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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第七章 印歴二一九一年二月七日

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0130.駐車場の状況

 地下一階は予想通り、自家発電やポンプなどの設備室だった。

 来客の目に付く案内板では「一階 受付・ロビー」の下は「地下二階 駐車場」だけの表示だ。



 設備室の隣は燃料保管庫で、法令の定めに従って部屋全体に【耐火】の術が厳重に施され、部屋本体も難燃建材の(はず)だ。

 戸は開いたままで、入り口付近には、空の燃料タンクが幾つか転がる。


 部屋は衝立(ついたて)で三つに仕切られ、突き当りの壁にはそれぞれ、重油、ガソリン、軽油と書いてある。

 ガソリン置き場には何もない。

 重油と軽油は、それぞれ【耐火】が施された色違いの容器が数個、奥に見えた。


 「ガソリンは避難用に持ってったのか」

 トラックの免許を持つメドヴェージが呟いた。

 「そうですね。重油は発電機用なんで、残したんでしょうね」

 「軽油があるということは、トラックも所有しているのだな」

 クルィーロが同意すると、ソルニャーク隊長は軽油を数えて言った。



 取り敢えず、ここはそのままにして駐車場へ降りる。

 広さはよくわからない。クルィーロの【(あかり)】では光量が足りず、駐車場全体を見通せなかった。

 乾いた靴音が、コンクリート打ちっ放しの空間に反響する。排気ガスの残り香が鼻を突いた。


 ……ビルの地下全部と、隣の駐車場の地下を足したくらいかな?


 クルィーロは、なんとなく考えながら術の範囲外も見回す。

 雑妖は視えない。

 レノたちが見たと言う闇の塊が居ても、暗くてわからないだろう。

 遠くに外の光が見えた。


 「そうだな……壁沿いに歩こう。【灯】の範囲ギリギリ、距離を取ってな」

 ソルニャーク隊長の提案に従い、駐車場内を探索する。


 魔法の青白い光が壁伝いに移動する。光が届く範囲内に車はない。コンクリートの床に白ペンキで線を引いただけの空きスペースが続く。

 白線の上を歩き、突き当りで折り返した。

 端の区画……階段から対角の位置に一台、四トントラックがぽつんと残る。

 荷台には、ラジオ番組のロゴマークが描いてあった。

 懐かしさと喜びに思わず声が弾む。


 「あッ! これ……」

 「知っているのか?」


 魔法の光に照らされるのは、中学の創立二十周年記念の催しに来た車輛だ。地域を挙げての大きなお祭りで、番組パーソナリティーとゲストの歌手が生中継した。


 クルィーロたちの母校は、彼らの作戦で焼失した。


 苦い思いを飲み込み、表情を引き締めた。

 「はい。公開録音や生中継用のイベントカーですよ。荷台がステージなんです」

 「へぇー。そんなもんがあるのか」

 元トラック運転手のメドヴェージが、感心して運転席へ回る。クルィーロも、計器がよく見えるように【灯】の(ほうき)を手について行く。


 「燃料は……っと、なんだ。満タンじゃねぇか」

 「専属の運転手が不在か、人が乗れる場所が少ないから、残したのだろう」

 メドヴェージが拍子抜けし、隊長が推測を述べる。


 クルィーロは努めて明るい声で聞いた。

 「鍵があればイケるってコトですか?」

 「あぁ……まぁ……」

 「あれば、な」

 おっさん二人は、溜め息交じりに顔を見合わせた。


 一応、ドアに手を掛けてみたが、やはり鍵が掛かっている。

 「どこにあるんでしょう?」

 クルィーロは諦めきれず、二人に聞いた。

 メドヴェージは腕組みして目を閉じ、考え込んだ。


 「う~ん……そうだな……俺が居た工場じゃ、管理人室で保管箱に入れてたな」

 「成程(なるほど)。では、一階の守衛室を当たってみよう。そこになければ総務」

 「あ、そっか。そこにもなければ、編集かイベント担当の部署を探すんですね」



 壁伝(かべづた)いに歩き、駐車場の出口から地上へ上がる。

 「あっ……」

 誰からともなく声が漏れた。


 地下駐車場の出口を廃車が(ふさ)ぐ。

 徒歩なら出られるが、トラックでは無理だ。


 近くのアスファルトに大穴が口を開ける。爆風で飛ばされた廃車は裏返しだ。

 焼け焦げた車内に死体はないが、鍵もない。空襲当時は無人だったらしい。


 「これでは、鍵をみつけても出せんな」

 ソルニャーク隊長が太い息を()く。

 「隊長、鉄パイプか何か頑丈な棒が二、三本ありゃ、梃子(てこ)にして動かせますぜ」

 「そうか。ならば、雨が降る前に探しに行こうか」

 一旦、玄関ホールに引き上げる。



 ソルニャーク隊長が、簡潔に報告した。

 無事なトラックと燃料はみつけたが、鍵と鉄パイプがなければ、トラックを動かせない。


 「パンの仕込みが終わったんで、どっちでも行けますよ」

 「俺も大丈夫です。ニュースのまとめができたんで、後で説明します」

 レノと高校生のロークが言うと、少年兵モーフも手を挙げた。

 「俺、鉄パイプ探しに行って来るッス」


 ソルニャーク隊長が一同を見回した。

 クルィーロも人選を考える。

 この辺りには、雑妖を気にしないなら、寒さを(しの)げる場所が多い。


 ……こないだみたいなコトがあるとヤベーし、女の子たちに行かせんのはマズいよな。


 だからと言って、男衆が全員出払うのも危険だ。少なくとも一人は戦える者を残した方がいい。

 クルィーロは、ソルニャーク隊長の桁違(けたちが)いの強さを思い出し、無精髭に覆われた顔を見た。


 アマナがクルィーロの隣に座り、ツナギの(そで)を掴む。

 何も言わないが、兄に行って欲しくないのだろう。クルィーロは妹の手を取り、そっと両手で包み込んだ。

 ピナティフィダとエランティスも、レノに不安な眼差しを向けた。

☆ニュースのまとめ……「0129.支局長の疑惑」参照

☆こないだみたいなコト……「0082.よくない報せ」~「0086.名前も知らぬ」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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