1264.広告塔の活動
「こーこくとーとしての本格的な活動って何するんですか?」
針子のサロートカが好奇心で瞳を輝かせて、黒い瞳に自信を漲らせるアルキオーネの答えを待つ。
「誰かの代わりに伝えたいことを伝えるのよ」
針子の二人が揃って首を傾げると、アイドルグループのリーダーはもどかしそうに説明を重ねた。
「例えば、何かの商品を売る時、メーカーの社員が自分で言ってもいいけど、それより、ファンの多い芸能人やスポーツ選手とかが代わりに言った方がたくさん売れるのよ」
アミエーラは、自治区で聞いたラジオの広告を思い浮かべた。
……ニュースとは別の……広告専門の係の人が読み上げてたわね。
言われてみれば、滑舌の悪い素人が原稿を読んだのでは、商品名すら伝わらないかもしれない。サロートカも同じことを考えたのか、二人は同時に頷いた。アルキオーネが満足げに頷き返すと、平和の花束の面々はホッと肩の力を抜いた。
ひとつ咳払いして、アルキオーネが続ける。
「で、アミエーラちゃんにもファンがついたことだし、広告塔としての活動にも参加してもらおうかなって思うんだけど、どう?」
「どうって……何を宣伝するの?」
ラクリマリス王国のAMシェリアクでの特別番組「花の約束」は、二回で放送を終えた。広告主の総合商社パルンビナ株式会社が、三回目の番組枠買取りをしないと決定した為だ。
「今、ネモラリスはワクチンが足りなくて困ってるんでしょ?」
「報告書、大変そうなコト書いてあったって言ってたよね」
浮ついた気持ちが一瞬で吹き飛んだ。
「でも、外交官の人たちが頑張って買えるようになったって、ラクエウス先生たちが言ってたでしょ」
食事時に簡単な報告を聞いただけで、まだ最新版には目を通せていない。
タイゲタがパソコンの画面を切替えて言った。
「ワクチンを買うにはおカネが要るよね」
「でも、今のネモラリスは空襲で工場とかが燃えて……」
「国庫は火の車だし、外貨を調達する手段がないってラゾールニクさんたちが話してるの聞いちゃったのよね」
初めて目にするサイトだ。
寄付を募る様々な言葉がそこかしこに散らばる。
「ワクチン代を寄付して下さいって呼掛けるの?」
「そうそう。わかってんじゃない!」
アルキオーネに笑顔で抱きつかれ、アミエーラは困惑した。
「インターネットで呼掛けるってコトは、外国の人でしょ?」
「そうよ。接続環境だけじゃなくって、クレジットカードとかも要るし」
後半はよくわからなかったが、質問を続ける。
「でも、関係ない国の人がワクチン代だけ寄付してくれるの?」
……歌の寄付は、難民支援全体って言うか、国際機関宛だからまた別よね。
アルキオーネが身を離し、不敵な笑みで頷く。
「それこそが、広告塔の腕の見せ所なのよ」
「ネモラリス人のカワイイ女の子が、ワクチン足りなくて困ってるんです、助けてって言ったら、男性ファン……アミエーラちゃんが言えば、ファンじゃなくてもイチコロよ」
リーダーの隣でアステローペが力説すると、豊満な胸が揺れた。アミエーラは余計なことを言わないよう、自分の三倍くらいありそうな塊からパソコンの画面に視線を戻した。
「えっ? あれっ? これって……」
アミエーラが指差すと、タイゲタはその一文を矢印でつついて、別の画面を開いた。キルクルス教のボランティア団体が、アーテルの通信網を仮復旧させる資金を募るページだ。
プロフィールによると、団体の本部は、バルバツム連邦のサンデラエ市にあるらしい。
〆切までまだ日数が残るが、既に目標額の五倍以上も集まり、団体は昨日付で感謝のコメントを発表した。
エレクトラがアミエーラの肩に手を置く。
「ねっ。アーテルだって、戦争と直接関係ない国の人が募金活動してるんだし、私たちはダメなんてコトないのよ」
「私たちも、ここに“募金して下さい”って載せるの?」
「違うわ。私たちは飽くまでも広告塔。実際、このサイトにページを開設しておカネ受取るのは、ワクチンの買付けをする人にしてもらわないと」
アルキオーネが言うと、サロートカが聞いた。
「買付けってマリャーナさんの会社?」
「えっと……どっか、外国に行った外交官の人って言ってなかったっけ?」
聞き返され、一同、首を捻る。
しばらく待ったが、誰も答えない。
みんなもリーダーと同じくらいの認識しかないようだ。
「どの途、私たちだけじゃ決めらんないし、動画の撮影とかも頼まなきゃだし、何をしたいかまとめてラクエウス先生たちに相談しましょ」
アルキオーネが言うと、タイゲタは白紙のテキストファイルを開いた。
ファーキルは今日、ラゾールニクと一緒にどこかへ出掛けて留守だ。
アルキオーネが、いつもファーキルが座る席に腰を降ろすと、他のみんなも椅子を引き寄せてタイゲタの周囲に座った。
「今から言うコト書き出してもらって、ここはこうした方がいいんじゃないってトコがあったらみんなで相談して、決まったら、先生たちに印刷した紙を渡して説明。ここまでいい?」
リーダーの確認にみんなは頷いた。
☆AMシェリアクでの特別番組「花の約束」
第一回放送……「1014.あの歌手たち」~「1018.星道記を歌う」参照
第二回放送……「1149.一時間の番組」~「1151.知るきっかけ」「1153.繋がった記憶」~「1155.半人前の扱い」参照
☆ネモラリスはワクチンが足りなくて困ってる……「750.魔装兵の休日」「0976.議員への陳情」「1050.販売拒否の害」「1056.連絡の可否は」「1058.ワクチン不足」「1090.行くなの理由」「1117.一対一の対話」「1118.攻めの守りで」「1167.流れを変える」「1202.無防備な大人」「1247.絶望的接種率」「1248.深まる不安感」参照
☆報告書、大変そうなコト書いてあった……「1242.蓄えた備えで」~「1249.病の情報拡散」「1251.感染者を隔離」「1252.病で知る親心」「1259.割当ては不明」参照
☆国庫は火の車だし、外貨を調達する手段がない……「750.魔装兵の休日」「807.諜報員の作戦」「850.鱗蜘蛛の餌場」参照
※ 細々と輸出を継続……「825.たった一人で」「1146.交流とラジオ」参照
☆歌の寄付は、難民支援全体って言うか、国際機関宛……「290.平和を謳う声」「291.歌を広める者」「767.急増する難民」参照
☆アーテルの通信網を仮復旧させる資金を募る……「1241.資金を集める」参照
☆外交官の人たちが頑張って買えるようになった/外国に行った外交官の人……ルニフェラ共和国に駐在するザミルザーニィ大使「1195.外交官の連携」「1249.病の情報拡散」「1256.必要な嘘情報」「1258.揺さぶる伝言」参照




