0133.休むのも大切
「モーフ、パイプ集めご苦労。お前も休め」
ソルニャーク隊長が、少年兵にやさしい顔で命令した。モーフは素直に応じ、床に敷いた布団にしゃがむ。
「こっちこっち。おっちゃんと一緒にねんねだ」
長椅子で横になったメドヴェージが、毛布をめくって手招きする。少年兵モーフは露骨にイヤな顔をした。
「モーフ、一人で寝るより二人の方が暖かい。メドヴェージの所へ行け」
隊長に命じられ、モーフは渋々メドヴェージの隣に入った。
「よしよし、いい子だ。風邪引くといかんからな」
メドヴェージがモーフに毛布を掛ける。
少年兵はおっさんに背を向け、きつく目を閉じた。メドヴェージは、そんなモーフにやさしい目を向け、何も言わない。
……どう言う関係なんだ?
ロークは、星の道義勇軍の生き残りを不思議に思った。
クルィーロとアマナ兄妹も、長椅子で寝息を立てる。
起きて何かするのは、ロークと薬師アウェッラーナ、ソルニャーク隊長の三人だけだ。
隊長は、食事の後を片付けた応接テーブルで、ロークが作ったまとめとニュース原稿を並べて読む。
アウェッラーナは戸口に立ち術で雨水を集める。
掃除用バケツは満タンで、飲料水用の即席バケツも、ひとつはいっぱいだ。
ロークは改めて、屋根のある所でよかったと思った。
雨でずぶ濡れになったのは、生まれて初めてだ。通学鞄にはいつも、折り畳み傘があった。
……あ、そう言や、持って来なかったな。
あの日、天気が良かったから、雨対策を全く思いつきもしなかった。
年末のラジオで今年は暖冬と聞いたが、雪が少ないだけだ。ラキュス湖を渡り、ネーニア島を吹き抜ける風は冷たい。
冷たい雨は、あっという間に身体を芯まで凍えさせた。
他に生存者が居ても、この雨でどれだけ減ってしまうのか、ロークは考えたくもなかった。
彼らと一緒でなければ、もう何度、命を落としたことか。
魔法使いは勿論、ロークは星の道義勇軍の三人にも助けられた。魔力も武力もないロークは、全くの無力だ。
長椅子をチラリと見遣った。
小学生のアマナとエランティスが、それぞれの兄に守られて眠る。
……これじゃ、女の子たちと変わんないよな。
手持無沙汰のロークは、ソルニャーク隊長の隣に腰を下ろした。
「君も、休める時は休んだ方がいいぞ」
「いえ、大丈夫です。それより、これからどうしましょう?」
隊長は戸口に目を向けて言った。
「雨が止むまで動けん。ゆっくり休むことも大切だ」
「雨が止んだ後は……」
食い下がるロークに、ソルニャーク隊長は、せっかちだな、と笑って答えた。
「まず、地下駐車場の出口を塞ぐ廃車を除ける。撤去できれば鍵を探す」
「鍵を探すのは、雨でもできますけど……」
ロークは思わず口を挟んだ。
隊長が、隣の少年に顔を向ける。ロークはしまった、と思ったが、隊長は特に気分を害した様子はなく、淡々と予定を説明した。
「出庫できなければ、鍵だけあっても仕方がない。……廃車の撤去後、鍵を探す。鍵が見つかったら、トラックの点検。それから出庫だ」
ソルニャーク隊長はそこで一旦切り、反応を待った。ロークが小さく頷いてみせると、続きを語る。
「トラックに荷物を積めるだけ積んで、待機。徒歩で周辺の橋を確認し、渡れそうな所があれば、トラックで移動する」
「何で徒歩で見に行くんですか? 二度手間ですよね?」
「燃料の節約だ。渡れる場所がなければ、無駄足になる」
「あっ……」
以前のように、ガソリンスタンドで気軽に給油できる状況ではない。
二度と給油できない可能性に気付き、ロークは俯いた。
「橋が使えれば、マスリーナ市へ行こう。渡れなければ、食糧が持てる量に減るまでは留まり、水で橋を掛けてもらって移動だ」
つまり、トラックが使えなければ、食糧が減るまでは放送局に住むことになる。
ロークは入口を見た。
全てのバケツを水で満たして、アウェッラーナも長椅子で休憩する。
雨が降り止む気配はなかった。
☆パイプ集め……「0131.知らぬも同然」参照
☆ロークが作ったまとめとニュース原稿……「0116.報道のフロア」「0128.地下の探索へ」参照
☆あの日、天気が良かった……「0048.決意と実行と」参照
☆冷たい雨は、あっという間に身体を芯まで凍えさせた……「0132.何もない午後」参照
☆ロークは星の道義勇軍の三人にも助けられた……「0077.寒さをしのぐ」「0082.よくない報せ」~「0086.名前も知らぬ」参照
☆地下駐車場の出口を塞ぐ廃車……「0130.駐車場の状況」参照
☆水で橋を掛けてもらって……「0094.展開しない軍」「0095.仮橋をかける」参照
☆マスリーナ市……「0040.飯と危険情報」「0043.ただ夢もなく」「0049.今後と今夜は」「0056.最終バスの客」「0089.夜に動く暗闇」参照




