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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第四十五章 探訪

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1297.やさしい説明

 クルィーロは幼馴染のレノと二人で、ランテルナ島の地下街チェルノクニージニクを訪れた。


 「えっ? ローク君、留守なんだ?」

 「はい。今日は運び屋さんのお仕事をする日で、夕方には戻るそうです」

 呪符屋のカウンターでは、元神学生の少年が一人で留守番をする。

 レノがポケットから呪符の買物メモを出した。

 「ミャータ市方面の交通規制が解除されて、移動の目途が立ったんだ」

 「来たついでにローク君にも言っとこうと思ったんだけど……伝言書くから、渡してくれる?」

 「は、はい……あぁッ!」

 頷いた途端、大量の茶葉がティーポットに落ちた。


 「えっと……君、いつも計量スプーン使わないで、袋から直接やってんのか?」

 レノがカウンターに身を乗り出し、スキーヌムの手許を覗いて目を丸くする。元神学生の少年は、レノに何かを恐れる目を向けて固まった。


 「お茶の淹れ方……誰かに教わったコト、ある?」

 「は、はい。お茶屋さんに教えていただきました」

 レノがやさしい声で聞くと、蚊の鳴くような声で返事があった。

 「そのお茶屋さんって、魔法使える人?」

 「は、はい」

 「じゃあ、あんまり参考になんないな」

 レノが座り直すと、店番の少年はお茶の大袋を抱えて(うつむ)いた。


 「そのティーポット、乾いてる?」

 「は、はい。店長さんが洗って下さったので」

 「じゃ、お茶の袋、口閉めて片付けて、小さいビニール袋とティースプーン用意してくれる?」

 レノに言われるまま黙々と動く。

 「ポットに入ったお茶、一旦、小さい袋に入れてくれる?」

 スキーヌムが、スプーンでチマチマ移し始める。

 レノは顔を引き攣らせたが、すぐに笑顔を繕った。

 「あー、ごめんごめん。説明抜けてた。スプーンは後で使うんだ」

 店番の少年が動きを止め、泣きそうな目でレノを窺う。


 ……あー、成程。ローク君、こう言うのがイラつくんだろうな。


 クルィーロは、以前訪れた時のギスギスした空気を思い出して苦笑した。



 「ポットにその袋を被せて逆さにして振って……全部出た? 君も入れて三人分だから、ティースプーンでえーっと、二杯半くらい。あー、そんなキッチリじゃなくていいよ。大体でいいんだ。大体……そうそう。そのくらい。イイ感じだよ」

 レノのやさしい声と笑顔で、スキーヌムは泣きそうな顔ではあるが、辛うじて涙を(こぼ)さずに作業を続ける。


 「残りは湿気ないように空気抜いて、袋の口をぐるぐる(ねじ)って、捻じれたとこを半分に折り曲げて……そうそう、その辺でいいよ。で、その曲げたとこをクリップで留めるんだ」

 スキーヌムは、ひとつ何かする度にレノをちらちら窺う。

 レノは苛立つことなく、次々わかりやすく指示を出した。

 「今回、君の分も淹れるのは味の確認用ってコトで。多分、冷めてもおいしいと思うから、呪符の用意よろしく」

 「は、はい!」

 緊張は(ほぐ)れないようだが、カウンター背後にずらりと並ぶ小抽斗(こひきだし)から迷いなく、メモにある呪符を慣れた手つきで次々取り出す。


 クルィーロは手帳を一枚千切って伝言を書いた。


 今回はどの呪符も在庫があり、すぐに揃った。

 クルィーロが、薬師(くすし)アウェッラーナから預かった魔法薬の余りで支払う。

 「少々お待ち下さい」

 スキーヌムにはまだ鑑定できないらしく、薬の袋を抱えて奥へ引っ込んだ。

 残された二人が、色鮮やかな紅茶を啜る。

 レノの指示で淹れたお茶は、前回と同じものとは思えないくらい美味しかった。


 ……お茶っ葉が悪いワケじゃなかったんだな。



 飲み終わる頃、スキーヌムと一緒にゲンティウス店長も出て来た。

 「兄ちゃんたち、今回も上物ありがとよ」

 「こちらこそ、いつもありがとうございます」

 「こいつが余るってこたぁ、あっちの件は片付いたんだな?」

 「はい。お陰様でミャータ市方面の通行止めが解除されました」

 店長が嬉しそうに聞き、二人の顔も(ほころ)んだ。


 「すぐ移動すんのかい?」

 「いえ、まだみんなの体力が回復しきらないんで、アウェッラーナさんが、念の為に発疹の痕が消えるまで待とうって」

 「プロが言うんなら、その通りにした方がいいな」

 ゲンティウス店長は、クルィーロの説明に深く頷いた。

 「こっちの様子はどうですか?」

 「相変わらずインターネットは繋がんねぇし、本土にゃ魔獣がわんさか居て、駆除屋がそれ系の呪符買ってくから、儲かるっちゃ儲かるけどよ」


 「駆除、進んでないんですか?」

 レノが不安げに聞くと、店長は小さく首を振った。

 「いや、どんどん倒して……実際、支払は魔獣の消し炭やらなんやらが多いんだがよ、倒しても倒しても新手が出て追っ付かねぇっつってたな」

 「誰かが召喚してるんでしょうね」

 クルィーロは、アクイロー基地襲撃作戦を思い出した。

 どうやら、あの小柄な呪符職人は、まだネモラリス憂撃隊に居るらしい。


 「で、物は相談なんだが、この坊主を王都へ連れてってくんねぇか?」

 「えっ?」

 クルィーロとレノだけでなく、スキーヌムも寝耳に水らしく、恐ろしげに雇い主を見上げた。ゲンティウス店長が前掛けのポケットからメモ帳を出し、凄い速さで書いて寄越す。


 店名と所在地、最寄りの神殿からの略地図。

 それにクルィーロが初めて目にする単語が三つだ。単語の横にはそれぞれ数字もある。


 「最近、スクートゥム王国の行商人が来なくなってよ」

 「通信途絶は関係なさそうですけど……?」

 「魔獣がこっちの島にも出るって噂にでもなったのかな?」

 クルィーロとレノは首を(ひね)ったが、ゲンティウス店長にも理由はわからないらしい。太い眉を下げて続けた。

 「ここらじゃ、後はこの店しか扱わねぇ素材でな。数字は【魔力の水晶】で払った時の目安だ」

 「俺たちが仕入代行するんじゃなくて、スキーヌム君を王都に連れて行くだけでいいんですか?」

 クルィーロが確認すると、店長は我が意を得たりと笑みを広げた。

☆ローク君、こう言うのがイラつく/以前訪れた時のギスギスした空気……「1224.分担して収集」参照

☆前回/お茶っ葉が悪いワケじゃなかった……「1225.ラジオの情報」参照

☆駆除屋がそれ系の呪符買ってく……「1232.白い闇の中で」参照

☆アクイロー基地襲撃作戦……「460.魔獣と陽動隊」参照

☆小柄な呪符職人……「398.価値ある勉強」「399.俄か弟子レノ」参照

☆まだネモラリス憂撃隊に居る……「1111.報復の手助け」参照


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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