表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第七章 印歴二一九一年二月七日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

133/3502

0133.休むのも大切

 「モーフ、パイプ集めご苦労。お前も休め」

 ソルニャーク隊長が、少年兵にやさしい顔で命令した。モーフは素直に応じ、床に敷いた布団にしゃがむ。

 「こっちこっち。おっちゃんと一緒にねんねだ」

 長椅子で横になったメドヴェージが、毛布をめくって手招きする。少年兵モーフは露骨にイヤな顔をした。


 「モーフ、一人で寝るより二人の方が暖かい。メドヴェージの所へ行け」

 隊長に命じられ、モーフは渋々メドヴェージの隣に入った。

 「よしよし、いい子だ。風邪引くといかんからな」

 メドヴェージがモーフに毛布を掛ける。

 少年兵はおっさんに背を向け、きつく目を閉じた。メドヴェージは、そんなモーフにやさしい目を向け、何も言わない。


 ……どう言う関係なんだ?


 ロークは、星の道義勇軍の生き残りを不思議に思った。


 クルィーロとアマナ兄妹も、長椅子で寝息を立てる。

 起きて何かするのは、ロークと薬師(くすし)アウェッラーナ、ソルニャーク隊長の三人だけだ。

 隊長は、食事の後を片付けた応接テーブルで、ロークが作ったまとめとニュース原稿を並べて読む。


 アウェッラーナは戸口に立ち術で雨水を集める。

 掃除用バケツは満タンで、飲料水用の即席バケツも、ひとつはいっぱいだ。


 ロークは改めて、屋根のある所でよかったと思った。

 雨でずぶ濡れになったのは、生まれて初めてだ。通学鞄にはいつも、折り畳み傘があった。


 ……あ、そう言や、持って来なかったな。


 あの日、天気が良かったから、雨対策を全く思いつきもしなかった。

 年末のラジオで今年は暖冬と聞いたが、雪が少ないだけだ。ラキュス湖を渡り、ネーニア島を吹き抜ける風は冷たい。


 冷たい雨は、あっという間に身体を芯まで凍えさせた。

 他に生存者が居ても、この雨でどれだけ減ってしまうのか、ロークは考えたくもなかった。


 彼らと一緒でなければ、もう何度、命を落としたことか。

 魔法使いは勿論(もちろん)、ロークは星の道義勇軍の三人にも助けられた。魔力も武力もないロークは、全くの無力だ。


 長椅子をチラリと見遣った。

 小学生のアマナとエランティスが、それぞれの兄に守られて眠る。


 ……これじゃ、女の子たちと変わんないよな。


 手持無沙汰のロークは、ソルニャーク隊長の隣に腰を下ろした。

 「君も、休める時は休んだ方がいいぞ」

 「いえ、大丈夫です。それより、これからどうしましょう?」


 隊長は戸口に目を向けて言った。

 「雨が止むまで動けん。ゆっくり休むことも大切だ」

 「雨が止んだ後は……」

 食い下がるロークに、ソルニャーク隊長は、せっかちだな、と笑って答えた。


 「まず、地下駐車場の出口を塞ぐ廃車を()ける。撤去できれば鍵を探す」

 「鍵を探すのは、雨でもできますけど……」

 ロークは思わず口を挟んだ。


 隊長が、隣の少年に顔を向ける。ロークはしまった、と思ったが、隊長は特に気分を害した様子はなく、淡々と予定を説明した。

 「出庫できなければ、鍵だけあっても仕方がない。……廃車の撤去後、鍵を探す。鍵が見つかったら、トラックの点検。それから出庫だ」


 ソルニャーク隊長はそこで一旦切り、反応を待った。ロークが小さく頷いてみせると、続きを語る。

 「トラックに荷物を積めるだけ積んで、待機。徒歩で周辺の橋を確認し、渡れそうな所があれば、トラックで移動する」

 「何で徒歩で見に行くんですか? 二度手間ですよね?」

 「燃料の節約だ。渡れる場所がなければ、無駄足になる」

 「あっ……」


 以前のように、ガソリンスタンドで気軽に給油できる状況ではない。

 二度と給油できない可能性に気付き、ロークは(うつむ)いた。


 「橋が使えれば、マスリーナ市へ行こう。渡れなければ、食糧が持てる量に減るまでは留まり、水で橋を掛けてもらって移動だ」

 つまり、トラックが使えなければ、食糧が減るまでは放送局に住むことになる。



 ロークは入口を見た。

 全てのバケツを水で満たして、アウェッラーナも長椅子で休憩する。

 雨が降り止む気配はなかった。

☆パイプ集め……「0131.知らぬも同然」参照

☆ロークが作ったまとめとニュース原稿……「0116.報道のフロア」「0128.地下の探索へ」参照

☆あの日、天気が良かった……「0048.決意と実行と」参照

☆冷たい雨は、あっという間に身体を芯まで凍えさせた……「0132.何もない午後」参照

☆ロークは星の道義勇軍の三人にも助けられた……「0077.寒さをしのぐ」「0082.よくない報せ」~「0086.名前も知らぬ」参照

☆地下駐車場の出口を塞ぐ廃車……「0130.駐車場の状況」参照

☆水で橋を掛けてもらって……「0094.展開しない軍」「0095.仮橋をかける」参照

☆マスリーナ市……「0040.飯と危険情報」「0043.ただ夢もなく」「0049.今後と今夜は」「0056.最終バスの客」「0089.夜に動く暗闇」参照


 挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ