0135.お菓子を作る
二時間ばかり休んで、みんな目を覚ました。
今度は全員が交代で食堂へ上がり、食糧の残りや食器、ラップ、ゴミ袋やアルミホイルなどを下ろす。
ティスが応接間の戸棚で飲み物の類を見つけた。
「いい物見つけてくれて助かるけど、壊れた部屋は危ないからな。今度から勝手に入らないでくれよ」
レノは、礼を言ってから妹を叱った。
ティスはしょんぼり俯いたが、レノが安全そうな作業を頼むとすぐに気を取り直し、張り切って取り掛かった。
小学生のアマナとティスも、階段で五階まで往復する件に文句ひとつ言わなかった。作業後は随分、表情が落ち着いた。みんなと同じことをして、役に立てた充実感を持ったからだろう。
……やっぱ、何かやるコトあれば、気が紛れていいんだろうな。
レノは下ろした食糧などを整理、分類し、袋や段ボールに片付けながら考えた。
子供たちにできることは限られる。だが、万が一を考えると、一人でも生きて行けるように何でもさせた方がいいような気もする。
ティスは小学校に上がってからずっと、母とピナに教わりながら家事や店の手伝いをした。
会社員家庭のアマナがどうかは知らない。仲良しの二人が一緒なら、何とかなりそうな気もする。
「ピナとティス、天気が良くなったら、クッキー作ってくれよ」
「クッキー? いいの?」
中学生の妹が首を傾げる。こんな状況で、暢気にお菓子作りをする余裕なんてない、と言いたげだ。
レノは、みんなを見回して言った。
「思った以上に小麦粉があります。でも、生の粉じゃ食べられません。クッキーなら日持ちするし、運びやすくてカロリーも高いんで……」
ソルニャーク隊長が頷くのを視界の端で捕えて続ける。
「卵はないけど、小麦粉と砂糖とバターはあります。さっき上でベーキングパウダーと、ココアとインスタントコーヒーも見つけました」
「わかった! 保存食として作るのね。フライパンとホイルもあるし、何とかなりそう」
ピナが了解する。
レノは笑顔で妹に頷き、幼馴染の妹に言った。
「力仕事だけど、アマナちゃんも手伝ってくれるかな?」
「いいよ! やるやるー!」
元気いっぱいな答えに場が明るくなった。
湖の民アウェッラーナの見立てでは、明日の昼頃には雨が止むか、弱まるのではないか、とのことだ。
今の内に準備を整える。
ピナが、厨房から下ろした計量カップで小麦粉を計り、ビニール袋に入れた。
スティックシュガーは一本3グラム。本数を数えて粉と一緒に袋に入れ、脱脂粉乳とベーキングパウダーをティースプーンで追加する。
ティスがその袋の口を握り、激しく振って混ぜた。
中の粉が落ち着くのを待って、バターを足し、袋越しに握って粉を練り込む。
メドヴェージが、粉の袋に手を伸ばす。
「お? 結構、大変そうだな。おっちゃんも手伝ってやろうか?」
「いいの! 私、プロだもん。素人は引っ込んでて」
「お嬢ちゃん、こんなちっこいのに、プロなのか?」
「うん。お店用のクッキーも、お手伝いしてたもん」
「そうか。そいつぁ頼もしいな」
メドヴェージが笑うと、ティスは袋をしっかり握って、ふんぞり返った。
アマナに向き直り、早口に言う。
「アマナちゃんは、プロのお兄ちゃんがお手伝い頼んだからいいの」
「うん。じゃあ、代わって」
結局、ティスとアマナが交代で生地を捏ね、他の者に手を出させなかった。
プレーン、ココア味、コーヒー味。
その他、砂糖を入れず、塩と細かく刻んだチーズを混ぜた生地も用意した。
生地をラップに包んで袋に入れ、明日まで休ませる。
焼くのは雨が上がってからだ。




