけど、呪符って、これで作れないのか?」

 「えっと、それは……」

 クルィーロが言い淀むと、薬師(くすし)アウェッラーナが助け船を出してくれた。

 「私も詳しくは知らないんですけど、呪符は術によって使う紙やインクが違うそうなんです」


 「書き間違えないようにってだけじゃなくって、材料も、他じゃ代えが利かないんですか?」

 レノの質問にアウェッラーナが頷き、緑髪がふわりと揺れた。

 「そうみたいです。作る人と魔力を籠める人は別でもいいから、呪符の職人さんには、力なき民の方も居るそうですよ」


 「へぇー。知らなかった」

 レノが感心し、クルィーロも意外なことを知って目を丸くする。

 ロークも話に加わった。

 「俺の友達、その職人目指してて、この護符も練習で作ったのをくれたんです」


 少年兵モーフは、教科書の文字を書き写すのに夢中だ。その手元をメドヴェージがやさしい目で見守る。


 ソルニャーク隊長は、ロークを見てアウェッラーナに視線を転じて聞いた。

 「そういうものなのか」

 「えぇ。他には、呪文の文字を織り込んだ舞で行使する術や、呪文が歌になっている術もありますね」

 「歌や踊りで?」

 レノたちだけでなく、メドヴェージも驚いて顔を上げた。

☆鉄鋼公園や、あの晩(中略)補助として参加……鉄鋼公園「0023.蜂起初日の夜」おまわりさん「0068.即席魔法使い」参照

☆ロークが持つ【魔力の水晶】……「0060.水晶に注ぐ力」参照

☆ローク君が持ってる【魔除け】の護符……「0068.即席魔法使い」参照

☆工場で働きたいと言った時、先生たち周囲の大人が反対……「0029.妹の救出作戦」参照

☆その有無が様々な格差や断絶……就職差別「0107.市の中心街で」参照

☆俺の友達、その職人目指して……「0131.知らぬも同然」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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