表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十五章 探訪

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1336/3510

1301.王都の素材屋

 ゲンティウス店長が指定した店は、この間参拝した神殿のすぐ近くだ。


 クルィーロはシルヴァの顔を思い出し、そっと辺りを窺った。相変わらず人は多いが、それらしき老婦人は居ないようだ。


 ……でも、ローク君たちが使ってるって言う魔法の装飾品を使えば、顔なんて幾らでも変えられるんだよな。


 諦めてタブレット端末をつつく。

 店名と所在地を入力すると、すぐに地図情報が出て来た。現在地からの道順も瞬時に表示される。

 「それ、ホント便利だよなー」

 横から覗いたレノが感心する。

 「だよな。発明した人ホント凄い」

 「で、この辺、公衆トイレない?」

 「えーっと、そっち?」

 地図から記号を読み取り、方向を指差す。通りの少し先に巡礼用トイレの標識が見えた。


 「ごめん、ちょっと行って来る」

 「ゆっくりでいいぞー」

 駆け出したレノの背中に声を掛け、(かたわ)らのスキーヌムにも声を掛ける。

 「荷物持っといてあげるから、君も行ってきなよ」

 「いえ、まだ大丈夫です」

 「そう? ……今日、これ持って来た?」

 スキーヌムは頷いて、コートのポケットからタブレット端末を取り出した。

 「君が持ってるって知ってんの、俺とアウェッラーナさんだけだから、今の内にメールアドレス交換しとこう」


 何に驚いたのか、目を丸くしてクルィーロを見詰める。


 「イヤ? 念の為、迷子になった時用に連絡先、交換しようと思ったんだけど」 

 「い、いえ、そんな……ありがとうございます。お願いします」

 クルィーロがメールアドレスを表示し、スキーヌムが空メールを送る。程なく手の中で端末が震えた。

 チラリと見えた画面には、三桁の着信があった。

 スキーヌムが、電源を切ってポケットに仕舞う。


 ……アーテルは通信途絶が続いてんのに何で?


 レノがハンカチで手を拭きながら戻って来た。

 「ごめんごめん。お待たせ―」

 「いいよいいよ。じゃ、行こ」



 インターネットの地図のお陰で、目当ての素材屋はすぐみつかった。

 以前、老婦人シルヴァたちとお茶した店の一本隣の筋だ。


 「こんなとこにあるんだなぁ」

 「不自然な場所なのですか?」

 独り言に質問され、何となく笑みが浮かんだ。

 「不自然ってワケじゃないけど、もっと専門店が集まる通りにあると思ってたから、意外だなって」

 「そうなのですか」

 「さっさとお使い済ませてごはんにしよう。お昼時になったらどこも混むよ」

 レノが店の戸を開けた。



 間口の狭い店は、入ってすぐがカウンターだ。その背後にはたくさんの抽斗(ひきだし)がついた棚と木製の扉が一枚。人の姿はない。

 椅子はなく、三人が横に並んだだけでいっぱいだ。

 いつからあるかわからない古い店だが、清潔で、漆喰の壁にはシミひとつない。落ち着いた雰囲気に何となく居心地の良さを感じた。


 「……スキーヌム君、店長さんの手紙出して、お店の人呼んで」

 「あ、は、はい!」

 レノが囁くと、スキーヌムは耳まで真っ赤になって肩掛け鞄を探った。

 ゲンティウス店長が持たせた交換品や本人の着替えをカウンターに次々出して、底からやっと封筒を引っ張り出す。


 「ん? 何だ? 客かと思ったら、押し売りか?」

 音もなく扉が開き、目付きの悪い黒髪の男性が顔を出した。

 スキーヌムの顔から血の気が引き、あっという間に蒼白になる。

 「あ、あのっ……あの……こ、これっ」

 それでもどうにか、震える手で封筒を差し出す。


 男性が三人に視線を巡らせた。

 付添い二人は無言で使者を見る。


 ……ランテルナ島のお店なら、ちゃんとできるんだ。手助けはナシだよな。


 「何だ? 俺に手紙か? 誰からだ?」

 男性は手紙に触らず、スキーヌムに聞く。

 使者は蛇に睨まれた蛙のように動かない。


 レノが黒い前掛け姿の男性に会釈して、スキーヌムの肩を抱いた。

 「島のお店だったら、ちゃんとお使いできるんだよね?」

 スキーヌムは、蝶番(ちょうつがい)の錆た戸のようにぎこちなく首を縦に動かした。

 何かを察した男性が眉を下げる。どうやら目付きの悪さは元々らしい。


 「外国ったって言葉は同じなんだ。大丈夫だよ。落ち着いて、いつも通りやってごらん」

 レノは軽く肩を叩いて身を離し、男性に目礼した。


 「で、そいつぁどこの誰からの手紙で、何の用で来たんだ?」

 さっきより声音はやさしいが、相変わらず口は悪く眼光は鋭い。

 首から提げた徽章(きしょう)は【飛翔する(タカ)】学派。自らも戦い得る武器職人の証だ。


 挿絵(By みてみん)


 ……武器屋じゃなくて、素材屋さん? 何で?


 彼が恐ろしげな気配を纏うのが「戦う者」だからだとわかったが、呪符屋には魔獣駆除業者たち魔法戦士の客が多い。


 ……コワモテなお客さんで慣れてると思ったんだけどなぁ。


 「あっあのっ……これ……ッ」

 スキーヌムが封筒を差し出す手を更に上げたが、腕全体が震えるせいでブレて宛名も読めない。

 男性が諦め顔で封筒を掴んだ。

 (うつむ)くスキーヌムは気付かないのか、手紙をしっかり握って離さない。

 「おい、お前、何しに来たんだ?」

 「手。ほら、手、離して」

 レノが小声で言いながらスキーヌムの腕を軽く叩く。

 顔を上げて手を離した使者の涙腺は、決壊寸前だ。声もなく男性を見詰める。


 武器職人の証を持つ素材屋は、涙目の使者にそれ以上構わず封筒を裏返した。

 「何だ。竜胆(りんどう)のとっつぁんとこの小僧か。こんなのを弟子にしたって?」

 「いえ、彼は店番のアルバイトなんです」

 レノが庇うように言う。


 「で、あんたらは?」

 「俺が【跳躍】で案内して、また呪符屋さんに連れて帰る約束なんです」

 「あぁ、運び屋さんね。ご苦労さん。で、これは素材の対価か」

 言いながら開披(かいひ)し、呪符屋のゲンティウス店長が(したた)めた内容に目を走らせた。

☆この間参拝した神殿/老婦人シルヴァたちとお茶した店……「1275.こんな場所で」~「1279.愚か者の灯で」参照

☆ローク君たちが使ってるって言う魔法の装飾品……「847.引受けた依頼」参照

☆君が持ってるって知ってんの、俺とアウェッラーナさんだけ……「1123.覆面作家の顔」「1124.変えたい社会」「1158.学びの予定を」参照

☆アーテルは通信途絶……「1218.通信網の破壊」~「1222.水底を流れる」「1223.繋がらない日」~「1225.ラジオの情報」参照

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ