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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十五章 探訪

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1311.はぐれた少年

 レノは、焦りと後悔で胸を焼き焦がされながら人混みを見回した。

 参拝客の群にあの淡い色の髪を捜すが、小柄な元神学生は見当たらない。


 クルィーロがのんびりと諦めを口にする。

 「人多いし、初めてで物珍しくて、ずっとキョロキョロしてたし、仕方ないよ」

 「仕方ないって、おいッ!」

 レノは思わず声を荒げてしまい、慌てて口を押さえた。


 「置いて帰ったりするもんか。ただ、やたら焦って俺たちまで迷子になったら、もっと困るだろ?」

 ひとつ年上の幼馴染は、神殿の通路に視線を巡らせながら言った。

 混雑する通路では、人の流れに逆らうどころか、立ち止まることさえできない。


 ……大声で名前呼ぶのはマズいよな。


 スキーヌムは、アーテル本土の出身だ。

 キルクルス教徒ばかりの()の地では、呼称を付ける習慣はないだろう。魔法使いが大半を占めるここで、真名(まな)を大声で連呼するのは(はばか)られた。


 ……呼称がないのって不便だよな。


 スキーヌムがレノたちを呼んでくれればいいのだが、どんなに耳を澄ませても、参拝客のお喋りの中にあの少年の細い声は聞こえなかった。


 「取敢えず、俺は神殿の出口辺りで捜すよ。先に出たかもしれないから、レノは敷地内を見て回って……時計持ってる?」

 「うん」

 「じゃ、みつかってもみつからなくても、三十分後に神殿の正門入ってすぐの掲示板とこで集合。いい?」

 「わかった」

 二人は人波に揉まれながら、視線だけでスキーヌムの姿を求めたが、みつからなかった。


 ……こんなコトなら、ずっと手を繋いでればよかった。


 流石にそこまで子供扱いするのはどうかと思い、励ます時に少し触れるだけに留めてしまった。



 スキーヌムは【跳躍】などの帰る手段を持たない。

 初めての土地で、知り合いも居ない。

 今夜の宿も未定だ。



 はぐれた時の集合場所を事前に決めなかったのが、悔やまれてならなかった。

 彼にとって心当たりの場所は、先程の素材屋と荷物を預けたカフェだけだ。どちらもこの神殿の近くだが、道順がわかるだろうか。

 レノは、スキーヌムの心細さを思うと居ても立っても居られなかった。

 神殿から出る列は、遅々として進まない。


 ……俺たちを捜して通路をウロウロしてるとか?


 「一方通行です。通路では前のお方に続いて一方通行でお願いします」

 「立止まると大変危険です。前のお方に続いてゆっくり進んで下さい」

 通路にぎっしり詰まる人々は神官と警備員の誘導に従い、誰一人として振り返らず、足を止めない。

 ここで急に止まれば、群衆雪崩を引き起こしかねなかった。



 「じゃ、今から三十分後に正門入ってすぐの掲示板に集合」

 「わかった」

 レノは、高校の入学祝で両親にもらった腕時計をチラリと見て、出口で緩む人の塊から抜け出した。

 訪れたばかりの者は真っ直ぐ神殿へ向かうが、参拝を終えた者たちは三々五々と散り、敷地内の大樹の見物や都の散策へ繰り出す。


 ……うっかり知らない人と手を繋いで、どっか連れてかれたりとか? いやいやいや、あんな人ぎっしりでそんな遠くへ行けるワケない。


 レノは、いつ、どこまでスキーヌムと一緒だったか思い返した。

 祭壇の広間で【魔力の水晶】を捧げた時は、確実に一緒だった。

 後ろに並んだ老人にせっつかれ、慌てて出口方面へ向かった。クルィーロが傍に居たから、てっきりスキーヌムも一緒だと思い込んでしまった。

 クルィーロも、レノをみつけてすぐ動いた。

 二人とも、相手がスキーヌムを見ているだろうと確認しなかったのだ。



 後から後から後悔が押し寄せ、走ったワケでもないのに動悸が激しくなる。




 ……さっきは何で大丈夫だと思ったんだ?


 自分でも、自分の楽観的な判断の根拠がわからない。

 これがティスなら、繋いだ手を絶対に離しはしなかった。

 コトが起こった今なら、自分の行動の問題点が次々みつかる。


 ……高校生ったって、神学校の外には滅多に出ないって、ローク君が報告書に書いてくれてたのに。


 恐らく、こんな人混みも初めてだったのではないか。

 人熱(ひといき)れで気分が悪くなっても、レノたちに遠慮して言えなかったかもしれない。


 ……どこかで倒れて、踏まれて声も出せないなんてコト、ないよな?


 いや、そんな事故があれば、踏んだ者が気付いて神官に助けを求める。

 次々と悪い予想が現れては消えた。



 神殿の敷地内は、神官と誘導の警備員の他、「案内」の腕章を着けたボランティアも居る。大樹の下で、参拝客相手に神話やここに巨木が植樹された経緯などを語る姿が、そこかしこで見られた。


 「あの、連れとはぐれてしまって、陸の民の男の子、見ませんでしたか?」

 「どんな子ですか?」

 「えっと、高校生で、俺より頭ひとつ分くらい背が低くて、淡い金髪で、力なき民なんで、ふわふわのマフラー巻いてます」

 手隙(てすき)の者たちに片っ端から声を掛けて回る。


 「私は持ち場を離れられませんので」

 警備員が、タブレット端末で応援を呼んでくれた。

 到着した警備員に改めて特徴を伝える。

 「何か、オオゴトになっちゃってすみません」

 「いえ、よくあることですから、お気になさらず。水の(えにし)が繋がってすぐ会えますよ」


 レノは二年近く会えない母を思い出し、涙を(こら)えて礼を言った。

※ はぐれた時の集合場所を事前に決め……集合場所を決めた例「0021.パン屋の息子」→数日後に合流できた「0050.ふたつの家族」参照

☆祭壇の広間で【魔力の水晶】を捧げた時……「1309.魔力を捧げる」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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