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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十五章 探訪

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1316.きな臭い噂話

 「おいおい、素材買って来いつったのに、何で本人連れて来てんだ?」

 ロークに呼ばれた店長が、カウンターに出て半笑いになる。

 スキーヌムは肩を落として(うつむ)いた。


 「はははっ。冗談だよ。ほら、店長さん笑ってるだろ」

 レノがスキーヌムの細い肩に手を置くと、お使いから帰った少年は恐る恐る顔を上げた。

 「俺が聞きてぇのはプートニクさんの方だよ。……こっちに来るなんて珍しいって言うか、初めてじゃありませんか? 店、どうしたんです?」

 アルバイトの少年に苦笑して、素材屋プートニクに顔を向ける。


 王都から来た素材屋はカウンター席に腰掛け、戸口で大きな缶を抱えるスキーヌムに顎をしゃくった。

 「ずっと持ってたら重てぇだろ? 片付けて来いよ」

 「は、はい」

 「素材、そン中か? 【無尽袋】はどうした?」

 「あ、あのっ……」

 「あぁ、その缶は小僧が別の仕事もしてくれたんで、その報酬だ。品物はちゃんと入れてたぞ」



 スキーヌムが奥へ引っ込むのを見届け、クルィーロはカウンターに声を掛けた。

 「ありがとうございました。宿代と食費のお釣りです。スキーヌム君、ちゃんとお使いできてましたよ。俺たちが買出しに行ってる間、荷物の番もしてくれましたし」

 「えっ? ホントに?」

 ロークがお茶の用意をする手を止める。

 「そんな驚くコト?」

 「この島なら、フツーにお使いできるんだろ? 王都でも変わんないよ」

 レノが半笑いで首を傾げ、クルィーロが軽く言うと、ロークは不承不承(ふしょうぶしょう)頷いて作業に戻った。


 「店長さん、素材はどこに置きましょう?」

 スキーヌムが奥から声を掛ける。

 「鞄ごと作業台に置いといてくれ。絶対、開けるんじゃねぇぞ」

 「はい!」

 クルィーロは、明るい返事にホッとした。



 「今、アーテルじゃ、魔獣がわんさか湧いてんだろ?」

 素材屋プートニクがお茶を受け取り、ゲンティウス店長に確認する。

 「あぁ。お陰でウチは儲けさせてもらってますがね」

 「何だ? 儲かっちゃ困るコトでもあんのか?」

 「きな臭い話を小耳に挟んだもんで」

 素材屋プートニクが前のめりに聞く。

 「聞かせてくんねぇか? この兄さんたちに本土領の街に出た魔獣の種類や何かを教えてもらってな。そんだけ色々居るんなら、ちょっと仕入れようと思って来たんだ」

 ゲンティウス店長は、レノとクルィーロに目を向けたが何も言わず、元騎士プートニクに向き直った。


 「勿論(もちろん)、情報料は出す」

 「我々……ランテルナ島民に関係あるコトなんですゎ。後で本土の様子を教えていただけるんでしたら、それが情報料ってコトでお話しますよ」

 呪符屋の店長がやけに下手(したて)に出る。

 「何が知りたい?」

 「本土の連中は、狩っても狩っても次々魔獣が涌いて出て、一向に減らないモンだから、我々が召喚して街に放して、マッチポンプで儲けてるって噂してるそうなんです」

 「実際のトコどうなんだ?」

 プートニクが、目に凄みのある笑み含ませ、店主を見る。


 ……ネモラリス憂撃隊の呪符職人さんの仕業じゃないかな?


 クルィーロは口には出さず、長命人種二人の遣り取りを見守る。



 ネモラリス人の武装ゲリラ組織ネモラリス憂撃隊は、拠点のひとつをランテルナ島の森に置く。

 老婦人シルヴァとピアノ奏者スニェーグの親戚が所有する別荘だ。

 シルヴァは開戦からずっと、アーテル共和国に復讐を誓うネモラリス人らを別荘に集め、様々な術で隠された物件を拠点として活用する。

 スニェーグは快く思わないが、従妹(いとこ)を止められないでいた。



 「とんでもない。あっちは力なき民とは言え、多勢に無勢。こっちは魔法使いったって戦える人数は知れてますし、去年のアレも結局、戦車部隊を素通りさせるしかなかったってのに」

 「何だか知らんが、要するにこの街の住人が召喚したワケじゃねぇんだな?」

 「飛べるヤツはこっちに流れてくるかもしれんのに、そんなコトする奴ぁ居ねぇと思いますよ」

 元騎士プートニクはカウンターに両肘をつき、ロークが淹れた温香茶を啜る。


 「業者の数が知れてる上に倒しても倒しても追っつかねぇ。屋上の奴まで手が回んねぇンですよ。なのに連中、屋上に魔法陣描いてそこで呼ぶから、魔獣を括って魔法陣の番をさせてやがるとかなんとか、勝手なコト言ってるそうなんです」

 「とっつぁんはそのハナシ、誰から聞いた?」

 「ウチに買いに来た駆除屋が、何人も似たようなコト言ってましたよ」

 「そいつらは、誰から聞いた?」

 「本土の店でメシ食ってたら、他の客が聞えよがしに言ってたそうです」


 わかりやすいイヤミだ。

 店内で地元民と事を構える程、後先考えない駆除業者は居ない。

 クルィーロは、言い返さないのをわかった上でそんなことをするアーテル人の品性を疑った。


 「爆発が始まってすぐの頃は感謝してた癖に、すぐコレだって怒ってます」

 プートニクが頷いて先を促す。


 ……そんな扱いされても、まだ行くんだ?


 クルィーロには、ランテルナ島の魔獣駆除業者が、どんな気持ちで仕事を引き受けたのか、想像がつかない。


 緑髪の呪符屋は同じ色の眉を下げて言った。

 「まだ、お礼を言う人も居るってなコトも言ってましたがね。用心の為にメシはこっち帰って食うか、保存食持ってってるそうです」

 「何の用心だよ」

 素材屋プートニクが、イヤな予感を誤魔化して笑う。

 「一服盛られねぇ用心ですよ。元々、本土のキルクルス教徒とは信頼関係も何もあったモンじゃねぇ。向こうはこっちを人とも思ってねぇんだ。用心するに越したこっちゃありませんぜ」

 いつの間にか出てきたスキーヌムが、カウンターの端で顔を引き攣らせる。


 一時期、ルフス神学校に潜入したロークが、無言で深く頷いた。

☆絶対、開けるんじゃねぇぞ……「1302.危険領域の品」参照

☆様々な術で隠された物件……「254.無謀な報復戦」「315.道の奥の広場」「316.隠された建物」参照

☆スニェーグは快く思わないが、従妹(いとこ)を止められない……「773.活動の合言葉」参照

☆去年のアレも結局、戦車部隊を素通りさせる……「449.アーテル陸軍」「455.正規軍の動き」参照


挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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